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 2-11 これはどうみても重傷

 それからリトは言われたとおり自分の部屋から陽炎の館へと行き、弓達にラムールと巳白からの伝言を伝えた。 予想通り、みんながみんな「どういう訳だ?」と不思議がった。 しかしどうしようもない。

 一番最初に割り切ったのは佐太郎だった。 腹が減っていたせいかもしれない。

 次に割り切ったのは清流だった。 巳白の言うことに従う気持ちかららしい。

 そんな清流を見て、リトはほんの少し巳白と清流は似ている、と思った。 もともと兄弟だから似ていて当たり前なのだが、巳白はラムールの、清流は巳白の言うことなら理由も聞かずに従うからだ。


 お腹がすいていたのでリトもほんの少しつまみ食いをして、それから白の館へ戻る。

 白の館の4階の自分の部屋に戻ると、リトはまず2階の食堂に向かおうとして、3階で足を止めた。

 ラムールの事務室に寄ってみよう、と思ったのである。

 今ならきっと誰もいない。

 いや、行って何をしようと思った訳ではない。

 それ以前にその部屋の主人がいないのに勝手に事務室に入る行為は褒められたものではないのだが、幸いリトは元髪結い係として、ラムールの事務室と居室に入ることは無条件に許可されている。

 プライベートな居室に入るのではなく仕事などでも使う事務室にちょっと寄るだけだ。


 ちょっと寄って? 何をする?


 分からなかった。


 ただ、巳白とラムールの理解不能な態度の手がかりを探したかったのかもしれない。

 何があるという確信もなく。

 リトは自分によく分からない言い訳をしながら事務室の扉をノックした。

 返事は、ない。

 リトはそっと扉を開ける。

 部屋はこうこうと灯りがつき、窓の外にはかなり暗くなった中庭が見えた。

 ラムールの事務机の上には書類が山のように積まれ、あまりにも多くて事務机の隣に臨時の台が置かれ、更に積み重ねられていた。

 応接ソファーの上には万年筆と巻物になった羊皮紙が3,4本。

 応接テーブルの上には空になった紅茶のカップが2つと、書きかけの書類と、万年筆。

 そして。 床に巳白の翼を固定していた拘束具がごろんと転がっていた。


「……なにこれ……?」


 リトは思わず我が目を疑った。

 そこはラムールの事務室ではないようだった。 きちんと整理整頓されているいつもの事務室とは大違いだ。 紅茶のカップが空のままテーブルの上に放置だなんて論外だ。 いや、緊急事態が起こったならばそれもありえるが、今はただ食堂に夕食に行っているはず。 部屋の電気も点けっぱなしだし、これはもうラムールの事務室とは思えない。

 とりあえずカップ位は洗おうと、リトはそれを持って事務室の中の小さな流し場で洗う。 カップを綺麗に拭き上げてから棚にしまう。

 棚のすぐとなりはラムールの事務机だ。 リトはちらりと書類を見る。 何かの報告書、企画書、案内状、表、至急の赤文字がついた文書……

 これはラムールが処理しなければならない書類だろうか。 

 それからリトは応接テーブルの上の書類を見た。

 人体図のようなものに赤丸や線が引かれ文字が書かれている。

 

 

 

 巳白。 ○月×日。

  両足背部 打撲。 内出血。 人間ならば全治10日

  下腿外側 打撲。 擦過傷。 人間ならば全治10日……

 

 

 

 リトは急にひやりとした。

 これは、今日の巳白の傷の具合を書き記したものだった。

 とても詳しく書き留められているせいもあるが人体図はびっしりと文字で埋め尽くされ巳白の体で痛んでいない所はどこもないようだった。 

 脇に、翼の図もある。

 こちらは文字がテノス国のものではない文字のようでよくは分からない。 しかしこちらにもびっしりと書き込まれている。 そして、たったひとつ、リトに読める文字があった。

 

 

 

  一部骨折有り。

  15日ほど翼の使用は不可能。

  完治まで1月を有すると推察

 

 

 

――嘘?


 リトは思わず我が目を疑った。

 これはどうみても重傷ではないか。

 なのにどうして?

 なのにどうして、巳白もラムールも笑っていられるのか。


 リトは、床に転がった拘束具が目に入った。

 その拘束具は黒い金属製で、馬蹄形をしたものが8つついており、2つを一組にして鎖で繋がれていた。 2つを繋げた鎖はそう長くない。 この馬蹄形の拘束具で両翼の骨の部分を掴むと翼を開こうと思っても鎖が邪魔して飛べない、という訳である。 頑丈な足かせを4つ、翼につける。 そんな感じである。

 

 しかし、とリトは思った。

 拘束具はよく見ると馬蹄形なのである。 そう。 Uの字。 足かせと違って簡単に外せそうだ。

 入り口の幅も広い。 リトの腕2本分はありそうだ。 鍵らしきものもついてない。

 リトは何を思ったか、拘束具の一つにそっと自分の左腕を差し込んでみ――


「あうっ!」


 それは一瞬だった。

 腕をすべて差し込むか差し込まないかのうちに、その鋼鉄製の拘束具はまるで生き物のように収縮し、リトの腕をしっかりと掴んだ。

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