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【4部 殺滅許可証】4-1 夜間外出禁止

『夜間外出禁止?』


 女官達はみんなで声を揃えた。

 時間は就寝前。 白の館の泊まり組が一室に集められ、女官長から「夜間外出禁止」が言い渡されたのだ。


「とは、いっても……」

「ねぇ」


 と、女官達は顔を見あわせる。

 女官長も苦笑いする。


「そうですね。 泊まりのあなた達は門限が決まっていて、その時間を過ぎると外出はできませんからね」


 女官長は頷きながら続ける。


「とにかく、国内に夜間外出には注意するように、とおふれが出ています。 ですから日没から日の出までの間は、極力、一人では館の外に出ないように。 注意が解除されるまでは、お手伝いに行く時も気をつけるように」

「先生。 お手伝いの時も気をつけるように……って、何があったんですか?」


 ランが手を上げて質問した。


「たいしたことはありません。 最近、夜間にタチの悪い若者達が悪さをするので、兵士の一部と自警隊が警戒で回る事になったのですよ。 余計なトラブルを避けるためにも一般人は外に出るのを控えましょう、という事ですよ」


 ふーん、と女官達は頷く。

 おそらく城下町西地区のスラムに住んでいる不良達だろう。 アリドが除籍処分になって、この国にあまり姿を見せなくなってからというもの、少しずつあの地区は治安が悪くなっていった。 アリドがいた時も決して治安が良いとは言い難かったが、今は彼らのすべてが無軌道に乱れているような感じだった。

 その後、リト達は各自、部屋に戻る。 その時、


「おっかしいなぁ、ボルトに聞いた感じじゃ、スラムの不良達のせい位じゃ外出禁止になんかならないって事だったけどなぁ……」


 兵士の彼がいるフローラルの台詞が聞こえてきた。


「あんたの彼なんか一兵士じゃない。 そんな男の言葉はあてにできないわよ」


 他の女官が言った。


「ひっどーい」


 フローラルが怒る。

 また、他の女官が


「ねぇねぇ、でも、外出して危険な目にあったら、ラムール様とか陽炎隊とか、助けに来てくれないかしら」


 等と言っている。 すかさず監督係のルティが「あなた、馬鹿な事言うんじゃないよ」と注意をしている。


 ホントだよ、とリトも思った。


 危険な目に遭った時に、陽炎隊がすかさず助けに来る相手といえば、弓一人だけなんだから。

 そうこう考えて部屋に入り、リトは黙って扉を見つめた。

 フローラルの台詞も気になる。

 リトは弓の部屋に遊びに行く事にした。

 大丈夫。 夜間外出だが、屋内から屋内だ。

 リトは机の引き出しからお札を取り出すと、扉に貼る。 そしてノックを5回、する。


「リト? どうぞ」


 扉の向こうから弓の声がする。

 リトは扉を開け、リトの部屋へと入って行った。

 




「何してるの?」


 リトは部屋に入るなり、そう言った。 というのも、弓が外出の準備をしていたからである。 

 たいていこの時間はパジャマで編み物をしている事が多い弓が、洋服で、冷えないようにカーディガンをはおって、しかも手提げバックまで持っているのだから。


「今から外出? 白の館じゃ夜間外出禁止令が出てるんだよ」

「え? ホント?」


 弓が驚く。


「うん。 兵士や自警隊が回るって聞いたから、陽炎隊もかなぁって思って様子を見に来たんだけど」

「羽織様達は何も言ってなかったわよ。 聞いてみるわ」


 弓はそう言うと部屋の外に出た。 もう夜もふけているのでみんな部屋に入ったのだろう。 リビングに人影は無く、灯りも消えていた。

 弓は隣の部屋の扉をノックする。 返事がない。


「来意、いないみたい……」


 弓がそう漏らす。


「それじゃ、清流の部屋かしら。 きっとアリドが来ているんだわ」


 弓の言葉にリトの胸がどきんと高鳴る。


「あ、いいよ、いいよ、弓。 また、今度にしよう」


 リトはそう言って弓の手を引き部屋に入った。


「いいの? リト」


 不思議そうに弓が尋ねたが。


「……だって、私、パジャマだよ」


 よく考えたらこんな姿では羽織達に合うのも恥ずかしい。

 しかもパジャマの柄はパンダときた。

 弓がくすくす笑いながら頷く。


「じゃあ、私が後で聞いてみるわ}


 そう言って二人は弓の部屋にもどる。


「で、弓。 何してたの? 今頃。 どこかに出かけるの?」


 再度、リトは弓に向かって尋ねた。

 弓は少し恥ずかしそうに、


「うん。 今度のお休みの日にね、城下町に羽織様と二人で遊びに行くの。 その服を考えていたのよ」


 と、言った。


 おお、デートか。


「これ、似合うかな?」


 そう言って弓はくるりと回って披露する。

 清楚な花柄のスカートがよく似合う。

 レースのカーディガンは手編みだ。


「うん。 かわいい」


 リトはにこっと微笑んだ。 弓は喜んで


「ホント? やっぱり清流だわ」


 と言った。

 なぜ清流の名前が出てくるのか、その時のリトには分からなかった。




結局、リトは何も分からなかった訳だが、別に夜間に出歩く理由がある訳ではないのでそこまで追求しなくても、という結論に達した。

 しかし、白の館に戻って、よくよく考えると別の件でちょっと気がかりな事に気が付いた。

 それは――


「ねぇねぇ、どうにかして陽炎隊と会えないかしら???」


 やはり、今日も聞こえてきた。 この台詞である。

 朝、リトはいつも通り洗面所に行き身支度をする。 そこには当然他の女官達もいて支度をしながら雑談をする訳だ。 そこで、最近必ずといっていいほどこの台詞が聞こえてくるのだ。

 陽炎隊は自警隊に登録されてからというもの、国内の各地方で「人助け」をしていた。 それは村を荒らす魔獣を退治することもあれば、迷い人を助けたり、お尋ね人を捕まえたりと、かなり良い働きをしていた。 

 最初はDだった自警隊ランクもあっという間にBまで上がり、早いうちにSクラスまで行くだろうと皆が予想していた。

 それだけの活躍をしているのだから当然、女官達の中にも彼らに助けられたり出会った者もいて、しかも「かなり」色んな意味で人気があった。 城下町祭りで占い師として色んな人の運勢を見ていた来意に会って占って欲しいという子が一番多かったが、 片眼に大きな傷がある清流も、「それでもハンサムできれい」という理由で非常に人気があった。 世尊の力持ちさが好きだという子もいたし、羽織の剣さばきがかっこいい、と言う子もいた。

 しかし陽炎隊の情報は氏名や出身国、使用武器程度の情報しか明らかにされておらず、詰め所は設けられていないわ、連絡先は自警隊を総括している城しかないわ、では、少女達には情報が少なすぎて余計「知りたい知りたい」と思われてしまうのも仕方なかろう。


「あーん、もう、だれか一人でもいいから、どうして住んでいるところとか、分からないのかなぁー」


 女官の一人がぼやいている。 まさか四人とも同じ屋根の下に住んでいるとは思ってもみないらしい。


「知ってどうするの?」


 ルティが呆れながら質問する。 尋ねられた子は間髪入れずに返事をする。


「それは! もう! 絶対、押しかける!」


 ……これは絶対、陽炎隊がスイルビ村の陽炎の館にいるよー、なんて言えない。


 だからこそ。

 リトは今度、弓と羽織が一緒に城下町に遊びに行く、というのが不安になった。

 弓は白の館に来る時は一人か、義軍と一緒で、たまに巳白が送ったりするが、基本的に陽炎隊のみんなと一緒に行動している姿は見ない。

 しかも陽炎の館があるスイルビ村は国の北のはずれにあり、翼族もいるから、ということもあり遊びに行く人もいない。 だから誰も陽炎隊と接点を持てないのだが……

 二人で城下町を歩いていたら色々と、まずいのではないか……

 いや、まずくはないかもしれないが……

 リトは悶々と考える。


「だからって、止められないしなぁ」


 そんなことしていたら、馬に蹴られてしまう、から。

 答えは出せないまま、リトはその後、オクナル家にいって、掃除をする。

 大分、ここの手伝いにも慣れたものだ。 

 今ではかなり高い皿を触っても、怖くない。

 初日はここにある調度品がとても高価な物ばかりなので壊したらどうしようかと気を使って死にそうだったが。


「ああ、ちょうど良かった。 リト。 来てちょうだい」


 その時、女中頭がやってきて、リトを呼んだ。

 リトが後についていくと、客間に他の女中と、ハルザがいた。 ハルザの前には袋がある。


「大奥様が、もしいらない物があれば貰えないか、とおっしゃるので、リト。 あなたももしいらないものがあればお渡ししてあげて」

「あ、えーっと……」


 見ると、女中達は袋の中に、ハンカチや小物を入れている。


「今はお手伝いに来ているだけですから、特に何も持ってきてないんですけど……」


 リトが言うと、ハルザが笑った。


「ああ、無理にじゃないから、いいんじゃよ。 リトはこっちに持ってこなくても――たとえばもう使わなくなった小物でもあれば、……リトなら直接でもいいかねぇ」


 リトはピンときた。  神の樹にあげる肥料だ。


「直接でもいいのなら、私、あっちでしましょうか?」

「うむ。 それでもいいかの」


 ハルザが頷く。

 そっか。 ハルザはこうやって神の樹にあげる「糧」を調達していたのか。

 リトは妙に納得した。



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