百二十二話 再び魔物の地へ
「あなた...ゲルム!!」
「よお、久しぶりだな」
そのゲルムの姿にアリスはなんて言って良いのか分からなかった。かつてホワイの武器を巡って争った相手で敵...というほどではないのだが少なくとも味方ではない。
「何?ピロンの知り合いって...あなた?」
「ああ、そうだ」
「で、あなたがアナザーについて何か知っているの?」
「ああ、知っているぞ」
「信用はできないけど...今は藁にもすがる思いだからしょうがない!」
「何か訳ありのようだな」
アリスは正直にテティの事を話して。それを聞いてふむふむ...と言いながらゲルムはアリスの顔を真剣に見る。説明をし終わるとゲルムは「ほう...そんなことが」と言いながら興味深々そうな顔をした。
「そういえば...ここ、いつもの豪邸じゃないのね」
アリスがやって来たゲルムのいるその場所は、よく見ると豪邸ではなかった。前の豪邸は廊下や部屋の一つ一つにシャンデリアがあったのだが、内装がどこにでもありそうな一般的な家なのだ。
「ああ、訳あって豪邸はもう買い手がいる」
「そうなんだ」
「だが安心しろ。その豪邸に行くことができるぞ」
ゲルムが指差した窓の先には大きな豪邸が見える。アリスはその豪邸に見覚えがあった。あれは...ゲルムが前にいた屋敷だ。少し外の壁の色が変わっているようだが、間違いなくあれはゲルムの豪邸なのだ。
「あの豪邸はどうしたの?」
「まあ色々あってな。人間に取られた」
「人間に!?」
「ああ。その人間は突然現れてすぐに英雄として持て囃されるようになった。あいつのようにな」
おそらくあいつと言うのはユオの兄のことだろう。英雄として有名で今はアナザーにいるらしい。一体どんな奴なのだろう?そんな事を考えそういえば、とアリスはこんな事を聞いた。
「あのドグロ...だっけ?はどうしたの?」
「ああ、いるぞ。呼ぶか?」
「いいわよ別に。で、アナザーに行くにはどうしたらいいの?」
「ああ、それか。それなら大丈夫だ。もう行く方法に検討はついている」
「それじゃ!」
「だが、タダでとは言えないなあ」
「わかってる...テティを救うため...何でもする」
その言葉を聞いて「ほぉ..?」と言いながらアリスの方に近づいてくる。
「まあ別に欲しいものは無いんだがな。よし、いいだろう。アナザーに行くにはあるものが必要なんだが...」
「あるもの...?」
「どうやらどこかに亜空間に行ける杖があるらしい。お前たちがこの魔物の世界にいけるあの杖と同じようなものだ」
「じゃあ!」
「いや...それがだな、その杖はあの屋敷のあるらしいのだ。ま、どこにあるかはわからないがな。でだ、それを探して欲しい」
あの屋敷...その人間が支配しているという屋敷のことだろう。そんなものがそこに...アリスはそう思いながらもテティのためにと拳を握りしめる。
「わかった。でもいいの?私はあなたと...」
「別に一人増えようは同じものだ」
「ならもう一ついい?」
「なんだ?」
「あなたはどうしてアナザーに行こうとするの??」
「まあ、ちょっとな」
「まあとりあえず、そこへ侵入すればいいのね?」
「ああ」
「でも侵入って...そんなのどうやって?」
「まあ、任せろ...」
その夜。例の屋敷の周辺をコソコソとアリスとゲルムで動いていた。夜と言うこともあって辺りには誰の姿もない絶好の侵入日和だ。
ゲルムは固そうな壁をコンコンと叩きながら少しずつ前に進んで行く。少し進んだ先に壁の音が変わり、そこを少し強めに叩くとその壁は簡単に取れてしまった。
「何これ!?」
「何も何も、お前らがこの屋敷で暴れたからボロボロなんだろうが」
ゲルム達とホワイの武器も争奪戦をしていた時にかなりアリス達は激しく争っていた。修理はしたのだがやはりあの激しさで壁も脆くなっているようだった。
「後これをお前に渡しておこう」
渡されたのは緑の兵隊の服のようだった。ゲルムは「これを着れば怪しまれる事はない」と言う。
「これは..?」
「ここを見張っている奴らと同じ服だ」
「そう」といながらアリスはそれを受け取ると森の中へと入り着替える。数分ほどして着替え終わったアリスは少し恥ずかしそうに出てきた。
「その服は少しの間預かっててやろう」
「こんなの、どこで手に入れたの?」
「元とは言え私の屋敷だ。そんなものどうってことないさ」
「さ、行ってこい」
「本当に大丈夫なの?」
「ああ」
「て言うか人間がいること自体おかしいんじゃ?」
「大丈夫だ。この魔物の世界には人間っぽい見た目のやつなんていっぱいいる。最悪魔物ですと言い張ればいい」
「そんな無茶苦茶な!」
だがテティのためだ。恐る恐る入る。外装は少し変わっているがほとんどが同じだ。見覚えのある廊下を歩いていく。向こうから同じ服を着た魔物が歩いてくる。ドキドキしながらも?隣を通過するが何も言われなかった。ふう...と安堵の息をついていると向こうから何やら声が聞こえてきた。
「おい!何すんだよ!」
「この方を誰だと思ってる!?この人はなあ...!」
そこでは何やら侵入者がいたようで5人ほどの兵士に取り押さえられていた。
「何かあったの?」
「ああ、こいつらが侵入してきたんだ」
「ここはあのゲルムってやつの屋敷じゃねーのか?あいつに用があるんだ!!」
「もう違う!怪しいやつめ!」
その姿は間違いなくマックスヒーローズの3人だった。バレると面倒なので、アリスは帽子を目深に被り顔が見えないようにする。そして兵士にこんな提案をする。
「私が連れていく。牢屋は..えっと?」
「いい場所がある。地下に何も効果が効かない監禁場所がある」
「そう、じゃあそこに」
「一人で大丈夫か?」
「ええ。大丈夫。それじゃ」
「あれ?お前、アリ...んぶ!」
名前を言われる前に制圧し気絶させた。兵士たちは何かを言おうとしていたこの3人を不思議そうな顔を見ていたが、適当に誤魔化すことで事なきを得た。
その場所はホワイを捕らえた場所でその場所では不思議な石を使っていて武器などの効力を一切受け付けない場所だった。そこへ連れていくと、アリスは3人を起こす。
「んな...アリス?なんでここに...あっ!」
「静かに、あんた達こそ何でここに?」
「そりゃあ、リーダーはアリスを追っかけて...」
「おい馬鹿!!」
「まあいいわ。ちょうどいいところにいてくれたし」
「ちょうどいい?」
「あなた達、兵士たちを引きつけておいてくれない?」
「お前はどうするんだ?」
「ここにはどうやら人間がすんでるらしいのよ」
「マジか!」
「だから、その人と会う。だから協力して」
「よくわからねえが、まあ俺に任せろ!!」
アリスはマブ達を囮に使う気だ。作戦を決めたアリス達は別に場所へと向かう。マックスヒーローズの3人が外に出て兵士を待つ。そして兵士を見つけると大声で「おーい!!」と呼ぶ。すると兵士は仲間を呼び作戦通りマブ達を追っていた。
「そういえばゲルム達と色々やっていた時に何やら一番大きな扉があったなということを思い出したアリスはその方角へと向かう。マブが引きつけているおかげか兵士には全く会うことなく辿り着いた。目の前には茶色い大きな扉が待ち受けている。その扉を恐る恐る開けると奥の方には誰かが退屈そうに座っていた。
「どうした?侵入者は捕まえたのか?全く、こんなところに来ても何もないって言うのに...」
その聞き覚えのある声にアリスは恐る恐る近づいた。近くに行くとその顔がはっきりと見えてくる。その顔を見てアリスは言葉を失った。
「おい、どうした?報告なら早くしてくれよ?」
「...バーグ」
「あ?」
「アン..バーグ...」
アリスは静かに、死んだはずのその知り合いの名前を呟いたのだった。