2- 5 一夢と新世が死んだ時1
「え。 新世さんと一夢さんが死んだときの話ですか?」
予想外だったのか、来意は佐太郎の言ったことを繰り返した。
佐太郎は頷く。 清流が口を出した。
「ラムールさんには聞かないのですか?」
「あいつは時として、本当のことを言わない」
あっさりと佐太郎は答えた。
「はぐらかすのも上手いし。 こういっちゃ何だが、この話に限っては先にお前達に話を聞いた方が良いとおれは思う」
佐太郎の言葉に清流は少し嬉しそうに頷いた。
来意は少し考えて、ゆっくり口を開いた。
「あれは、別になんて事無い、普通の日だったんです」
その日、一夢は数日前からどこかに旅に出ていた。
一夢が旅に出るのは時々あったことだ。 行き先は魔物退治だったり、武術大会に出場したり、色々だった。
ただし旅といってもそんな何ヶ月も家を空けることは無かった。 長くて1週間、最長でも十日位のものだった。
旅から帰ってきた後の一夢は地方名産のお土産をくれたり、いなかった間の時間を埋めようといわんばかりにみんなとじゃれあって遊んだり、そして、何より家に帰ってきた時の、みんなを見る、顔!
ぱあっと明るく晴れて、会えたことが嬉しくて嬉しくてたまらない感じのする、あの笑顔!
真っ直ぐで疑いのない、自分への愛情。
それらがみんな大好きだった。
だから別に今回居なくなったこともそう気はしていなかった。
嫌な予感すらしなかった。
でも、そんな時にこそ本当の不幸はやってくるのだと、来意は後で思った。
「そっち、釣れた?」
「じゃーん」
「すごいな、はおり」
その日、子供はみんなで川辺に行っていた。
デイと羽織と世尊が釣り。 来意と清流が木の実集め。 弓と義軍が花飾りを作り、巳白とアリドは木の上で昼寝をしていた。
空は気持ちよく晴れ渡り、鳥のさえずりと川のせせらぎが心地よい。 太陽も温かく皆を包み、本当に気持ちの良い日だった。
ばさり、と羽音がした。
空を見上げると新世が翼を大きく広げて降りてきた。
「しんせおかあさーん」
義軍が満面の笑みを浮かべ地面に降り立った新世に飛びついた。
「ほら、おはなのかざりだよ」
義軍が花をあげると新世は微笑んで、ぎゅうっと強く義軍を抱きしめた。
「良い子ね、義軍」
そして新世は義軍を抱いたまま世尊に近づく。
そして世尊に義軍を預けるとそっと世尊も抱きしめる。
「良いお兄ちゃんね、世尊」
そしてそれを見上げているデイを抱きしめる。
「御多幸を。 デイ王子」
次は羽織を。
「信じてるわ。 羽織」
そしてひらりと身をかわすと清流と来意に近づく。
清流が優しく抱きしめられる。
「ありがとう。 清流」
そして来意を。
「負けないで。 来意」
木の上で昼寝をしていたアリドと巳白が起きあがる。
「どうしたの? 母さん」
巳白が声をかけると新世はふうわりと飛んで二人の側に行く。
「そう呼んでくれてありがとう。 巳白」
巳白を抱きしめた後、アリドも抱きしめる。
「大きくなったわね。 アリド。 しっかりするのよ」
みんな、少し恥ずかしそうに笑っている。
新世は最後に、弓に近づいた。
「ゆーみ」
新世はにっこり微笑んだ。
弓は次に抱きしめられるのは自分の番だと分かっていたので頬を赤らめながらもじもじした。
新世は両手を広げ、そっと弓を抱きしめる。
「大丈夫よ。 弓」
弓は新世に抱きしめられてうっとりとしながら、こくんと頷いた。
新世はゆっくりと手をゆるめて弓から離れると、大きく翼を広げた。
そしてみんなを見回し
「ちゃんと喧嘩しないで仲良く遊ぶのよ。 お兄ちゃん達は下の子達の面倒をみて、下の子はお兄ちゃん達の言うことをよくきいて。 家に帰るのあんまり遅くならないようにね。 心配するから」
その言葉は、よく新世が口癖のようにみんなに言う言葉だった。
『はーい』
みんな、一斉に返事をする。
新世は微笑んで、大空へと羽ばたいて行った。
その夜。
何時になっても、新世は帰ってこなかった。
一夢も帰ってこなかった。