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 1- 4 まるで懺悔

 きっとそれは、リトにも、おかあさんにも、そして抱きしめられている弓にとっても予想外だった。

 おばあちゃんは、とても強く弓を抱きしめていた。

 まるで懺悔でもするかのように。


「あ、あの……。 おばあさま、苦しい、です」


 弓が恐る恐るそう告げると、我に返ったようにおばあちゃんは抱きしめていた弓の体を離した。


「あ、ああ。 すまなかったね。 ……すまなかったね……」


 二回目の”すまなかったね”は、弓に向けて言ったようでもあり、もっと別のものに言ったようでもあった。

 リトは少し頬を赤らめ、手に持っていた眼鏡入れをそっと差し出す。


「お土産です。 気に入って頂けるか、分からないけれど……」


 おばあちゃんは弓の手から眼鏡入れを受け取る。

 はぎれをうまく組み合わせて、秋のそよ風のような、落ち着いた柄に仕上げた布製の眼鏡入れ。 縁を朱色の刺繍で丁寧にまつってある。 一目見てわかる、とても丁寧に作られた眼鏡入れだった。


「おやまぁ」


 おばあちゃんが目を丸くした。 おかあさんも横からのぞき込む。


「あらー、弓ちゃん、上手だねぇ? リトね、あんたもちっとは見習いなよ」


 母親はおそらくそういうリアクションに出るとは思ったが、リトは「うるさい、おかーさん」とだけ言った。


「リト。 ばあちゃんもな、見習ったがいいと思うぞぉ?」


 娘と孫のやりとりを聞きながら、茶化すようにおばあちゃんは言った。

 そしてみんなで、あははと笑う。

 良かった。

 どうやら弓を招いても問題は無かったようだった。




 

 その後、リトは小さい村の端から端まで歩いて弓を案内した。

 リトの生まれ育ったオルガノ村は海のすぐ近くで、村の前の切り立った崖の下は見渡す限り海である。


「いい眺めね〜、リト」


 どこまでも続く水平線と無限に広がる青い空を見ながら、気持ちよさそうに弓が言った。

 弓が感動するのも無理はない。 弓の住んでいるスイルビ村はかなり国の奥まったところにあり、四方は森ばかりである。


「同じ国でも全然違う。 海の香りがする」

「そう?」


 弓に言われて、リトは鼻をひくひくさせる。 

 海の香り、といわれればそうかもしれないが慣れ親しんだ空気。 よくは分からない。


「この海で泳いだりするの? この崖から飛び込んだり?」


 弓が嬉しそうに「崖」を見下ろしながら尋ねる。


「まっ、まっさかぁ! この村じゃ泳げないよ。 ここからまだ先に2つ行った村まで行けば海まで下る道があるから泳げるけど……」

「え? 飛び込まないの?」


 心底不思議そうに弓が首を傾げた。


「高いってば……。 飛び込んだら登ってこられないよ」


 数秒、弓は考え込む。


「あ、そっか。 川と違ってそのまま下れば下流の適当な岩場がある、って訳じゃなかったね」


 おいおい。


「……もしも、ここから飛び込んで、登る方法があるとすれば、弓って……飛び込む?」

「うん。 楽しそう」


 迷わず弓は返事をする。

 新たな弓の一部を発見だ。


「でも、この海で泳がないんだったら、リトは水遊びとかしたことは無いの?」


 弓の問いに今度はリトが少し考える。


「正確な……水あそび、は無いかもしれない……でも」

「でも?」


 にやっと笑って、リトは弓の手を引っ張った。


「オルガノ村名物、見せてあげるからついてきて♪」


 きっと驚くぞ?


 リトはうきうきしながら駆けだした。

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