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4-6 ホントだ。 神の樹だね

 リトは清流と約束したとおり、午後の学びが終わると待ち合わせの場所にいるはずの清流を探した。

 白の館の窓から覗くと、お昼休みの時にリトが休んでいた場所に清流がごろんと寝転がっている。

 気持ちよさそうに目まで閉じている。

 するとその清流のすぐ近くを兵士が通る。

 ちらりと清流に目を向けるが特に気にせず歩いていく。


「リト。 何みてるの?」


 するとリトの背後から女官達が一緒に外を見るが、さきほどみたいに騒いだりしない。


「あー、いいなぁー、昼寝。 気持ちよさそう〜」


 と、呟いた少女は、なんとついさっき清流に花束を渡した女官である。


――見えてない、訳じゃない。


 リトは清流と女官達を交互に見る。

 リトは女官達と別れて、清流の元へ向かう。

 途中でラムールの事務室に寄り、清流が貰った贈り物を紙袋の中に入れる。 その時、ふと気になって窓際に来て床を見た。

 今日は葉書は落ちていない。

 なんとなく安心して、リトはラムールの事務机の上に目を向ける。

 小さな白いカードに「リトへ」とラムールの綺麗な文字で書かれていた。


「何だろ?」


 リトはカードを手にする。 


 

 リトへ

  一つお願いがあります。

  巳白がスン村に行く前に拘束具を取りに来た時、もし私が不在なら、

  代わりに巳白に拘束具を渡してくれると助かります。

 


 まるで硬筆のお手本のような文字で書かれている。

 裏を返すと「読み終わったら処分して下さい」と書かれている。

 しかしリトは巳白にもし拘束具を渡さなければならない時に不審がられては困ると思い、そっとスカートのポケットの中に入れた。

 


 荷物を持って清流の側に行くと、清流は眠っているかのように身動きひとつしない。


「……えっと……」


 リトは座り込んで清流の名を呼ぼうとした。 しかし先ほど清流が「陽炎隊」と「清流」のキーワードを言わない限り自分が女官に取り囲まれることはない、と言ったのを思い出してためらった。

 ここで下手に清流の名を呼んだら、何かしらの術が解けてしまうのではなかろうか。

 リトは片手を上げたり下げたりしながらまごつく。

 すると、清流の肩が小さく震える。


「……っくく」


 その閉じた唇から笑いが漏れる。


「起きてるのっ?」


 リトは驚く。

 すると清流の片眼がぱちっと勢いよく開き、清流は体を起こす。

 はらり、と清流の体から芝生が落ちる。


「寝ちゃう訳、無いじゃん」


 悪戯っぽく答える。


「さって、じゃ、案内して。 リトちゃん」


 唖然とするリトの事なんか気にせずに清流は立ち上がる。


「いい性格してる」


 リトはぶつくさいいながら「こっち」と言って歩き出す。

 二人は白の館の裏庭の小さな森の中に入っていく。

 森の中は明るく、二人を暖かく迎え入れているように思えた。

 清流もゆっくりとあたりを見回す。


「小さいけど、いい森だね」

「そうなの? 私はよく分からないな」


 リトがそう答えると清流は間を置かず


「分からなくて当然だから」


 と答える。

 はいはい、と思いながらリトは進み、そして少し開けた場所に出る。

 少し開けたその空間で、神の樹はいつもとおなじようにリト達を迎えてくれた。


「ホントだ。 神の樹だね、リトちゃん」


 清流が感心したように呟いて近づく。


「清流くん。 その言い方。 もしかして信じてなかった?」

「うん。 リトちゃんの事だから勘違いしてるかなと思った」


 あっさりと言ってのける。

 そして清流は神の樹にそっと触れる。

 神の樹は黙って触らせているような気がした。


「何か言ってる?」


 リトは尋ねた。


「教えない」


 清流は笑って答えた。


「それじゃ、蒔く?」


 リトは紙袋の中から女官達が渡した手紙を取り出す。 清流を見るとこちらに向けて手を伸ばしている。 ちょっと意外だった。


「ぼくが蒔くよ」

「そう?」

「人間が蒔くより、翼族が蒔く方が成長がいいんだよ」

「ふぅん……」


 なんとなく生返事をしながらリトは清流に手紙などを渡す。

 清流は手紙の封をそっと開けると、それをゆっくりと細かく裂いて地面に散らす。

 丁寧に、丁寧に。 おそらく読む行為よりも丁寧に清流の指は手紙を細かく裂いた。

 それはまるで、捨てられる手紙には元々別の崇高な役割があったかのように。

 地面に落ちた手紙の切れ端は、まるで遠くから眺める水面のようにふるふると小さく揺れ、それから小さな炎を発してから土に消えていった。


「リトちゃんたちが蒔くときと違うでしょ?」


 清流が言った。


「……んー」


 リトは曖昧な返事をしながら、自分の部屋から持ってきた失敗したドライフラワーを同じように蒔いてみた。

 色素が変化した花が地面に落ちると、それはいつもの通り雪のように溶けて消えた。


「ね、リトちゃん。 違うでしょ?」

「違うねぇ」


 リトはしぶしぶ認めた。

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