百五話 アリスだけが存在しない世界
あの祭りのような出来事の次の日、アリスはいつもの集会場へと向かった。道にはいつものようにたくさんの人々は忙しなく右往左往している。そう言えば最近良さそうな武器が入荷したとかなんとかだ。アリスはいつも行ってる店へと向かった。あんだけ英雄だのと囃し立てたてられた割に特にサインなどのものはない。まあもちろんアイドルでも有名人でもないのだが、あれだけのことがあれば注目されるとアリスはちょっぴり期待していた。
「いらっしゃい」
店に着くといつものおじさんが立っていた。そのおじさんに少しの期待はしたがやはり反応はなかった。アリスは少しムスッとしてジェムを渡す。するとおじさんから衝撃的な言葉が来た。
「お嬢ちゃん、ここは初めてかい?」
「はい?」
むすっとした顔から一変、驚いた顔でおじさんを見る。アリスは常連と言って良いぐらい、ここに来ている。アリスはきっと冗談だろうと店主に「そうなんですよおー」とそれっぽく返した。結果は良いものは出ず、そのまま店を後にすることにした。次は集会場だ。アリスが集会場を開けるとたくさんの人が食事をしたりクエストボードを眺めていたりしていた。その視線が一気にアリスの方に向く。有名人だからだろうか...などと思いながら受け付けに行った。
「あら、あなたここは初めて?」
「え??」
またその言葉。始めても何も何回もここで受注しているのだからそんなわけない。アリスも流石におかしいということに気づいて自分の名前を聞いてみる。しかし受け付けのお姉さんは首を捻るばかりで、期待していた全くアリスという応えは帰ってこない。
「ちょっと!冗談よしてくださいよ!アリスですって!!」
「えーっと...?」
何だか本当に知らないような顔をされる。どういうことなんだ??アリスは周りにいた者に聞いてみるが、誰一人として全くアリスという名前のアの字すら返ってこないではないか。
「ちょっと、どうしちゃったの??みんなcあ!!」
「なんだ?何の騒ぎだ?」
そこにヴェラードがやってきた。ちょうどいい、ヴェラードならきっと...!!そう期待していたが、その期待はすぐに打ち破られる事となる。
「お嬢ちゃん誰だ?」
「は???あんた頭までボケちゃったの??」
「見ず知らずの人にそんな事言われてもなあ」
「もう...!!」
少し苛立ったように扉強く開けて集会場を出る。なぜ誰一人としてアリスの事を憶えていないのか...その疑問はアリスの中で、頭の中でモヤモヤと霧がかっていた。
誰でもいい、誰でもいいから知っている人を探そう!!!きっと誰かが!!!きっと!!そう頭の中でそれを繰り返しながら知り合いを探す。ルビス、偶々そこにいたキンキ達と回ってみたが誰一人としてアリスを憶えているものはいなかった。だが他の仲間のことははっきりと憶えている。まるでアリスの記憶だけがすっぽりと抜け落ちたような...
「どうしちゃったの?皆!!皆!!!そうだ、テティ!!テティは!?」
テティを探すがどこにもいない。いつもならもう隣にいるはずなのだが、その姿は見えない。
「あれ、アリスじゃねーか」
その声は確かにアリスの名前を呼んだ。その姿はマックスヒーローズの3人。いつもなら軽くあしらうところだが、今のアリスにはありがたい存在だ。少し涙目になりながらマブを見るアリスを見て、マブもアルもホーも首を傾げている。
「どうしたんだよ」
「よかった...!よかった!!」
「リーダーどうしちゃったんでしょう?」
「俺の凄さがわかったんだろ??」
「さすがリーダーだよ」
そんなは話をしている3人に近くならベンチに座り全ての経緯を話す。するとマブが「ほーん」と言いながら腕を組んで頷いている。
「なるほどな。よし!俺らも調査するぞ!!」
「マジですか?」
「ああ、仲間が困ってるからな!!」
「流石リーダー!!」
「頼むよ」
アリスはマックスヒーローズの3人にこんなに頼み込むとは思わなかった。いつもバカやってる3人組というイメージだが、今は状況が状況だ。頼るしかない。
マブはよし、あとで落ち合うか!!と言い調査の為に歩き出した。調査と言っても何から始めるのかも分からないままだがマブらしいといえばマブらしい。そのマブをずっと姿が見えなくなるまで見ていた。
「あの...」
「なんだ?」
マブは角を曲がりアリスが見えなくなると目の前に誰かが立っていて話しかけられた。そいつは白いローブで顔がよく見えない。
「あの先程の少女のことで...」
「アリスがどうかしたか?」
「えっと、名前をもう一度...」
「アリスだな」
「アリスですねリーダー」
「アリスだよお」
その途端3人はバタッと倒れてしまった。その白いローブ男はニヤリと笑った。
「これからどうしよう...」
「おい、そこの嬢ちゃん
そんな事を考えていると、突如声をかけられた。それはピロンだった。もちろん記憶は無いようで、アリスの事を「嬢ちゃん」と呼んでいる。
「いい店があるんだ、来て見ないか??」
「知ってるわよあなたの店。まああなたは知らないんだろうけど」
「いいから!!いいものがあるんだ!ほら!嬢ちゃんならお似合いだよ!もう2度と会わないかもしれないんだ!!騙されたと思って!!」
「それ騙されるときに言うやつじゃ無いの!!ちょっと!!」
半ば強引にピロン達の店に引き込まれる。中に入りアリスの手を離したピロンは、近くにあった椅子に座った。
「んで?アリス、これはどう言うことだ?」
「え?私の名前を!!」
「ああ知っているさ!問題の渦中にいつもいるアリスだ」
「どうして?」
「私たちも知っているわよアリス」
裏からバニア、カルラ、ゴーンが出てくる。3人ともアリスの事は覚えているようだ。
「こんな事が起こってるのに外でアリスなんて言ってみろ。襲われて記憶が消されたら意味がない」
「確かに!!でも何で??」
「俺たちは途中でここに戻ってきたからな。ここはお前も知っての通り結界のようなものが貼られておる。こっちまで来なかったのだろう」
「で、どう言う事なんだ??説明じろ」
「知らないわよ!!突然みんな記憶が...どうすればいいの??」
「まあ落ち着け!何か対策を考えよう。カルラ、何かあるか?」
「そうっスねえ...?でもなんでこれが起こったかが分からなくちゃあ...」
「ああ、そうだな。まずは情報収集だ」
「でも、そんなものどうやって探すのよ」
うーん、と誰もが唸るがなかなか案が出てこない。すると店主が戻ってきて皆で何かを考えているその場所に立ち会って何が何だか分からずに困惑している。
「どうしたんだい?皆して難しい顔して」
「店長、何か特定の人物の記憶だけを全員から抜き出すものとかありませんか?」
「それ.. 虚なる記憶じゃないかい?」
「虚なる記憶??」
「ふふふ、楽しんでくれてるかな」
ネネはそう言いながら笑みを浮かべる。
「もちろん、これだけじゃ無いよ。まだこれは始まり。このストーリーはこれから始まるのだから...」