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 2- 7 一夢と新世が死んだ時3

 ラムールの周りにはまるで見えない壁があるかのように、ラムールが一歩、また一歩と近づくとともに兵士達が一歩、また一歩と後退する。


  

 その時、来意達は誰も安心はしていなかった。

 いきなり現れた国連軍が狂い虎だとしたら、ラムールは怒れる龍のようであった。

 ラムールは突き進み、兵士達はみな、一階のフロアまで後退した。

 ラムールは階段の途中で立ち止まるとゆっくりと手にしていた紙を広げ兵士達に見えるよう

に前につきだした。


「この館の権利書だ。 この館は我が管理せし物。 汝ら、ここがテノス国後継者教育係ラムールの館と知っての狼藉(ろうぜき)か!」


 再び、雷鳴が轟いた。


「去れ。 無くば国連軍がテノス国に対し戦を仕掛けてきたと解釈するが……」


 ラムールの声は地獄からの亡者の叫びのように聞く者を震え上がらせた。


「し、しかし……」


 国連軍の隊長らしき人物が一歩、前に進み出た。 しかし彼の言葉は最後まで発せられることは無かった。

 絶対威嚇である。

 ラムールの絶対威嚇。 それが体中から発せられ、見えぬ圧力にみなの体が動かなくなる。

 ラムールの体から、見えぬ炎がめらめらと燃え上がっているようであった。

 ラムールは表情を崩さず開いていた左手で空中に文字を書いた。

 その文字は空中で白い半透明の線を描き漂った。 何かのマークのようだった。

 それを見て、絶対威嚇で動けない兵士達が更に表情を変える。


「汝らもこの印の意味するところは分かるだろう」


 ラムールの問いに兵士達ががくがく震えながら頷く。


「ならば去れっ!!」


 ラムールは絶対威嚇を解き、手を玄関に向けた。

 一斉に悲鳴をあげながら兵士達は我先にと館を飛び出していく。

 あっという間に館の中にはラムールと来意達しかいなくなった。

 ラムールは兵士達がなぎたおした家具などを無表情のまま、魔法で元通りにする。

 来意達は、一言も尋ねることができなかった。

 ラムールは最後の椅子を元の位置に戻すと言った。


 

「一夢と新世が死にました」


 

 それは予想していた答えではなかった。

 だから一瞬、ラムールが何を言っているのか、分からなかった。


「会いたいか?」


 ラムールは尋ねた。


「会いたいならついておいで」


 ラムールはそう言って返事も待たず、部屋を出て館の外に向かった。

 慌ててみんなで後を追う。 

 ラムールは何も言わず、裏の森の中に入っていった。

 いつも遊んでいる、見知った森、のはずだった。

 しかし、右へ行き、左へ行き、道無き道をラムールはずんずん進んでいく。 来意達はついていくのが精一杯だ。

 どの位歩いたのだろう。いきなり森が開け、広場についた。

 広場の中央に、ふわりと浮かんだ「それ」が見えた。

 

 

 焦げ茶色の髪が跳ねた、いつもとかわらない姿の一夢。

 それにぴったりと寄り添っている、新世。

 一夢は片手を新世の肩に回し、新世は片手を一夢の胸に置き。

 そして二人の空いた手はお互いにしっかりと握りしめ。

 目を、閉じていた。


 

「母さん!」

「新世さん!」

「一夢さん!」

「おやじっ」


 

 皆が駆け寄った。


 

「それ以上近づいてはなりません!!!」


 

 ラムールの怒号が響いた。

 みな、足を止める。

 ラムールはゆっくりと手をかざし、一夢と新世を更に上に浮かせた。

 二人の、顔が、見えた。


 

 いつもと変わらない、どこにも傷ひとつない、二人の顔。

 瞳を閉じているが、二人寄り添ったその表情は何とも幸せそうだ。

 ただ、顔色は蒼白で、生命の息吹は感じられなかった。

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