百二十三話 魔物達を統べる者
「え...は?」
アリスは目の前の状況が理解できなかった。目の前にいるのはアンバーグ。だがアンバーグは呪われた杖という杖の代償で...アリスもその姿をちゃんと見たはずだ。返事もない動く気配もない生命の活動を完全に終えているアンバーグの姿を。
「ん?どうした?何立ち止まってんだ?」
アンバーグの方は少し遠めの位置にいる上に帽子で顔がよく見えていないためこちら側がアリスと気づいていないようだ。
「アンバーグ...どうして?」
「ああ?何で俺の名前を?」
「死霊人形使い」
アリスはふとその言葉を口にした。死霊人形使いはドグロが使う死体を操ることができるという不思議な杖だ。これでガーディスは幼馴染と戦わされなんとか解放したのだ。可能性があるとしたらおそらくこれしかない。アリスは「だったら...!」と剣を出し勢いよくアンバーグへと向かっていく。
「おい!お前...ってアリスか!?」
「っ!!」
アンバーグに向かって攻撃をしようとするがその手は止まる。剣をしまい勢いよくアンバーグへと向かっていった。
「おい!」
「あなた本当にアンバーグ?どうしてここにいるの?あなたは....」
「待て待て!!何でお前がここにいる!?」
「それはこっちのセリフ!!」
「いかが致しましたか...って何やってるんだお前!」
騒ぎを聞きつけてやって来たアリスと同じ服の警備兵はそう言いながらアリスの方に近づいてくる。もう訳がわからなくなったアンバーグは、「ちょっとお前ら全員落ち着けぇぇぇぇ!!」と叫んだ。
「なるほど、お前たちがここに来た理由はわかった」
そう言うアンバーグの目の前にはアリスとマックスヒーローズ、そしてゲルム。テティがいなくなった事情を知りアンバーグは納得した。
「それで、あなたは本物なの?」
「いや、偽物とかあるのか?本物だって!正真正銘!」
「何があったんだ?」
「それが...」
アンバーグは語り出す。アンバーグはあの後確かに死んだ。呪われた杖の力で、呪いをかける代わりに自分の命を犠牲にした。その後は暗闇の中だった。どこにいるかもわからない暗闇。
何も見えず何も聞こえない空間でアンバーグは何かを言いながら手を伸ばす。だが自分が発した言葉すら聞こえず手を掴んでも何もない空間には掴めるものすらない。
「は?」
だが次の瞬間には見知らぬ場所にいた。先ほどの真っ暗の場所ではない場所。自分の姿も見えるし、声も聞こえる。目の前には女性の姿。その姿はまごうことなき世界創設士のノアだった。
「来ましたか」
「あなたは...?」
「世界創設士とでもお呼びください。ここにあなたがいる理由は一つあなたを復活するためです」
「そんなことができるんですか!?」
「はい。あなたは退場するには惜しい。もっと貢献してもらわないといけません」
「貢献...あなたのその力は後で大いに役に立つでしょう。では」
そう言うとノアは手を振り上げる。するとパッと目に前の風景がガラリと代わりいつの間にかアンバーグは空の上にいた。そして凄まじい勢いで地面へと落下していく。「うわあああ朝」と悲鳴を上げながら落ちていくアンバーグは地面に到達するとドゴン!という大きな音と共にぶつかった。だが不思議な力でアンバーグ自身に傷ひとつない。
「なんだ?」
「誰かいるぞ!」
そんな登場をしたのだからアンバーグの周りに魔物たちが寄ってくる。そして人間のアンバーグをもの珍しいそうに見ている。
「神からの使いだ!!」
「きっとそうに違いない!」
突如空から現れたものだからそのような事を魔物達は口々に言っている。
「というわけなんだ」
全てを語ったアンバーグはふう...と息を漏らしながら深く椅子に腰掛ける。
「そんなことが..」
「ああ、それからは何だかよくわかんないが囃し立てたって崇められて大変だった」
「でも...よかった。アンバーグが生きててくれて」
「うっさい」
それを聞いたアンバーグは少し恥ずかしそうにそっぽを向いてそう言った。
「さて、感動の再会もその辺りのしておこう。今度はこっちの話だ」
「そう、あなたのところにあるであろう武器を貸してほしいの」
「まあ、元々は私の家なんだがなゲッゲッゲ」
「ああ、わかった。テティはどんな顔をするのか...想像するだけで面白いな」
「よーし!俺たちの協力するぞ!」
「さっすがリーダー!」
「で、次はどうするの?」
「無視かよ!」
マブのそんな言葉もスルーして話を続ける。その扉の前でアリスたちにバレないように聞き耳を立てていた人物がいた。その人物は「ンフッ」とだけ言ってどこかに行ってしまった。
「ここは...どこ?」
テティは目が覚めると不思議な空間に来ていた。周りはゴツゴツとした床で空は青空ではなく少し紫がかった不気味な空だ。テティは何が起こったのかを思い出す。テティは穴のようなものに吸い込まれた。そして気づいたらこの変な空間にいる。
「ここ...本当にどこなの?」
そう呟きながら進むが、進めど進めど何もない。人の気配すらしない。そんな同じような光景ばかりに、ついテティは「何なの...?本当に」とまた呟く。
その世界...アナザーに迷いこんでしまったテティは飛び続けると何やら大きな建物のようなものが見えてきた。ビルのような建物が並ぶ都会のような場所だ。
「何...アナザーにも建物があるの?」
恐る恐る近づいていくとゲートが姿を現した。その中に入っていくとそこには少し近未来な感じの風景が広がっていた。