3- 8 情報は多い方が
リトは黙ってページをめくり続けた。
途中から書き方が変わった。
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この本を所持するみんなに提案なのだが、それぞれが村で見つけた翼族がいると思う。
それらの情報も書かないか? そうして情報を共有すれば処理がしやすい。from ST
賛成。情報は多い方がいい。 BY 23
どんな情報? 人間界の村に住むただの翼族を書く? それとも狂った翼族?
・・・jk
おいおい、翼族はいつ「狂った翼族」になるか、お前に分かるのか? すべてさ。 すべて。
あいつらはすべて滅ぼさないといけない from ST
平穏に暮らしているだけなら何も無理して処理しなくてもいいと思うけど。 BY 23
甘いな。 そんなことじゃ喰われちゃうぞ
・・・jk
分かったよ。 それじゃまず、俺が情報を載せる。
北地方のリード山脈。 成人した翼族♂が一名いるとの情報。 BY 23
****年**月
北地区 無番地。 リード山脈ポイント563地点 午前
翼族氏名 ロイボックル
殺滅完了 from ST
追伸 サンキュー>23
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どうやら この本を書いた人達は、この本の特性を生かして情報の共有をはじめたようだった。
この本は、読めば読むほど血の気が引く、としか表現できなかった。
その中でも特にショッキングだったのが、翼族の大群に襲われ、小さな国が全滅してしまったのが一度や二度ではなかったことと、100年近く国の外れの城に住んだ男爵が小さい子を誘拐しては食べてしまっていたり、翼族に噛まれた女が同じように赤子を連れ去っては食べていた、等である。
リトは本を閉じ、天井をみつめて本の事を考えた。
勿論、全部をくまなく読んだ訳ではない。 流し読みである。 妙に書いてある事が長いなと感じたものだけ読んでみたり、綺麗な字で書いている人の分だけ読んでみたり……中には何と書いてあるのか分からない下手な文字もあった。
しかし、もう読みたくなかった。
どこを読んでも、翼族が人を襲った、それを翼族調査委員会が退治をしに行った、退治したメンバーが翼族に襲われ死んだ、のエンドレスである。
これなら、スン村の人達が、いや、巳白の事を知らない人が、翼を持った巳白を見てヒステリックに捕まえたり怯えたりする理由も分かる。
翼族とは、人を襲うものなのだ。
大事な村を、人を守るためなら誰だって、誰だって……
リトの脳裏にスン村の人々が巳白を捕らえる様が浮かぶ。
そしてスン村の女が「退治してくれないか」と言った訳も分かる。
村の者達が拘束具を決して外そうとしなかったのも、
清流が、翼族調査委員会なんて所にやられてたまるか、と激怒したのも。
だから。 そう、だからこそ。
リトはラムールの事を思い出す。
「もっと早くに迎えに来て、巳白さんを守ってあげたらよかったのに……」
そう口にしてまばたきをすると、瞳から涙が溢れた。
巳白さんは安全だと叱っても良かったのに。
保護責任者なんでしょ?
ラムール様しか守れないのに。
そう考えれば考えるほど、リトの目から涙は溢れて止まらなかった。
そして、いつの間にか、眠りについた。
夢に、ラムールが出た。
ラムールは忙しそうに歩き回って仕事をしていた。
リトは巳白が処刑されるという話を聞いて慌てて部屋に駆け込む。
「構わないじゃないですか。 翼族なんて人間の敵でしょう? それに保護責任者なんて忙しくて面倒なだけです。 いなくなってくれた方がせいせいします。 それより仕事を手伝って下さい」
ラムールはそう言って、山のような書類をリトに押しつけた。