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6-12 過去の夢5〜人生で初めての目標

 清流の煎じた薬のおかげで、ボクは一晩寝ただけで元気になった。 

 お医者さんがびっくりしていた。

 ボクのベットの隣には一晩中看病をしていた清流が疲れ切って眠っていた。

 ボクは清流の頭を撫でた。


――お兄ちゃんが守ってやるはずが、清流に助けられちゃったな


 そう考えると申し訳ないやら、悔しいやらで涙がこぼれそうだった。

 でも、泣いちゃいけない。

 ボクは鼻がつんつんするのをこらえ、涙がこぼれ落ちないように天井を向いた。


「一応、今日一日はゆっくり休むといい」


 神父さんはそう言って、朝食を置くと部屋を後にした。

 ボクは朝食を見て、めまいがした。 朝食が変な雰囲気を出している。

 そう、再び、食事には別の種類の毒が混ざっていた。 


 


 

 何度、同じ事をされただろう。

 ボクは何度も毒入りの食事を食べて体調を崩し、清流はその度に色んな薬草を調達してきてはボクに飲ませ、ボクは体調を戻した。

 ボクは意地でも清流に毒入りの食事は食べさせなかった。 だって、清流が体調を崩しても、ボクは薬を煎じてやれない。 

 清流はボクの看病ばっかりであんまり外に遊びに行かなかった。

 そんな日がどの位続いたのか。 今日も隣の教会から神父と村長の話し声が聞こえてきた。


『なぁ神父よ。 もうそろそろ実験はよかろう。 清流が薬草に関する知識が十分なのは想像以上だ。 そろそろケルスのヤツがな、清流と遊びたいと言ってきかないのだよ』

『そうですね。 清流くんは薬草に詳しいせいか、食べては危険なものは口にしませんね。 巳白くんの方はいい加減気づいてもよさそうなのに、毎回よく警戒もせずに食べるものだと呆れますよ』


 神父の馬鹿にした口調が胸くそわるかった。

 でも、これでもう普通の食事が食べられるんだと思うと、ボクはホッとした。




 

 翌日、ケルスが清流を遊びに誘いに来た。

 ボクが今日は体調を崩していなかったので、清流は喜んで窓から外に飛び出した。

 清流と、ケルス、そして二人をとりまく笑顔。 そう、彼らは清流の友達。 清流はケルスと二人で、みんなの中心になって輝いていた。 

 清流が、ボクと違う遠いところで生きている気がした。

 その夜、清流はボクに今日あったことを嬉しそうに話した。

 みんなが清流の翼はすごい、と褒められるのが清流は嬉しいようだった。

 薬草に詳しいので一目おかれているのも誇りらしかった。

 お金持ちで、村長の息子だから欲しいモノはなんでも手に入るケルスですら「翼」だけはどう逆立ちしても手に入れることはできない。 ましてや空を飛ぶ事も。 清流は翼を、飛べる事をたいそう自慢に、誇りに思っていた。


「みんなと違うって、いいよね」


 自慢げに微笑んで、そう清流は言った。

 ボクは翼なんかなくて他の人間と違わない方がいいと思っているのに、この差はどこから出てくるのだろう。

 ボクはなぜか無性にここから逃げたくなった。


「清流。 兄ちゃんと――」


 来るか、と言う言葉を飲み込んだ。 清流は、ここにいて幸せそうだ。 ボクがここからいなくなりたいからって清流を連れ出すのは間違っていると思った。

 きょとんとした顔でボクを見る清流の頭をボクは撫でた。


「いや、兄ちゃんもな、清流の翼はとっても綺麗で特別だな、って思うよ」

「えへへ♪ うん!」


 翼を褒められて清流はたいそうご満悦だった。

 父さんと母さんがいない今、ボクの出来る事は決まっているも同然だった。

 清流のこの笑顔を守ってやろうと思った。

 父さんの血から譲り受けたこの翼を誇りに思ってる清流そのままでいてほしいと思った。

 この村で清流が受け入れられて、清流が幸せに過ごしていけるなら、このままずっと清流をここで生活させてやりたいと思った。

 ケルスとともに、みんなの中心で輝いていた清流のまんまで。


――ボクも、もう少し村のみんなに気に入られるように努力しよう。 清流がこの村に居やすいように。


 ボクはおそらく人生で初めての目標を持った。

 同時に清流が翼を持っていることで再び神父達に何か実験されないか不安になった。


「清流。 でもみんなと仲良くする時は気をつけるんだぞ」


 清流は首をかしげた。 言われた意味が分からないようだ。 無理もない。 清流は無垢だから。


「なにに気をつけるの?」


 清流が尋ねた。 ボクは悩みながら答えた。


「何ーって、いろいろ。 兄ちゃんの言う事は、聞くんだ」


 清流は首をかしげながらも頷いた。

 ボクは頷く。 

 明日から、ボクもこの村の人に必要とされるように、出来る事からやっていこう。

 清流のために。

 

 


 

 ボクはちょっとだけ、社交的になってみることにした。

 まず教会の周りの掃除をしたり、少しずつ外に出てみた。

 村人が通ったら挨拶をしてみた。 ……誰も、返事はしてくれなかったけれど、大丈夫、きっと慣れてくれればボクの事も普通に扱ってくれるだろう。

 だってほら、遠くで遊んでいる清流が、村人から話しかけられているのがボクには聞こえる。

 『いきなりどうしたっていうんだ、もう一匹は』なんて声も聞こえるけど、ボクは気にしないようにしながら、気にした。

 兄であるボクが嫌われて、清流と一緒に村を追い出される訳にはいかなかったから。

 この村は清流の居場所だから。

 清流から居場所を奪うわけにはいかなかったから。

 何日たっても誰もボクに話しかけてくれなかったし、誰も変わってくれなさそうだったけど、ボクは我慢した。 きっといつか、いつか、ボクも受け入れてもらえるはずだから。 そして、清流と二人、この村で成長していくのだから。

 そんなある日、事件が起こった。




 

 ボクはいつも通り教会の周りの掃除をしていた。

 ほうきで落ち葉を集めるのにも慣れた。

 ちりとりに落ち葉をまとめて入れていた時、ボクの耳に微かな、とても微かな獣の声が聞こえた。


『グルル……』


――狼だ。 それもかなりの数の。


 ボクは辺りを見回した。


 いや、この『声』はまだ小さい。 村の外。 森の中。 それももっと深い、深い所――。


 このまま、遠くに行って。 そう願ったのとはうらはらにその群れは村へ近づいてくる。 しかも、とてもイヤな鳴き声だ。 攻撃的で、容赦のない。

 なぜ、と思ったその時、村の中で群れの狼とは別の、小さな狼の微かな声がした。 気配を探る。 気配は村長の家からだった。 


『あら可愛い』


 声がする。 これは村長の奥さん?


『まだ目も開いていて無い狼の赤ん坊でして。 森でみつけやした。 ケルス坊ちゃんの遊び相手にどうかと思って』


 これは出入りの商人の声


『狼のペットって珍しいわねぇ。 こんなに小さいのならきっと慣れるわね』


 狼の赤ん坊が親を求めてキュウキュウと鳴く。

 ボクは愕然とした。 森の外の狼たちはこの赤ん坊を取り返しに来るつもりだと直感が告げた。

 狼は怒り狂いながら村へどんどん近づいてくる。 時間が無い!

 ボクは翼を大きく広げ宙に舞い、村長の家を目指す。

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