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 2-13 あんみつって

「リトー♪ リトも今日のオススメ定食にするー?」


 そこに同じ女官で食いしん坊のユアがプレートに食事をのせて持ってきた。

 見ると玄米パン、バター、根野菜のスープ、七種類の豆入りサラダ、ジャガイモのグラタン、真鯛の岩塩包み焼き、等だった。


「おいしそう……だけど、これってやっぱり?」


 リトは苦笑いしながら尋ねる。 答えは聞くまでもない。


「そうよ♪ ラムール様と、お、そ、ろ、いっ!」


 キャー、と叫んで顔を赤らめながらバシバシとユアがリトをたたく。


「あー、リトー、こっちよ、こっち!」


 今度はラムールの座っている席からさほど遠くない所のテーブルを陣取った一団から声がかかる。

 ナコルにノイノイ、マーヴェにロッティ、ラン達の姿まである。

 しっかりと席が空けてあったが、残念ながらその付近は意味もなく歩き回る人で一杯だ。 その人混みをかき分けて行き、その人混みの中で食べるなんて、面倒だった。

 違う。 面倒なんだと、今日のリトは理由づけた。

 そこでリトはみんなに手をふってゴメンネと頭を軽く下げてからすぐ近くの空いている席に座った。

 その時、巳白とラムールがこちらを見て何か二言三言交わした、ような気がした。

 リトは一人で手を合わせていただきます、して食事にする。 とてもおいしい。 ところが、ふとバイキングの皿が並べられているところに目をやると、リトの大好物の馬刺しが目に入った。

 馬刺しはあまり頻繁にバイキングに出るものでも無いし、リトの実家でもお祝い事の時にしか食べない。 今日はパン食だが、これを逃す手はないのではないか。

 リトは中座して馬刺しを取りに行こうとした。

 すると突然


「リトも食べませんか?」


 いつの間にか目の前にラムールがやってきて、ガラスの器を差し出した。


「え?」


 見ると、クリームあんみつである。 ラムールの好物の。


「デザートに、と、ワガママを言って料理長に巳白の分と二つ、特別に作ってもらったのですけれどね。 巳白が甘いものは苦手だと言うのですよ。 私が二つ食べるのは食べ過ぎですし、だからと言って残すのは失礼ですし、誰かに差し上げようにも……」


 ラムール向けた視線の先には、目をぎらぎらさせた女官達の姿があった。

 この女官達のうち誰か一人に譲るなんてしたら揉めるのは目に見えている。 とすると平和的解決として、元髪結い係のリトが貰うのが一番トラブルが無さそう、ということだろう。

 また、リトもクリームあんみつは好物だった。


「いただきます」


 素直にリトは受けとった。


「早めに召し上がって下さいね」


 ラムールはそう言うと席に戻る。 それからおいしそうにクリームあんみつを食べる。 それはまぁおいしそうに。 

 途中で巳白に目を向け、一口食べろと勧めている。

 巳白は最初は頑なに首を横に振っていたがラムールがあまりに美味しそうに食べるせいか、いや、ラムールもムキになって絶対美味しいから一口食べてみろと勧めたせいか、照れながらラムールのスプーンを受け取り、クリームあんみつを、迷いに迷いながら一口食べた。

 巳白が目を見開く。 旨いですね、と言ったのだろう。 ラムールが、勝ち誇ったように微笑んだ。 それを見ていた周囲も笑う。

 それを見ていてリトもクリームあんみつを食べた。 とても甘くておしいかった。


――今日は馬刺しとは縁がないみたい


 これ以上食べるとカロリーオーバーになりそうなことと、あんみつの後の馬刺しには食指が動かなかったので、リトは馬刺しを諦めた。 



 

 リトは食事を終えると明日の授業を確認するために1階の中央フロアの掲示板までやって来た。 明日は午前中が国立図書館に行く予定になっている。 午後は礼儀作法……苦手だ。

 リトが外を見ると既に日は沈みあたりは真っ暗である。


「暗くなったなー」


 不意に背後で声がした。 巳白だった。

 巳白はリトが振り向くとニコッと笑った。


「今日は色々と迷惑かけたな。 ごめん」


 リトは慌てて首を横に振った。


「さって帰るか」


 巳白はそう言って立ち去ろうとした。


「あ、あの、巳白さん!」


 リトは呼び止めた。 巳白が立ち止まる。


「え……と、あの、私の部屋から弓の部屋に行けるから、そこから帰ったら……」


 巳白が笑った。


「いいよいいよ。 気にするなって。 俺がリトの部屋に入って出てこなかったらそれこそ大騒ぎだ」


 それはそうなのだが。


「でも、外は真っ暗ですよ?」

「懐中電灯、借りた」


 巳白は手に持った懐中電灯を見せた。


「でも、時間かかりますよ?」

「そんなことはないさ」

「でも……でも……」


 リトは次の言葉を言っていいのかどうかためらった。

 しかしやはり口にした。


「体、痛いでしょう?」


 巳白はほんの少し驚いて、そして優しい瞳で笑った。


「痛くない、といえば嘘になるけどな。 でも、今日は気分がいいんだ。 歩いて帰りたい気分とでもいうのかな。 痛みなんか気にならないくらいさ。 だからいいんだ」


 巳白の言葉は嘘偽りないように聞こえた。 リトには余計、訳が分からない。

 リトは困惑して言葉を見つけきれず、巳白を見つめた。

 急に巳白は思い出し笑いをした。


「あんみつって美味いんだな」

「は?」

「男が甘いものなんて、と思って食わなかったけど、結構イけた。 今度清流達と食いに行こうかな」

「あ、それなら「かまど屋」がオススメですよ」

「オッケー、参考にする。 んじゃな」


 巳白はそう言うと手をあげてその場を後にした。 白い翼を持った巳白が漆黒の闇の中に消えていく。

 なんだか、本当に巳白は嬉しそうだった。

 リトがぼうっと余韻に浸っていると、男二人が怒鳴り合う激しい声が上の階から聞こえた。

 それを聞いた人々が階段に集まる。

 みんなが見つめているのは、3階。

 リトはこの怒鳴り合う男の声に聞き覚えがあった。

 佐太郎と、ラムールだ。

 リトは急いで3階の事務室へと向かった。

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