2-12 拘束具
リトは驚いて本能的にそれから手を抜こうとする。
すると拘束具はますます収縮し、ぎりぎりとリトの腕を締め付ける。 テーブルでがつん、と叩くと更に強い力で収縮する。
「あ……う……」
痛すぎて声が出ない。
しかし拘束具はますます力を増し、このままでは腕がぺしゃんこに潰れてしまいそうだ。
リトは震えながら床に足をつく。
「……っ」
もうだめだ、と思った時だ。
いきなりドアを開けて佐太郎が入ってきた。
「リト!」
佐太郎は腕に翼族用の拘束具をつけて床にうずくまるリトを見つけて慌てて近づいた。
「さ……佐……太郎……さん」
リトはやっとの思いで口を開いた。
「待ってろ。 今、外してやる」
佐太郎はしゃがみこむと、後ろのポケットからトランプのカードのようなものを取り出して拘束具と重ねる。
パリン、と小さなガラスが割れるような音がし、拘束具は一瞬のうちに拡張し、リトの腕から離れる。
リトの腕から外れた「それ」は佐太郎の手のひらに落ちた。
佐太郎は手際よくその拘束具をくるくると向きを変えて眺める。
「……これは35型タイプのものだから、翼族以外のモノにも反応したんだな」
ぽつりと言う。
「ほれ、腕、見せてみろ」
そしてリトの左腕を取る。 腕は赤黒くなっていた。
佐太郎は腰に下げたバックから緑の粉末が入った小瓶を取り出し、それをリトの腕につつっとまぶす。
一気に痛みが泡となってぷちぷちと消えていく。
「……ふう……」
そこでやっとリトは声を出すことができた。
「平気か?」
佐太郎が優しく尋ねる。
リトは頷く。
「メシ食い終わったからライ……ラムールに会いに来てみれば。 驚いたぞ」
「あ、ありがとうございました。 えっと……ラムール様はまだ食堂だと……」
「だろうな。 ただ簡単には捕まらないから先回りしてここに来た、という訳だ」
佐太郎は言った。
そして腕をさするリトを見て少し考えた。
「拘束具にどうして腕をつっこんだのか――ま、好奇心だろうけどな――は、さておき、ライ、ラムールにはこの事は言うな」
「えっ? 今、何て?」
思わずリトは尋ね返した。
「拘束具を使用したら理由を報告しなきゃならん。 ま、正直、面倒だ。 拘束具に後が残ってるがな、おれが壊れているから修理すると言って持って帰って後を消しておいてやるから」
リトはどうしようか考えた。
「あいつが知ったら杓子定規に処理する事しかできないだろう? どっちかというと、おれからのお願いだ。 ばれた時はおれから説明する」
どうしたものか、と考えたが、ラムールがいない間に勝手にリトがした事だ。 ばつが悪いこともあって承諾することにした。
「ささ、おめぇさん、まだメシを食ってないんだろう? 早く行って食ってこい。 おれはここで待つ。 新世と一夢の事について話を聞かなきゃならん」
佐太郎はそう言うとソファーにどっかりと座り込んだ。
リトは頷き、部屋を後にした。
食堂に来ると、予想通りというか、当然というか。 そこは黒山の人だかりであった。
当然の事ながらラムールと一緒に食事したさに女官をはじめ多くの人がやってきていたのだ。
食堂の真ん中で、巳白とラムールが並んで座って夕食を取っている。 ここはバイキング形式だったが、あらかじめルティに用意してもらうように頼んだせいもあり二人のプレートには同じ夕食が並べられていた。
ラムールはナイフとフォークを使って丁寧に美しく口に入れていく。 礼儀作法のお手本のようだ。
巳白は片腕なので箸をつかうが、こちらもなかなかの箸さばきだった。
二人は話しながら楽しそうに食事をしている。
何を話しているのだろう。
たった今、拘束具がいかに痛いものであるか体験したリトにとって、体中アザだらけなのに笑顔でいる巳白の気持ちがどうしても分からない。




