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レネスの過去③

よろしくお願いします

「さて、それでは力のコントロールの練習を始めましょうか」

「よろしくお願いします」


午前10時、雲一つない好晴の下レネスとロイが向き合う。

場所は、セリアス公国のはずれにある森林地帯。人通りはほとんど無く、辺りは野生の生き物や好き勝手に伸びている草木のみ。


騎士団加入試験を明日に控えたレネスは、昨日のロイとの約束通りユニークスキルの練習に取り組んでいた。


「えっとー、何をすればいいのかな?」

大きな紫の瞳を爛々と輝かせながら、レネスはロイに問う。

「そうですねぇ...。まずは武器や防具の顕現からしてみましょう」

堕落剣(コノプシソード)と怠惰武装。怠惰のユニークスキルを持つ英雄だけが使用できる装備だ。

「どうすればいいの?」

「自分の内側にある力を纏うイメージを作ってください。そうすれば防具が出るはずです。剣の場合は、鋭く強いイメージを」

(力を纏う、鋭く強い......)

レネスは眼を閉じ、己の集中力の全てを注ぐ。

イメージ、内側にある力を想像。


レネスは自身の中に、大きな力があることを確認。その力のイメージは紫。なぜだか分からないが、それが怠惰の力だと確信することが出来た。

そして、怠惰の力を纏うイメージと鋭く強い剣のイメージを構成。

すると、レネスの身体から光が放たれた。


レネスは閉じていた双眸を開き、自身の体へと目を走らせる。

「これが、怠惰の装備」

レネスが纏った装備は、紫を基調とした軽装だ。

肩や胴、膝、二の腕などはしなやかな紫の甲冑で守られており、胸元は少し見開いていた。

腰からは短い白のスカート、両肩からは白のマントを羽織っている。

右手には長く細い剣。その剣は鍔がなく、柄から切っ先までが一続きになっていた。

普段握っている木刀よりも、ずっしりとした重み。本物の剣を握ったことのないレネスは興奮を抑えきれず、剣を自由に振っていた。


「それでは、魔法の練習に移りましょうか」

はしゃぐレネスを沈めるように大きな声でロイは言った。

「魔法は、怠惰(レジネス)催眠(ヒュプノス)だよね?」

「よく覚えていましたね。偉いです」

ロイはレネスの頭を撫でる。精霊であるロイの手はとても小さく、レネスからすれば指で撫でられているような感覚だ。

では、とロイは前置きをして説明を始める。


「怠惰の英雄の戦い方は二つあります。それは、魔法で戦うか剣で戦うかです。そして、怠惰の英雄の攻撃は......」

「相手の体に直接攻撃しない」

「その通りです」

両手を合わせ笑顔のロイ。

「では、少し見ていてください」

そう言ったロイは右手を前に突き出した。

すると、即座に魔法陣が出現。その魔法陣から紫の弾が一発だけ撃ち放たれる。

狙いは70m程先を走っている豚。かなりの距離だが、弾は速度を落とすことなく豚に向かって飛んで行く。


レネスは豚が撃ち抜かれ絶命する未来を予測し目を伏せる。

が、レネスの予測とは違う結果が現実では起こった。

伏せていた目を、豚がいる場所へ向ける。

すると、そこで見たのはイビキをかきながら幸せそうに眠る豚の姿だった。

「え、なんで......」

「これが催眠です。相手の魔力に干渉して、一時的に眠らせます」

ロイは開いていた手を強く握りしめた。

すると、寝ていた豚が立ち上がり何も無かったかのように歩きだす。

「このように、解除は術者の思いのままです。血を流させずに無力化する、どうですか?」

「凄い!!」

相手と争わずして戦いを終わらせることが出来るのなら、自軍の損耗も少なくて済むだろう。

「じゃあ、怠惰は?」

「怠惰はとてもユニークな力です。そうですね......」

少し何かを考えてから、ロイはレネスの足を見やった。

「では、今から怠惰を使いますね。いきますよレネス」

「え?」

ロイがそう言った直後、レネスの体は地に付していた。腰から上は動くのに、両足に力がまったく入らない。

「今、レネスの足に怠惰をかけました。足の筋肉を堕落させ、元の機能を極限まで落としたので立ち続けることが出来なくなったという訳です」

突然体に起きた異変に戸惑うレネス。

「怠惰は魔法としても使うことが出来ますが、剣に能力を付与して戦うことも可能です。斬って殺す、ではなく剣を当てて無力化します」

強い。

聞けば聞くほどに英雄の力の強大さを感じる。早くこの力を使えるようになりたい。

レネスの中に闘志が抱かれる。

「では、やってみましょうか」

「うん! その前に助けて下さい!」

そして、二人だけの特訓が始まった。



「そろそろ終わりますか」

「疲れたー」

二人が訓練を終えた頃には、すっかり日が陰っていた。

「一通りの技は使えるようになりましたね」

この時、ロイはレネスの吸収力に驚いていた。教えたことを直ぐにとは言えないが、数時間も経たない内に全て覚えてしまうのだ。

(やはり、私の人選に間違いはありませんでした)

自分の選んだ相手がひたむきに頑張り、力を得ていく姿を見て感極まるロイ。


「たくさん魔法使ったけど、魔力があんまり減ってない...」

「怠惰武装のおかげですね。その防具のおかげで、魔力枯渇時の極端な倦怠感は抑えることが出来ていますが、身体に感じる通常の疲労などは残ります。休息を取ることを忘れないでください」

レネスの母のように注意をするロイ。

すると、突然思い出したようにロイはレネスに尋ねた。

「レネス!あなた、早く家に帰らなくて良いのですか?」

「え?」

「誕生日ですよ!」

「あ!」

ロイの問いかけによって、自分の誕生日が今日であることを思い出したレネスは、早々と自宅へ走っていくのだった。



「ただいまー!」

「お帰りなさい」

玄関の扉を開くと、そこにはいつも通り食事の準備をする母の姿。しかし、今日は少しだけ違った。

「わぁ!ケーキ!」

セフィアの両手には、大きなお皿の上に乗った苺のショートケーキがあった。

「レネス、先にお風呂に入ってきなさい。そんな、格好じゃご飯は食べられないわ」

セフィアに指摘され、自分の身なりを見るレネス、

来ている服には土の汚れ、髪はボサボサで所々に草が絡まっていた。

「いつもより一段と汚れてるわね......。今日は何をしていたの?」

「えっとねー......」

まずい、言い訳が思いつかない。

レネスは根っからのいい子だ。普段つかない嘘をどうすれば信憑性の高いものにできるのか分からないのだ。

「う、受け身の練習をしてて......」

「受け身?」

セフィアはレネスが嘘をついているとすぐ分かり、その嘘の面白さに笑ってしまった。

「フフッ、そうだったのね。ほら、早くお風呂に行ってきなさい」

「うん!」

レネスは母を騙せたと思っているようで、スキップをしながら風呂場へと向かって行った。



「レネス!誕生日おめでとう!!」

パパンッと部屋に鳴り響くクラッカー。

レネスの誕生日は、両親の掛け声とクラッカーの音で幕をあげた。

「レネスもやっと15歳か。明日、加入試験受けるんだろ?頑張れよ」

「無理だけはしないでね。ダメだと思ったら直ぐに止めること。いい?」

セフィアとハンスは口々に激励の言葉をレネスにかける。しかし、二人の様子からは明らかに心配の二文字が浮かんで見えた。

レネスの両親は、騎士団加入試験に対して反対はしていない。国を守りたいというレネスの考えを蔑ろにするべきではないと考えているからだ。

だが、レネスは女だ。騎士団に入れば戦闘は避けられるものではない。男と女では、筋肉量も力も大きく違う。

屈強な男達と戦うレネスを想像すると、どうしても勝ち残るイメージが浮かばないのだ。

「分かってる。無理だと思ったら止めるからそんな心配しないで。ね?」

こういってはいるが、当の本人はやる気に満ち溢れている。

英雄の力を手にしたことが大きいのだろう。負けるだなんて思っていないのだ。


「それより!ケーキ食べよ!」

加入試験よりも、今のレネスは目の前のケーキのことで頭がいっぱいだ。

「そうね、食べましょうか!」

セフィアは自分の心配が空回りしている事に気づき、レネスが求めるケーキを切り分けて渡した。

「いただきまーす!」


元気にケーキを食べる娘と、それを見守る妻。

その二人を見ながら、この環境が永遠に続くことを願うハンスだった。

面白いと少しでも感じて頂けたなら、ブックマーク等評価をお願いします!


人類を守り世界を守り光を取り戻す者達

というお話も書いています。宜しければそちらもお願いします。

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