3-11 確定の印
姫が去り、周りが十分静かになってからリトは枕元の「世界甘味百科」の中から「翼族の歴史」と「翼族の生態」を取り出した。
とても自分が混乱しているのが分かった。
リトは、巳白の事を怖いと思った事は無かった。
姫も、新世さんを怖いと思わなかった、と言った。
しかし、初めて読んだ「翼族の歴史」では、かなり翼族の残虐行為が目立った。
この「ずれ」は一体何なのか。
リトは「 翼族の生態 」の本を手にした。
デイは必ずこれも読め、と言った。
リトはゆっくりと開いた。
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翼族の誕生
翼族は卵から生まれる。 孵化までの日数は不明。
卵から孵った翼族の赤ん坊は人間の赤ん坊と差は無く、母親の乳で育つ。
当然、卵から孵るので「へそ」は無い
翼族の容姿
必ず背中に鳥とほぼ同じ形態をした翼一組がある。
翼は翼族にとってエネルギーの源であり、翼族独自の能力を発揮するためには不可欠。
耳は耳輪の上部が後頭部に向けて長く伸びている(笹の葉型)
牙がある。
翼族の能力
五感はかなり敏感
魔法能力が高い
空中を浮遊することが出来る
翼を使い滑空することも可能
翼族の性質
成長に伴い人間の血肉を食するようになる
翼族の長は血縁世襲制 長のみ単独で翼族の卵を作り出すことが出来る。(詳細不明)
翼族の雄は人間の女性との間に子孫を残す事は可能だが、逆は不可能。
翼族と人間のハーフに生殖能力は無し
ハーフは短命
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やはり、ハーフは安全なのだ。
リトは改めてそう思った。
デイがこの本を読めと言ったのは、巳白や清流は安全だ、と改めて教えたかったのではないか。
翼族の血を引くからといってリトが不必要に警戒したり怯えたりしないように。
「そんな心配しなくたって、巳白さん達を怖く思ったりしないのにね」
リトは呟いて読み進めていく。
それには翼族がどの位の腕力があるか、どの位視力が良いか、どの位跳躍力があるか……
この本もまた、後々から書き加えられた場所も多く、ただし訂正に訂正を重ねた部分も多く、どれが正しいのか分からない部分もある。
例えば。
「翼族に血を吸われた者の、その後。 えーと、翼族の妻となった人間の女性、子供を儲けることなく一生を終える、翼族と争った際に血を吸われてしまった男性、え? これって人間よね? えと、後日、村人を襲った? でも、看病してくれた村人を翼族と見間違えた可能性もある? え? で、ここで斜線で全部消されて”詳細は不明” それぞれの字体もバラバラ。 わかんなーい」
思わずリトは「わからない」で〆た。
しかし、つぎのページ。
ページの上部に赤い判子で「確定」と押されている。
確定?
では間違いない、って事なのかな?
リトはそう思いながら読み進める。
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確定
*/*日
至急 この本を所持している者達に調べて貰いたいことがある。
人間と円滑な関係を結んでいる翼族が人間を襲うようになる兆候らしきものを発見した。
各自、過去の経験及び周囲の話、状況を分析されたし。
1. 普段通りに食事を取るが、痩せていく
2. 菜食を好まなくなる
3. 特に穀物にあっては吐き出すほどの拒絶反応を見せる。
4. 肉、魚の調理法を生やレアぎみのものを好んで食する。
もしくは、サラダなどの野菜のみしか食べようとしない
* ここで一番注意してもらいたいのは「3」だ。
これが出るとかなりの高確率で数日内に人間を襲うようになるか「狂った翼族」になる
よろしく頼む。 No.3698
ビンゴだ!3698! まさに昨日殺滅した翼族がそれにあたる。 No.5846
私が観察している翼族には現在すべての項目があてはまる。 観察を続ける。 No.333
俺が「狂った翼族」のジェイド男爵を捕まえに行った時も、確かに穀物類は城の貯蔵庫に一切無かったぜ。 こいつらはパンも米も食わないのかと変に思ったのを覚えているぜ。 参考までに。。。No.4657
えーと、No.777デス。
わたしが殺滅した翼族6体も同様の症状がみられました。 保護責任者もそう言っています。
報告。間違いない。今日、観察中の翼族が突然変態し、幼なじみを襲う直前に殺滅成功。
詳細は翼族の歴史に載せておいた。 No.333
よくやった!確定だ!確定の印を押すぞ!from ST
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