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4-8 チョイス?

「全然、話が見えないんだけど……」


 弓が、そう呟いた。

 それもそうだろう。 ここは3件目の靴屋さん。 クララの店の仕事が終わったから帰ろうかとしていた弓は清流に捕まり、そうこうしてたらリトが自分の仕事を速攻で終わらせ、リト先頭、それに清流が続き、弓は清流に腕を引かれて城下町の靴屋を3軒も回ったのだ。

 しかも店に入るや否や、リトと清流は店の中をかたっぱしから物色し、お互いに靴を取り出しては何やらこそこそ相談している。

 一体二人に何があったのか。


「んー、ダメだなぁ。 リトちゃん。 なんていうか、あともうちょっと、違うよ」

「やっぱり? それは私も思ったんだよねぇ。 いいのが無いなぁ〜」


 清流とリトがそんな事を言うものだから店員のこめかみがひくひくと動いている。


「お客様、このようなもののはいかがでしょう?」


 店員はおすすめの靴を差し出すが、清流ときたらここのラインが野暮ったいとかこの装飾はいらないとかともかくハッキリと切り捨てまくる。

 しかも清流とリトは店を回っているうちにだんだんムキになってきたらしく、絶対、幻の一品を探すんだという野心に溢れた冒険家のような顔つきになっていた。


「誰の靴を買うつもりかしら」


 弓はそう呟きながら店の外に飾ってあるものを見る。


「あ……これ、かわいい」


 するとそこに、ベージュ地にピンクの花模様が描かれたローヒールのパンプスが目に入った。 弓はそれを手に取り、いろんな角度から眺める。


「あ〜〜ん。 ダメだったね、清流くん」

「次に行こうか、リトちゃん」


 そこにリトと清流が店から出てきて、弓が手にした靴が目に入る。


『これ!』


 速攻で、リトと清流はその靴を指差した。

 

 


 

「……どうかしら?」


 弓がその靴を履いてくるりとターンした。

 ここは陽炎の館。 弓の部屋。 弓は先日着ていた花柄のスカートとカーディガンを着て、買ったばかりの靴を履いて、晴れ姿?をリトと清流に披露していた。


「どう思う? リトちゃん」


 清流が腕を組む。


「バックが、いまいち」

「……分かってるじゃない。 ぼくもそう思う」


 そして二人は「うーん」と一緒にうなる。


「待って!」


 リトは立ち上がると弓の部屋の扉を開け、白の館の部屋に入る。

 そしてすぐバックを何個か持ってきて、弓のベットの上に並べる。


「これなんかどう?」

「いや、こっち」


 すると弓をそっちのけでリトと清流は選び出す。

 弓はそんな二人を見て少し笑いながらため息をついた。


「それじゃ、これ」


 リトはカジュアルな手提げバックを取り出す。


「いいねぇ」


 清流も頷く。


「はい、弓。 持ってみて」


 リトからバックを渡され、弓は手に取って真っ直ぐ立つ。


「どーお?」

『いい感じ!』


 リトと清流の意見が一致した。


「ふふふ。 ありがとう」


 弓はそう言って椅子に座る。


「それじゃリトちゃん、ぼくは一度外に出るからさ。 後は下着をチョイスして」

「下着もっ?」


 弓が驚いた。


「当然。 そういう見えないところに気をつかえば、それだけで雰囲気変わるんだから。 もしもう作ってるならあの……」

「わ、分かったから! 清流! とにかくそれ以上言わないで」


 弓が真っ赤になって清流の言葉を遮る。


「はいはい」


 清流は笑いながら弓の部屋を出て行く。

 扉が完全に閉まると、「ふぅ」と弓がため息をつく。


「それじゃー、弓。 下着、選ぼうか」

「リトまでぇ? そんな事言うの?」


 弓が驚いてすっとんきょうな声を出す。


「あっはは。 ゴメンゴメン。 半分本気だけどね」

「半分は本気なのね……」

「ふふ」


 リトは弓と向かい合ってベットに座った。


「あー、面白かった。 清流くんって意外と話せるね」

「リトと清流って趣味が合うのかしら? まるでいつもの清流が二人いるみたいな感じだったわ」

「うん。 清流くん、お洒落なもの好きだなって、今日見ていて思った。 ちらっと聞いたんだけど、布とか選んでくれるの?」

「そうよ。 このスカートをこの布で作ったら可愛いからって。 お店で見つけてきたら、私がうんと言うまで引かないわ。 でもこれが意外と可愛かったりするの。 私、あんまり服のデザインとか気にしない方だったからほとんど言いなり。 他にも何着も作らせられてるわ」

「へぇ。 他にどんなのがあるの?」


 リトはちょっと興味がわいた。


「見る?」


 弓はそう言って立ち上がるとクローゼットを開けた。

 クローゼットの中には地味な色の服が大半を占めていたが、端の方に何着か可愛らしいデザインの服がかけてある。 「お出かけ着」という感じだ。


「うわっ、かーわいい。 清流くん、センスあるねぇ」


 リトは感心した。 弓は隣から覗き込む。


「ふふふ。 清流も喜ぶわ、それを聞いたら。 でも普段着として白の館に着て行くにはどうかな、って思わない?」


 普段着として……


「うん、ちょっともったいないかも。 マーヴェやロッティなら全然着こなせそうだけど」

「でしょ?」


 確かにそれらの服は可愛いが、普段着として弓が着るには少しハードルが高い気もした。

 そのとき、ふとリトは気づいた。

 弓がオルガノ村の温泉で見せた、小さな花柄の下着。

 もしかしてあれも清流のチョイスなのだろうか?

 下着を? 同じ年の男の子がチョイス?

 いやまさか。

 しかしあれを弓が進んで作ったとは考えにくかった。

 だが流石に、尋ねる事はできなかった。


「リトちゃん、 弓ちゃん、 もういい?」


 その時扉がノックされて清流の声が響いた。


「あ、はぁい。 待って。 清流。 もう選んだから普段着に着替えちゃうわね」


 弓が返事をする。


「オッケー」


 扉の向こうで清流が返事をする。


「じゃあリト、待ってて。 着替えちゃうから。 その後、下でお茶しましょ?」


 弓がリトの方を向いて言う。 リトは頷く。

 すると弓は服を脱いで下着になっていく。

 リトはさっき下着の事が気になったので、つい見てしまった。

 弓の下着はかわいげも飾り気もない、そっけない下着だった。

 それはまるで、囚人服のような。

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