十一話 君と出逢った樹
テティと出会ったのは、アリスがこの世界のやってきて間もない頃ぐらいだっただろうか。クエストの帰り道、アリスは1本の大きな木を見つけた。それはアリスの20倍ほどはあるだろう。その大きさは遠くからでもその大きさが伺える。その木には広がったピンク色の花が夜空を隠すほどに広がっていて、その幻想的な風景にアリスはただただ魅入っていた。
「すごい...」
そう呟きながらその大きな木の方に近づく。近づいていくと改めてその大きさに圧倒されるぐらいだ。木の下の時ところまで行くと、手にユラユラと舞った花びらが着陸している。その花びらを握りしめてアリスは木の幹の所へと再び歩き出した。歩いて行くと木の幹のところに誰かが横たわっているのが見える。その横たわっている人物はアリスの1/4ほどの大きさしかない。
「あれ?誰かいる」
樹の下の方に目をやると、誰かがいるのが小さく見えた。樹からはピンク色の花びらが数え切れないほどの数ひらひらと美しく舞っている。
「も、もしもーし、大丈夫ですか?」
そう言いながら近くが返事はない。恐る恐る花びらが散りばめられた道を進む。頭や服に付いている大量の花びらを手で払いのけながらその倒れている人物の元に向かった。それは黄色い紙に緑の服、そして小さい体についている羽...これはファンタジーとかによくいる妖精というやつではないか。
「ひどい怪我..!」
その妖精の体は傷だらけだった。そしてお腹には何か鉤爪か爪か切り裂かれたような三つの跡がいくつもありそこから大量の血が流れている。その血で妖精の近くの床や花びらは真っ赤に染まっている。このままでは死んでしまう..!そう思ったアリスは大急ぎでカバンから包帯を取り出し手当てをする。白い包帯をぐるぐると巻きながら心配そうな顔でその妖精を見る。
「んっ...んん」
「大丈夫?」
その妖精は気がついたようで目の前の見知らぬ少女を見て何かしらの危険を感じ取ったのか、その羽をパタパタと動かしてアリスから離れようと飛んで行こうとしまう。だが傷は深いもので。少し飛んだだけで痛そうな表情をで床に着地してお腹のところを抑える。
「ダメだって!!安静にしてなきゃ!!」
「あ、あんたは..!うっ..」
体に包帯が巻かれてるのに気づきアリスが応急処置したんだとやっと気付いてその妖精はアリスの方を見る。
「あなた...名前は?」
「.....」
名前を聞いても答えてくれない。アリスはうーんと首を傾げた。シャイなのか、それとも人見知りのような感じなのか...。とりあえず再び名前を聞くことにする。
「名前は?」
「.....テティ」
やっと名前を答えてくれてアリスは「そうなんだ..」と呟く。そのテティという妖精はなにかを思い出したかのようにまた羽を動かしてどこかに飛び立とうとするが。やはり傷のせいで飛ぶことはできなかった。アリスはその様子を見て心配そうにテティを両手ですくい上げる。て「ぐぐっ..」と苦しそうな表情をしている。
「行か...なきゃ!」
おもむろにそう呟くとふらふらした足取りで歩き出すが、すぐに倒れてしまった。その様子に慌ててその妖精をすくい上げる。その妖精は「ううう」と声を出しながら体を抑えている。アリスは花びらを集めるとテティをそこに置く。その場所は花びらのベッドのような寝心地だ。
「ダメよ。あなた怪我してるし!もう少し安静にしてなきゃ!!」
「でも...行かなきゃ!!」
「どこに行く気なの??」
「あんたみたいなのに教えるわけないでしょ!!!」
口が悪い妖精だ。アリスはうーん、とだけ言ってしばらく考えていたが。「わかった!」と突然言い出した。
「なんか分からないけどそこまで連れてってあげる」
「いや、いいわよ。助けてもらって悪かったわね。それじゃあ、行くから。助けてくれてありがとうとは言っておいてあげるわ。あなたみたいなお人好しでよかったわよ」
若干皮肉っぽくそういうがアリスは特にそれに反応することなく「ダメだよ」と食い下がりテティの行く手を阻む。テティはおそらく通してはくれないだろうということを察して花びらのベッドの方へと戻っていく。それにアリスも安心そうな顔になっていた。
「何があったか..教えて?」
テティはなかなか口を開かない。それを見かねたアリスは「わかった」とだけ言った。あまり言いたくないなら無理に話させることはないだろう。アリスは立ち上がりテティに手を差し伸べる。
「よく分かんないけど、手伝うよ」
「え?」
その言葉にテティは戸惑った。どこの、まだ素性もよく分かってない上に目的すら全然知らない相手にそういうことを言えるのは本当にお人好しなぐらいだろう。テティは少し考えて、「わかった」と言いながらアリスとの握手に応じる。
「あんたは使えそうだし手伝ってもらおうかな」
「素直にありがとうとか言えない人なのかな?妖精だけど」
「何か言った?」
「いや、何にも」
✴︎✴︎
あの時のことを思い出しながらアリスとテティの2人はその大きな木を見ていた。その木は衰えることなくテティと出会った時のように辺り一面に綺麗な花を咲かせ、花吹雪を散らせている。アリスはテティの方を見るとテティと手を繋ぐ。テティは突然のことに驚きながらアリスの方を見るとアリスはにっこりとテティの方見ている。
「いつまでも...一緒だよね」
そのアリスの言葉にテティは「もちろんよ」とだけ答えた。アリスは立ち上がり頭についた花びらを取ると伸びをした。
「さーて、残りの闇魔も探しますかねえ」
「そうね....あっ」
「あっ」
そこに偶然なのか通りかかったバニアを見て、そう声を出した。バニアの方もまさかここにアリス達がいるとは思わなかったのか同じような声を出す。バニアの方もこの木をみつけて来ただけで本当に偶然だったのだが、一切そのようなそぶりを見せずにここにいることが分かったかのような素振りで口を開く。
「やはりここにいたのね!!」
「あんた..おばさん!どうしてここに!?まあ偶然だろうけど」
「おば...!まあいいわ。どうせあなたたちはここで消えるんだからね」
「アリスあの表情的に絶対偶然よアレ」
偶然を装っているのがバレバレなおのかテティはアリスにわざとらしくバニアにも聞こえるような声で耳元で話をはじめる。図星を突かれたからか、はたまたおばさんと言われたからかバニアはしかめっ面をしながこう、宣言した。
「う、うるさいわね!!今度こそあんた達をけちょんけちょんにしてあげるわ!!」
「けちょん...けちょん?」
それを聞いたってテティはまた聞こえるえるぐらいの声でアリスと何かを話はじめる。またか、というような顔でバニアは声をかけるがテティが一瞬んこっちを見るだけでまた会話を再開させる。その内容はすこし小馬鹿にするようなもの。
「けちょんけちょんって..もうそんな言葉聞かないわよ」
「みんな使わなくなったね」
「その聞こえるように話すのやめなさい!」
バニアは杖から魔法弾をアリスとテティの横の方に向けて打つ。やっと戦う気になったのか剣を抜いて左右に移動しながらこちらに向かう。バニアはそんなアリスに立て続けに魔法弾をアリスの方へと放って行く。ボンボンボンと緑の魔法弾がアリスの横を通過していく。アリスの剣の攻撃も、バニアには届かなかった。
「そいつらか?ピロン達を倒したのは」
「ガーディス...!」
そう言いながらあるいてきたその男...ガーディスはニヤリと笑った。