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 1- 5 天然温泉

 周りは岩!

 目の前は海!

 絶景!!!


「どおだっ♪」


 リトはそう言うと勢いよく上着を脱いだ。

 そして続けてスカートも脱いで下着姿になると、そっと温泉に足をつけた。


「天然温泉……」


 弓が感心して辺りを見回す。

 リトに連れてこられた場所は、村から山の方に少し入った、岩場の中の天然温泉だった。

 かなり広く、奥の方は深そうだ。 三方を高い岩場で囲まれ、正面は崖ゆえに見えるのは海だ。


「そっ。 これがオルガノ村名物、天然温泉。 これは低温泉だからそんなに温かくはないけどね。 ほっかほっかの温泉に入りたかったら、また別のところにあるよ?」


 リトは気持ちよさそうにじゃぶじゃぶと太ももあたりまで温泉に入っていく。


「リトが正確な水遊びをしたことがない、って言ったのはこのことだったのね」


 弓は手を温泉に浸しながら言った。

 リトが振り向きながら応える。


「そっ。 水遊びの代わりに温泉遊び? 冷たすぎないし、楽しいよ? 早く弓もおいでよ。 今なら誰もいないし」


 そんなリトを見て、弓は、ふぅ、とため息をついた。


「どうしてリトの下着がそんなにシンプルで服みたいなのか、分かったわ」


 へ?


 確かに、そう気にしたことは無いが、今、リトが着ている下着は上も短めのタンクトップシャツみたいだし、下もとても短い短パン、という感じではある。

 この姿で町中を歩くことは、この年になってからでは流石に無理があるが、家の庭まで位だったら平気で歩き回れる、そんな感じ。

 というか、みんなそんなものではないのだろうか。


 そんな事を考えながらも気持ちよさそうに温泉の中を歩き回るリトを見ていて、弓は決心したかのように一呼吸すると上着を脱いだ。

 弓の下着姿なんて、一緒にお風呂に入ったことはあっても、そうまじまじと見た事はなかったし……。


 と……


 リトは思わず、動きが止まった。


 小さな花柄の。

 とても可愛い下着。

 そして、とても、可憐。


「かわいい……」


 リトはぽつりと漏らした。

 弓の下着の可愛さたるや、ちょっとした貴族の箱入り娘の品のようである。 


「弓、それ、どこで買ったの?」


 思わずリトは尋ねた。

 弓は少しふくれながら言った。


「自分で作った」


 恥ずかしいのか、弓の耳が赤い。

 リトはそんな事は気にせずに弓の姿を見つめた。

 自分が洗いざらしの真っ白なシーツなら、弓はレースのついたカーテンのような。 そんな感じ。


「今度はリトみたいなのを作ろうっと……」


 弓はまだ少しふくれながらブツブツと言っている。


 いやー、私が男だったら、ずっと眺めていたいけどなあ〜

 そんな事を思いながら。

 ふと、リトは悪い予感がした。


「ゆ、弓。 服を着て帰ろうか」


 慌ててリトはそう言った。


「え?」


 覚悟を決めてスカートのホックに手をかけていた弓が首を傾げる。

 リトは弓の姿が、ここでの暗黙の了解に反することに気づいたのだ。


 ここは、水遊び場であって、風呂ではない。

――つまり、誰でも、遊びに来ることが出来、誰に見られても構わないのだ



 その時、リトは頭上の大きい岩に、二つの人影の気配を感じた。

 二つの影は岩を蹴ると空中に飛んだ。


「い−−やっほぉ−−い!!」

「うっひょぉ〜〜〜っ!!!」 


 二つの影は太陽を背にして気持ちの良さそうな雄叫びをあげながら温泉に飛び込んだ。


 ばしゃぁんと、大きな水しぶきが上がる。


 二つの影は奥まで潜ってから、勢いよく水面に顔を出す。

 弓やリトと同じくらいの年頃の少年だ。

 少年達は犬のようにブルブルッと頭を振って水を払うと、まずリトを見、そして弓を見―― 

 リトはちょっと待って、と言おうとしたが間に合わなかった。


「いやぁああああっ! 羽織様っ!」



 弓の、可憐な叫び声が響き渡った。


 弓の悲鳴が岩場にこだました、その瞬間。


 刀と刀でぶつかりあった時のような鋭く尖った音が、弓と飛び込んできた少年達の間に響く。

 そして一粒の小さな光の粒が割れて弾けると――


 何もなかった空中に、突如現れる人の影。


 それは、一人の少年だった。 

 彼は黒く長い髪を一つに束ね、背中に二本、手には一本の剣を携え、大空を自在に動く龍のように滑らかに地面へと下ってくる。


「弓っ!」


 少年は弓を見て、迷子になった子供を見つけた親のように顔を輝かせると言った。

 温泉に飛び込んだ少年二人は、頭上の光景に見入る。 


――あっちゃあ、呼んじゃった。


 リトは少しだけ苦笑いしながら急に現れた少年を見つめた。

 いや……

 ほんの少し、予想通りだったが、現れたのは黒髪の少年だけではなかった。

 黒髪の少年の長い髪の先に、しっかりと捕まれた手が見えた。

 手は、少しずつその先の姿を空間に確実に現していく。

 腕、服。 ――そして栗色の髪の少年。

 そして、栗色の髪の少年の服を掴んでいる、新たな――

 褐色の肌をした、手。

 リトの胸が、一瞬、ぎゅっと締め付けられた。

 褐色の肌をした腕がどんどん空間に姿を現していく。


「アリド……。」


 リトは呟いた。

 そして更に、褐色の六本の腕に捕まれて、金髪の少年が一人。

 総勢4人。 

 彼らは空間の中に、現れた。 


「羽織様っ」


 弓が黒髪の少年を見つめて叫ぶ。

 羽織と呼ばれた少年が、弓に向かって微笑み返そうとして――

 ボッ、と赤くなった。

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