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6-5 過去の夢1〜両親

――ああ、また、夢だ。


 リトは夢を見ながらそう感じた。

 今、ボクは部屋で本を読んでいた。


「ねぇ、おにいちゃんも村祭り、行こうよぉ」


 清流が私―リト、じゃない、巳白であろう、ボクにそう言った。


「お母さんと二人で行ってこいよ。 お兄ちゃんはお父さんと家にいる」


 ボクと清流は前より大きくなっていた。 

 村の学校にも通うようになり、自分が普通の人間ではないと遅ればせながら気づいていた。

 幸い、お母さんとお祖父ちゃんは村で顔がきくようで、あからさまに拒否されてこそいなかったが、誰もが、そう、先生までもが常にボクを不思議そうに見て緊張しているのが手にとるように感じられた。

 いや、そんな事、もっと小さい時から気づいていた。 決して周囲は自分を受け入れてくれないと。


 ただ、清流は違っていた。 清流はいつでも無邪気で、天使のような微笑みで周囲に笑いかけた。 話しかけた。 周囲の人達も、ボクの時とは違ってすぐ清流とうちとけた。 

 おそらく村祭りに行ったって、ボクは一人だけど、清流はきっといつも通り笑顔で周囲を魅了し、売り場のおじさん達からオマケの飴を貰ったりするのだろう。 

 そんな考えのボクにお願いしてもムダだと思ったらしく、清流は「おみやげかってくるね」と言葉を残してかあさんと村祭りに出かけていった。

 ボクはしばらくしてから屋根の上に上がり、少し高い所から村祭りの会場を眺めた。

 人が沢山いて、楽しそうだ。

 ボクは思った。


 どうしてボクには翼があるのだろう。

 どうしてニンゲンに生まれなかったのだろう、と。

 

 ボクの遊び相手は清流と自分自身だけだった。

 ニンゲンの子と遊ぶと、必ずと言っていいほど相手に気をつかわせる。 それはとても申し訳ない事のように思えた。

 お母さんはボクの事も、お父さんの事も、清流の事も本当に大好きでいてくれる。 でもどうしてお母さんに似なかったのだろう。 二人の血が混じっているとはいえ、翼が無いハーフがあってもいいではないか。 翼がなければ、ニンゲンにしか見えないのに。 翼がある限り、ボクはニンゲンとして見られない。

 お父さんが梯子をつたって屋根に上ってきた。 お父さんの翼には黒い拘束具がはめられていた。 ちゃりちゃりと鎖がぶつかって音をたてるそれは確かに気持ちの良いものではなかった。 時々、お父さんとお母さんはこの拘束具の事について喧嘩とまではいかないけど、言い争いをしていた。 

 あなたの翼はとても素晴らしいものなのよ、そんなもの外して、と怒るお母さんと、翼なんてなくても生きていけるから、付けていても全然平気だよ、となだめるお父さん。

 ボクはお父さんの意見に賛成だった。 拘束具を付けることは、確かに他のニンゲンにとっては安心できることらしかったから。 それをつけるだけでニンゲンが警戒しなくなるなら、ボクにはとても意義のあることだと思った。


「ボクも、それつけようかな」


 黙って隣に座ったお父さんに向かってボクは言った。


「……大人になったら、いいかもな」


 お父さんはそれ以上何も言わなかった。




 その日、ボクと清流は二人で村の裏の森でいつも通りかくれんぼをして遊んでいた。

 いつも通り、お父さんが迎えにきた。


「さあ、歩いて帰るぞ」


 お父さんは僕たちの手をひいて歩き出した。

 しばらく歩いて村につくと、村人が慌ててお父さんに駆け寄った。 

 お父さんは血相を変えておじいちゃんの家に行った。

 


 

 次の日、お母さんのお葬式が執り行われた。

 雨がいまにも降りそうな、薄暗い雲が立ちこめた曇りの日だった。

 お父さんも、おじいちゃんも、泣いていた。

 訳が分からなかった清流は、ただ不思議だったらしく、みんなに「どうしてママは眠っているの」と尋ねていた。 ボクはただ清流をぎゅっと抱きしめた。

 

 

 

 お母さんが死んでから、ボクと清流とお父さん、3人での生活が始まった。

 お父さんは拘束具をつけるのを止めた。

 そしてお父さんはボク達の前では元気がってみせるけど、日に日に痩せていった。

 それはまるで自ら死期を呼び寄せているようだった。

 

 

 

 そして何日か過ぎて。

 お父さんはボクと清流を連れて、お母さんのお墓へ行った。

 ずっと、ずっと長い間、お父さんはお母さんの墓と向き合っていた。

 清流が眠たいと泣き出した。

 お父さんは――お父さんは、ボクと清流を抱いて、空へ飛んだ。

 お父さんは村を出て、はるか、はるか遠くに飛んで行く。

 ボクはお父さんに抱かれたまま、ぼんやりと夕日を眺める。

 夕日は美しすぎるほど真っ赤で、濃くて、怖かった。

 普通じゃない空の色。 そう、空の色が変だ。

 暫くして、お父さんは森の中に降り立った。 清流はぐっすり眠っていたので起こさないようにそっと地面に下ろす。

 ボクは何とも言えない胸騒ぎを感じて言った。


「――ねぇ、おとうさん、おかあさんのところに帰ろう?」


 お父さんは返事をせず、ボクをじっと見つめた。



 

 おとうさん? どうしたの? 

 どうしてそんな怖い顔してるの?

 

 

 お父さんの手が、ゆっくりボクの首に回される。


 

 お父さん、どうして泣いているの?

 どうしてお父さんがぼくの首を絞めてるの?

 息が――できないよ


 

 

 できないよ

 


 

 

 暗く、深い闇へと意識は落ちていった。

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