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6-17 過去の夢10〜夢の終わり。

 ボクが書類にサインをすると、ラムールはさっさと書類を手にした。


「じゃあボクはこれで――」


 そこまで言ってラムールの動きが止まる。 何かの気配を感じたようで窓の外に視線を移す。

 ボクはラムールの視線を追って窓の外に視線を移す。

 ボクの胸がどきりと脈うった。 窓の外に白い翼が見えたのだ。

 窓の鍵がひとりでに解除され、白い手が外から窓を開ける。 大きな窓がゆっくりと開き、窓の向こう側には二人の男とも女ともつかない大人が二名浮かんでいる。 耳の形が笹型に長く尖り白い大きな両翼のその姿は父と同じ、そう、彼らは翼族だった。


 一名は、静かな滝の流れのように真っ直ぐな深緑色の濃い髪の毛が膝元までのび、落ち着いた感じがした。 もう一人は鮮やかな薄い金色の髪がカールされた短髪で、道化師のような笑顔を浮かべていた。

 ラムールが無言で立ち上がり、その二人を睨む。

 落ち着いた感じの翼族が口をひらく。


(おさ)は――?」


 その声は低く、ボクは初めてその人が男なのだと気づいた。


「長などここにはいない」


 ラムールは無愛想に言った。

 ラムールの言葉に反応せず、二人の翼族は部屋の中に入ってくる。 そしてボクに視線を移す。

 ボクはつい条件反射的に会釈をしてしまう。 それを見て二人の翼族はちょっと目を丸くして微笑む。

 意外と優しい眼差しだった。 ラムールがボクと翼族を見比べて言った。 


「この子は君たちの仲間だ。 名は巳白というらしい。 君たちの世界に連れていかないか?」


 ボクはラムールの顔を見る。 明らかにボクは彼にとって邪魔のようだった。


「いやー、それは無理だナ」


 もう一人の翼族、金髪の方が答えた。 こちらも声で男だったのだとわかる。


「その子は怪我をしたみたいじゃないか。 翼族の血がほとんど流れてしまっているナ。 魔力が殆ど感じられン。 おそらく人間よりちょっとだけ聴覚なんかの感覚が優れているだけで、我々が翼族の仲間と認めるには資質がない。 死んでも魂は人間界の――」


 ボクは思わず話を遮った。 


「じゃあ、ボクはもう人間なの?」


 それを聞いて翼族だけではなくラムールも目を丸くする。


「翼があるので翼族だといえは、そうでもあるが……」


 ボクの真意を計りかねたように長髪の男が言葉を濁す。

 ボクは目を閉じて意識を耳に集中した――音が、あんなに聞こえていた音が、聞こえない。 

「体力が回復すればいくらかは戻るかもしれないが――」


 長髪の男がなぐさめるように呟く。

 ボクは目をあける。 するとまずラムールが出入り口の扉に視線を向けた。 その視線に気づいた翼族の二人がにやりと笑う。 ボクはそれから――新世さんの羽音を聞いた。 扉が開き、新世さんが緊張した面持ちで部屋に入ってくる。

 新世さんが入ってくると同時に翼族の二人は床に跪く。


「ジョルジュ、ボーン……」


 新世さんは困ったように告げる。 するととても不安そうにラムールが口を開いた。 


「新世……」

「――ええ、大丈夫よ。 心配しないで」


 新世さんが微笑み、ラムールをひきよせ頬にキスをする。


「あなたは仕事が忙しいのだから今日はもう城にお帰りなさい。 今日は呼び出つけてごめんなさいね。 ありがとう」


 ラムールはこの場を去るのが不安で仕方がないという顔をしていたが、手元の時計を見ると書類をまとめた。


「お前達、新世に何かしたら絶対許さないから」


 ラムールがそう言うと、跪いた姿勢のまま、馬鹿にしたような感じで金髪の翼族が口を開いた。


「お前ごときに何ができると――」

「やめないか」


 長髪の翼族が叱咤する。

 ボクにもわかった。 翼族の人と、ラムール、どちらが強いかは体から放たれるオーラで一目瞭然だった。 ラムールは、ボクよりちょっと年上のただの子供でしかなかった。

 ラムールが部屋を後にする。

 部屋にはボク達4人が残った。

 全員が羽を持っている。 なんだか変な感じがした。


「それで、王様、」


 金髪の翼族が新世さんに向かって口を開いた。


――王さま? この人が?


「私は王様でも長でもないわ。 だから跪かないで立って。 ただ、今日呼び出したのは――」


 新世さんがボクの顔を見る。 翼族の人達は新世さんに言われたとおり立ち上がる。


「この子について、ご両親など分かる事はある?」


 新世さんがボクにそっと手をかけた。 とても暖かかった。

 翼族の二人が顔を見あわせる。 そしてその視線が意味ありげに輝く。


「このような子をこれ以上出さないためにもシンセ様に長として君臨して頂きたいのですが」


 長髪の翼族がそう告げる。


「私が尋ねているのはそういう事じゃなくて――」


 新世さんが首を横に振る。

 ボクが慌てて口を挟んだ。


「あの、みなさんはボクの父を知っているんですか? 知っているなら生きてるか、死んでるか分かるでしょう? 父は、死んでいますよね?」


 彼らはぎょっとした顔でボクを見た。

 ボクは続けた。


「だってボクが助けを呼んでも父は来てくれませんでした。 父はもう、死んでいますよね?」


 金髪の翼族がため息をついた。


「こんなに幼いのに、現実を見てるとは」


 長髪の翼族が近づいてボクの頭をなでた。


「父上が生きていたら、迷わずお前達を助けに行っただろう」


 そのとき、廊下を駆け上る音がして、部屋の中に清流が飛び込んできた。


「おにいちゃー……」


 片手に薬草を持ったまま入ってきた清流は翼族の二人に気づくと立ち止まる。

 清流を見た翼族の二人が微笑む。


「――ああ、この子は父親によく似ている」


 それを聞いた清流の顔がぱっと晴れる。


「おじちゃんたち、翼族だね?」


 笑顔で尋ねる。 おじちゃん、と言われた二人が苦笑する。

 清流は二人に近づく。


「ボクも翼族なんだよ。 翼は、今は無いけど、すぐ生えてくるから!」


 一瞬、新世さんと、二人の翼族の表情が曇る。 そしてボクも。


 だって清流は翼が戻ると信じている。


「ねェ、王様。 このような子のためにもあなたが必要なのですヨ」


 金髪の翼族が口を開く。 「王様?」と目を輝かせたのは清流だ。


「おねぇちゃん、王様なの?」


 疑いのない眼で新世に尋ねる。 新世が困ったように口をつぐむ。

 そんな清流に長髪の翼族が意味ありげに声をかける。


「そうだよ。 彼女は翼族の長――王様なんだ」


 新世さんは困っていた。 そんな新世に気づかずに清流が尋ねた。


「ねぇ、おじちゃん、ボクも翼族だよね?」


 ボクの脳裏に翼を失ったら翼族と認められない、という村人の言葉が浮かんだ。 しかし――


「ああ、君は確かに翼族だよ」


 翼族の男はそう言って清流を抱き上げた。

 清流は誇らしげに微笑んだ。

 

 

 

 

 


 

――リト、リト

 呼ぶ声がする。

 ああ、リトって誰だっけ。

 なんだか聞いた事のある名前。

 あれ、ボクの名前だっけ。

 あれ、ボクって女の子だった?

――リト、リト

 この声は誰の声だろう

 男の人よね。

 聞いた事があるもん。

 あ、巳白さん、そう、巳白さんの声だ。

――リト、リト

 巳白さん? あれ、私って誰だったかな

 私はボクで巳白さんじゃなかったっけ?

 ううん違う。

 ボクで巳白さんじゃないとしたら、私は――

――リト、起きて。 変化鳥が来てる

 ああ、私がリトだ。

 



 

 私は目を覚ました。

 暗闇の洞窟の中で。

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