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7-2 救出

 その気配に気づいたのは、巳白だった。

 何かに弾かれるように顔を起こすと、じっと暗闇を見つめる。

 リトが不安そうに巳白の顔を見る。 巳白はリトが見ている事に気づくと彼女の方を向いて微笑んだ。


「来意の奴がこっちに迎えに来てるぞ」


 リトは驚いて巳白と同じように暗闇を見つめるが、何も見えない。 巳白は床に散らばらせた食べ物の包み紙などを片づけながら笑う。


「まだリトには聞こえないだろうな。 でももうすぐだから、帰る準備して」


 一緒にいたひーるという男の子は、まだすやすやと寝息を立てていた。 

 それとは別にリトの耳にもカランカランと何か棒のようなものが音を立てて近づいてくる気配を遠くに感じた。 何しろ黙っていると何の音もしないこの洞窟の中にずっといたので聴覚は多少敏感になっているようだった。

 リトはふらふらとよろめきながら立ち上がり、横穴から顔を出す。

 そこは、相変わらずの真っ暗な世界。


 だが――


 とても小さな灯りが、そう黒い紙に針で穴を開けたかのように小さな、点のような灯りが、ぽつんと見えた。 リトは思わず息をのむ。 同時に小さな声が洞窟内に反響する。


「巳白ー! リトー! どこ?」


 来意の声だった。


「来意くんっ!」


 リトは思わず大声で叫んだ。 洞窟の中にライイくん、ライイくん、とリトの声がこだまする。 こだまが消えると、「今、行くからそこで待ってて!」と、来意の落ち着いた声が響いてきた。

 小さな点のような灯りはゆらゆらと揺れながら少しずつ大きくなっていく。 なにしろ周囲は真っ暗なので近づいているのかはよくわからない。 しかしその灯りが近づいてくるにつれ、リトはその灯りが魔法の杖で出している光なのだと気がついた。 ただとすれば多少の距離感もつく。

 足音が聞こえてくる。 ザッ、ザッ、と規則的なその足音は来意だけの足音のようだった。


「一人か」


 意外そうに巳白が呟いた。 

 それから少し時間がたつと、やっと来意の姿が灯に照らされて確認できた。 同じく来意もこっちを見つけたのだろう。 軽く手を上げる。

 来意はどんどん近づいてきて、リト達がいる横穴に入ってきて、ふう、と息をついた。 来意の腰には命綱がついている。


「お待たせ。 巳白。 リト」


 来意はそう言って微笑む。

 やっと外に出られる、リトはそう感じると体の力が抜けて座り込む。


「お、おい? リト?」


 巳白が慌てる。 しかし来意が笑いながら代わりに答える。


「大丈夫だよ。 巳白。 リトはちょっとホッとしたんだよ。 少し休んで気力が戻ったら帰ろう」


 そう言って腰に下げていた水筒から暖かいお茶をコップに注ぐとリトのすぐ側に置き、自分もコップにお茶を注ぎ地面に座る。


「この洞窟、かなり入り組んでいるね。 思ったよりここに来るまで時間がかかっちゃったよ」


 来意はそう言ってお茶を一口飲む。 巳白が少し不満そうに来意を見る。


「なぁ、お前一人で来たのか?」


 その言葉に来意が視線だけで頷く。


「村に入るなり、巳白達が行方不明だって旅人が話しているの聞いちゃってね。 だから僕はスイルビ村に寄らずに先に白の館に寄って、こっちの捜索に来たって訳。 もう一度スイルビ村に寄ってみんなを招集してたら余計に時間がかかると思って」


 正論のようだったが、リトには、なんだかそれだけでないような理由を感じた。


「でもさ……」


 巳白は少し困ったようにちらちらとリトを見る。

 しかし来意は巳白の視線を無視するかのように、ポケットの中からビスケットを取り出すとぱきんと二つに折って、巳白に向かって放り投げる。


「リトにもあげて」


 来意にそう言われ、巳白はビスケットとリトの顔を交互に見て、それをリトに渡す。

 来意はビスケットをほおばるとリトに向かって言った。


「面倒なことになる、って覚えてる?」


 それは責めているような、突き放すような口調でもあった。


「……うん」


 リトは素直に返事をする。 それを聞いて来意はため息をつきながら告げる。


「それじゃあ悪いけど覚悟しといて」

「おい来意! そんな言い方は無いんじゃないか?」


 巳白が明らかにムッとした口調で言った。 しかし来意も同じようにムッとした口調で言い返す。


「だって仕方ないじゃんか、巳白。 リトには覚悟してもらわないと」

「だけどな来意、リトだってわざと遭難した訳じゃない。 お前が来るまでリトなりに我慢してたんだぞ、ここで。 せっかく無事に助かったのに面倒な事になったって責めるような事を言うなよ」

「責めてなんかいないよ! どちらかと言ったら責めたいのはリトより巳白にだね。 リトはわざと遭難した訳じゃないけど、二人が一緒だっていう事がどれだけ面倒かって事ぐらい巳白なら分かるんだろ?」


 来意の言葉が図星だったらしく、巳白が口ごもる。 来意が続ける。


「確かにリトはこの洞窟で巳白に会って心強かっただろうさ。 でも本当は心を鬼にして巳白はリトと一緒にいるべきじゃなかったんだ」

「だけど来意……」


 巳白の言葉も聞かずに来意が言う。


「巳白はリトの気配に気づいても無視すれば良かったんだ。 だって僕はリトが死ぬなんて一言も予言していないんだから」

「だけどさ、来意! ――来意?」


 巳白がそこまで言って来意の表情に気づく。

 来意は辛そうな悔しそうな、困ったような顔をしていた。


「なんだよ」


 来意が返事をする。 それは途方にくれたような声だった。 巳白が来意の顔を覗き込んで尋ねる。


「何があってる?」

「――何、って――」


 来意が視線を逸らし、明らかに動揺する。


「お前が、お前らしくない”たられば”を言い出した時は――未来が流動的で読めていない時だ。 そんなとき、勘で動いているお前が自分の理性で計算をしたから、つまり自分でもどうしていいか分からなくなってるんだろ?」


 来意が息をのむ。

 巳白が来意の頭を掴み、視線を合わせる。


「大丈夫だ。 お前はここまではベストの選択で来れてる。 間違いない。 だから何がどう現実問題なのか教えてみろ。 それで道が変わる事もある」


 来意が黙って巳白の目を見る。 巳白が微笑んで言う。


「お前って里帰りした後は微妙に調子おかしいんだからな」


 それを聞いて初めて来意が目を丸くし、我に返ったようにため息をつく。


「――ああ、そっかあ。 僕は里帰り後だった。 言われて気づいたよ。 ああ、ホント、めちゃめちゃ肩に力入ってる。 僕」


 そして肩と首を動かしてほぐす。 そしてまず、リトを向いた。


「ごめん。 リト。 ビックリさせたね」


 リトはとりあえず頷いた。 理由は分からなかったが二人が言い争ったのは間違いなくリトが原因だったから、頷いてよいものか悩んだが……

 謝ったものの、それでも来意は口をそれ以上開いてよいものかどうか悩んでいた。


「あの、多分、私は平気だから言って」


 リトは思わず告げた。 来意が言った「面倒な事」それを知らないと話が進まない――気がする。

 来意は大きなため息をもうひとつついた。 


「最初に――僕もこれからどうなるか予想が全くといっていいほどつかない、って事だけ覚えていてね。 良いに転ぶか、悪い方に進むかも」


 そして視線を逸らせて次の言葉を発した。


「最悪、リトは発狂するかもしれない。 これは勘ではなく常識で考えて、だけど」


 巳白だけが息をのむ。 

 確かにリトには面倒な事と向き合う覚悟が必要なようだった。


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