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 2-14 口論。そして喧嘩別れ

「どうしてお前はそうなんだ!」

「佐太郎には分からない!!」


 リトが事務室まで来たときに、二人の会話はほぼこの台詞のエンドレスだった。

 ノックもせずに扉を開けて中にはいると、ラムールは魔法を使いながら部屋の中の書類を整理し、佐太郎はラムールについて歩きながら怒鳴っていた。


「なあ、何か訳でもあるのか!」

「訳なんかない!」

「じゃあなぜ教えない!」

「別に?!」

「おれにあいつらの墓を参らせないつもりか?!」

「今まで神の樹に参ってた、それで不便もなかった、それでいいじゃないか!」

「そういう問題じゃ……!」


 佐太郎の拳が上がった。


――いけない。


 リトは思わず佐太郎にしがみついた。


「ちょ、ちょっと、落ち着いて下さい、二人ともっ!」


 佐太郎が歯をくいしばり肩で息をしながら上げた拳をゆっくりと下げた。

 ラムールはしっかりと佐太郎を見、一歩も引かぬと力を込めて立っていた。


「今日は帰って。 佐太郎」


 ラムールが言った。 声が怒りを抑えて震えている。


「嫌だ」


 佐太郎は言い切った。


「あの二人が死んだ訳も墓の場所も教えないなんて、明らかに変だ。 お前は何を隠している? 何を考えている? あいつらの子供同然の坊主達は放置するし……」

「だから佐太郎には関係ない!!!」


 佐太郎の言葉を最後まで言わせずにラムールが怒鳴った。

 佐太郎の顔色が変わる。


「関係無い、か?」


 ぎりり、と佐太郎が歯ぎしりをした。


「教えないのなら、もう協力はしないぞ? それでも関係無いと言うのか?」


 低い声でゆっくりと佐太郎は言った。

 その時、初めてラムールの表情がこわばった。


「どうだ?」


 ラムールは答えなかった。

 協力、が何の事かリトには分からなかったが、それがとてつもなく大きな事でラムールを黙らせるだけの威力のあるものだということは分かった。


「どうする?」


 再度、佐太郎は尋ねた。

 ラムールはぐっと唇をかみしめ、拳を握りうつむいた。


「……かまわない」


 そうぽつりと呟いたラムールの返事は佐太郎にとっても予想外だったのだろう。 佐太郎の髪が逆立ちラムールを睨み付けた。


「おい。 これが最後だぞ? もう一度聞くぞ? 本 当 に 協 力 し な く て も い い ん だ な ? それでも一夢と新世の死んだ事や墓の場所を教えないと、 言 う ん だ な ?」


 一言一言に怒りがこもっていた。

 ラムールは顔を上げて佐太郎を真正面から見ると言い切った。


「それでも構わない!」


 一気に佐太郎の怒りは頂点に達した。


「ああ、そうかい! 分かったぜ! そんなヤツだとは思わなかった! お前との縁もこれまでだ。 せいぜい自分勝手に生きて行くがいい!!」


 そう言うとしがみついているリトをふりきり、一度も振り向かずに事務室を出て行った。

 バタン、と大きな音を立てて事務室のドアが閉まる。

 事務室にはリトとラムールだけが残された。

 ラムールは佐太郎が出て行った事もまるで無かったかのように、極めて冷静に歩いて事務机に座ると大量の書類に目を通したり判を押しはじめた。


「……いいんですか?」


 リトは思わず口を開いた。


「かまいません」


 いつもと同じ、穏やかな口調でラムールの返事が来た。

 部屋の中には書類をめくる音と、判を押す音が響いた。

 リトは一礼すると事務室を後にした。


 

 リトが事務室からいなくなるとラムールはぽつりと一言、つぶやいた。

「ひとりぼっちになるのは、今に始まった事じゃない……」

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