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6-6 過去の夢2〜捨てられた先

 まず真っ先に見えたのは、教会の白い天井だったと思う。

 ボクを心配そうに覗き込む、やさしそうな顔をしたおじさん、というにはちょっと若い神父さんが視界に入る。


「ほら清流くん、おにいちゃんの目がさめたよ」


 神父さんは後ろを振りかえってそう言った。


「ほんとぉ?」


 清流の無邪気な声が聞こえて、にこやかな笑顔が目の前に姿を現す。


「おにいちゃん、だいじょうぶ?」


 清流に頭を撫でられて、ボクは頷く。

 喉は、やはり痛かった。


「裏の森にいたんだよ、君たちは」


 神父さんの声が聞こえた。 ボクは体を起こす。 神父さんが暖かいホットミルクを持って来る。


「清流くんが、おにいちゃんが起きないから助けて、ってこの教会に飛び込んできてね」


 そっとミルクを差し出す。 ボクはおそるおそるそれを受け取る。


「慌てて私が行ってみると君が倒れていた、という訳なんだ。 ところで君の名前は?」

「巳白」

「いや、それだけじゃなくて、名字」

「……名字?」


 ボクはポカンとした。


「うーん、やっぱり君も覚えていないか。 まぁ、小さいから仕方がないかなぁ。 自分が住んでいた村の名前も、覚えてる? お父さんやお母さんの名前は?」


 ボクは考えた。

 確かに、お母さんには名前があった。 お父さんにも名前があった。 しかし、いつも僕たちは二人の事をパパやママと呼んでいたし、お父さんもお母さんもお互いをそう呼び合っていたから、いざ名前は何だと尋ねられるとピンと来ない。 村は、やはり「村」としか言っていなかった。 

 ボクは首を横に振った。


「翼族の子供が捨てられていたって?」


 大きな声を出して一人のおじさんが部屋に入ってきた。


――捨てられた


 ボクはその言葉を感じて血の気が引いた。

「しぃっ」と、神父さんが指を口に当てる。


「迷子ですよ、迷子。 それにこの子達はへそもあるし、耳の形も普通だ。 だから翼族と人間のハーフだと思います」


 それを聞いておじさんは更に目を丸くした。


「ハーフか! こりゃ、初めて見た」


 そしてボクと清流の顔を交互に見ると、神父さんを指で招いた。 二人は少し離れた壁際に行って話す。


『それで、親の名前や住んでいた村は?』

『何も覚えていないようですね』


 二人は小声で話していたが、ボクには全部聞こえていた。


『覚えていないのか。 困ったな。 両方ともか?』

『そうですね。 どうやら二人は兄弟みたいなのですが、兄の方が覚えてないとなると……』

『兄弟か! めずらしいな』


――めずらしい?


『ええ。 確かに。 しかも普通に人間の村で暮らしていたらしいですよ。 人里追われて山の中で暮らしていたとかそういう類ではないみたいです。 それなりに躾もされている』

『人間の村で翼族と人間が夫婦として生活していたっていうのか? 奇特な村もあったもんだな』


――やっぱり、ボク達は普通ではないんだ……


『それで、どうして捨てられたんだ?』


 おじさんが尋ねた。 ボクもそれは知りたかった。 たとえ認めたくなくても。

 神父さんが考える。


『おそらく……母親が死んだので、父親は翼族界に帰ることにしたのでしょう。 しかしハーフの子供達は翼族界で受け入れられなかったのではないでしょうか? それで父親は子供達を捨てて……』


 ボクはめまいがした。 

 お父さんはボクの首をしめた。

 殺そうとしたんだ。

 そんな事実が明らかになって、ボクは何をどうしてよいか分からなくなった。


『じゃあー、この子供達はどうしようか、神父』


 おじさんが言う。


『それなんですが――ハーフは生殖能力もないし、幼いうちは人食の習慣はないと聞いています。 悪い子供達ではないみたいですし、当分はこの村に置いて様子を見てもいいのではないかと思います』

『調査委員会に報告は?』

『報告の義務はありません。 手に負えないようなら連絡をして引取にきてもらう事もできます』


 おじさんは考えた。


『村長。 私は小さい頃に病にかかったとき、通りすがりの翼族に命を助けてもらった事があります。 きっとこれはその時の恩を返すときだという、神のお導きだと思うのです。 ですからしばらくの間は……』


 しかしおじさん――村長だったんだ――は、苦い顔を崩さなかった。


『しかし、なぁ。 翼族のいるところ、翼族現る、とも言われている。 ハーフとはいえ血が混ざっているのは間違いない事実なんだし……』


 その時、教会の外で賑やかな子供の声がしたかと思うと、声の主が元気に教会に入ってきた。


「パパぁ! ここにいたの?」


 その男の子は清流と同じくらいの年頃で、おじさん村長の姿を見ると駆け寄った。 村長おじさんはあわてて子供に駆け寄る。 


「ケルス! 今はここに来ちゃいけな……」


 ところが男の子は次の瞬間、部屋の隅で模型自動車を握って遊んでいた清流に目を奪われる。

 清流も男の子の視線を感じて、遊んでいた手を止め、彼を見る。

 清流がにっこりと微笑んだ。 それはまるで本当の天使のような愛らしい顔で。


「ボク清流。 きみは?」


 清流の笑顔につられて男の子は「ぼくはケルス!」と元気よく答える。

 ケルスは清流に近づくと羽は本物か、とか、すごい、とか感動していた。 


「ぼく、おにごっこしてたんだ。 清流もしようよ?」


 ケルスの誘いに清流は顔を輝かせて頷いた。


「いってきまぁす!」


 ケルスと清流はあぜんとする僕たちを尻目に元気よく教会の外に飛び出していった。

 ぽかんと口を開けたままの村長に神父さんが笑いながら告げた。


「子供は悪意のあるものには敏感です。 大丈夫ですよ。 村長」


 村長は少し困った顔をしていたが、観念したようだった。



「ケルスのいい遊び相手になるかなぁ……」


 そして、ぼくたちはこの村で生活することになった。


 

 

 

 ここまで体験して、ケルスと清流の姿を見て、ボク――巳白、いや、違う、リト、そう、リトはふと弓の事を思いだした。

 弓はどうしているのだろう。

 リトが洞窟に落ちたので心配しているのではないか。

 無性に、弓に会いたくなった。


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