百六話 虚なる記憶(イマジナルメモリア)
「虚なる記憶??」
その店長の聞き覚えのない言葉を皆で復唱する。店長は入り口の階段を降りてアリス達の方へと向かう。そしてふうーっっという声を出して椅子座った。そして少し間を開けて、店長はその虚なる記憶というのを語り始めた。
「ああ、対象者に関する記憶を全て消去できとか何とかって聞いたことがあるよ。おそらくそれじゃないかな?」
「本当ですか?店長さん!!」
「ああ、それで一人でも記憶がない状態で3日経つと...消滅してしまうとかって聞いたな」
「消滅!?じゃあ早く何とかしないと!!」
「待てテティ。そんな急いで言ったって何も変わらんだろう。そのまま行って何になる?少し冷静になれ」
その店長の言葉を聞くや否や飛び出そうとするテティにピロンが静止をかける。その言葉にテティは「でも!!」と言いながらピロンの方を見る。確かに、手がかりもなく飛び出して行っても、無謀なだけだ。だからこそ、何か作戦を立てないといけないのだが...いかんせん情報が少ないためどう立てて良いかもあまりわかってないのが現状だ。
「他に何か無いんですか?」
「うーん、わかってるのはそれぐらいかなあ?なにせ普通には出回らないものだからね。うちの倉庫から無くなったんだし」
「え?倉庫から?」
「ああ、売る予定のないものだったから良いかなと思ってたんだが、何だか聞いた感じ大変なことになっているようだね」
となれば、何か手がかりが見つかるかもしれない。とりあえず向かうはその倉庫だ。
「いいか?いかにもな理由で入るんだぞ?」
「え?それって?」
「虚なる記憶なんて間違っても口にするなよ?敵は何の目的でこんな事をしているのかは知らないがお前らまで消されたらもう終わりだからな」
「わかった」
「そうだなあ...『店長が武器を見せてくれるというのでご好意に甘えて倉庫を見る事にした』という流れで行こう」
「それ良いね!」
「大丈夫なのが?ごいづらに」
「ピロロロロ、心配かゴーン、こいつらは色々な事態を乗り越えている。きっと大丈夫だろう」
「よくわからないけど、協力はするよ」
その店長の言葉に「ありがとうございます!」と礼を言い、店長と共に
店を後にした。外は風が寒く長袖とはいえアリスも肌寒い気候だった。
その倉庫は少し離れたところにあり、赤い屋根とガレージになっていた。鍵を開けてそのガレージを開ける。中には剣、槍、斧とたくさんの武器が入っている。
「まあ、さすがにいきなり手がかりはみつっからないわよね」
「まあそうだね」
「あなた達、何をやってるんですか??」
後ろからの急な声に、アリスもテティもビクッとなる。後ろを向くと男の人が一人立っていた。その人は壇上でアリス達の紹介の時に司会をしていた人だった。その姿を見て2人は、はぁ...と安心の息を漏らす。
「アリスさんじゃないですか!」
「ちょっ!ちょっ!!」
アリスは名前を呼ばれて少しの嬉しさとその人を倉庫の中に強引に入れてしまう。名前を出すと良くない事が起こるかもしれないとピロンに釘を刺されているからだ。ガレージの中で辺りを見回し誰も見てない事を確認する。そして今まであった事を洗いざらい話した。その人は「ほー」と頷きながらそれを聞いていた。
「へえ、で、虚なる記憶ってのを探しているわけですね」
「はい、そうなんです」
「あなたも...えっと」
「ああ、名乗ってませんでしたね。私はヌゥルって言います」
「ヌゥムさん」
「その虚なる...なんでしたっけ?」
「虚なる記憶って奴を...」
「大丈夫ですか?」
「...え?」
その言葉に少し不思議そうにアリスはそう返す。その光景にヌゥムという男も何やら不思議そうな顔をしている。
「今一瞬何だかぼーっとしていたので」
「ああ、はい。それで...」
「どうやって見つけるかです」
「ああそうでしたね」
「ここにはあまり良い情報は無いみたいですけどね」
「うーん、困ったなあ...だとすると、次はどこに...」
「あなたを知っている人をもっと探してみては?もしかしたら何か情報が得られるかもしれません」
「そうですね、ありがとうございます」
「いえいえ」
ヌゥムと別れたアリスはまた歩き出す。といっても知っている人というのは骨が折れる。そう簡単には見つからないだろう。
「あ、マブ達だ。何か情報を得られたかな。おーい!!」
「あ?誰だ?あんた」
「え??」
マブはさっきアリスの事を知っていたはずだ。だが少し経つとまるで忘れているかにようにアリスに対して「誰だ??」という発言をし始める。まさか...とアリスは拳を握りしめる。
「まさか、彼らは記憶を...」
「やはりここで無闇に知っている風を装うのは危ないようね」
「うん」
ピロンの懸念は当たっていた。おそらく誰かがまた記憶を消したのだろう。それをされてしまったら手がかりはドンドンと減っていく。それだけは避けたい。
「行こう」
「何だよお前!話しかけといて!」
「今はマックスヒーローズに構ってる暇はないの!」
「おい!変な奴らだ...ってなんであいつら俺らを知ってんだ?」
「きっと有名だからですよ」
「そうかそうか!!!はっはっはっは!!!」
アリス達は遠くなるそんな会話を聞いて前に進んだ。
「うーん、どうしたら...」
そう考えながらアリスが向こうにまた見覚えのある顔が見える。その顔はこちらを見ると「おーい!!」と呼ぶ声が聞こえる。その声の主はアリスの方に近づいてくるでは無いか。無警戒に向かってくるその人物にシーっと口に手をやって名前を呼ばないように促すがその呼ぶ声が大声だったからかもう手遅れだろう。その少女はミミと尻尾をピクピクと動かしながらアリスの方を見た。
「アリアリやっほー」
「あなた、確か七天聖のルナ...だったかしら??」
「うん!ボクはそうだよぉ!」
「あなた、大丈夫なの?」
「なにが?」
ルナはその言葉の意味がよくわかっていないようで頭に疑問符を浮かべている。
知っていてもこの娘には正直言ってあまり良い期待はできないだろう。何というか何を考えているのかがあんまりよくわからないのだ。
「どっか行くの??ボクもいく!!!」
「えっ???」
アリスは困惑する。もしこの娘が敵ならまずいだろう...がアリスはそんな事は無いだろうと考えていた。ヴェラードも言っていた「深く考えるような奴では無い」らしいし、無害ではあるだろう。まあ何よりアリスは自分を知っている人と一緒にいる事がとても安心感あると感じているのは1番の理由だ。
「でも行くって言ってもどこにいくの?」
「うーん、とりあえず戻ろうか」
「大丈夫なの?」
「大丈夫でしょ。きっと」
「アリスはたまにどこか不確定そうなところがあるんだから...」
「んで、虚なる記憶を探す作戦は...んで何で増えてるんだ?」
「まあ色々あってね」
「んで、虚なる記憶って...」
「おいおいアリス、大丈夫か?我々は虚なる記憶を探していたんだろ?」
「ああ、そうだった」
「こちらでも少し考えてな、書庫に潜入することにした」