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 2- 3 それは異常じゃない?

 リトの言葉はまだ続く。


「巳白さんは弓の忘れ物を届けただけなんですよ? 何も悪いことしてないのに。 どう考えても悪いのは無理矢理捕まえたスン村の人じゃないですか? だから厳しくスン村の人に注意して下さると思っていたのに、どうしておにぎりなんか握って差し入れみたいな事するんですか? ……私も、巳白さんが捕まったときにそのままにしておいたのはいけなかったと思うけど……」


 清流がリトの言葉を遮る。


「リトちゃんがスン村に残らなかったのは、兄さんにとっても良かったと思うから、そこは気にしないで」


 えっ、と誰もが意外そうに清流を見た。


「兄さんだって、リトちゃんや弓ちゃんがオルガノ村で楽しかったっていうの、嬉しそうだったし。 スン村に一晩泊まってたら、兄さんは逆に嫌だったと思うから」


 どことなく、いや、確かに清流はリトに本心からそう言っていた。


「頭に来るのはラムールさんだけだよ」


 そう言ってぴしりとしめる。


「むぅー、おめぇらの言うことも、分からなくはないけどなぁ」

「といいながら、しーっかりラムールさんの肩持つんだよなー、佐太郎のおっちゃんも」


 アリドが佐太郎の肩に両手を置いて言った。 佐太郎が開きかけた口を閉じた。

 更にアリドは


「ついでに言えば巳白も。 どー見てもあんまり良い扱いを受けてないよーな気がするんだけど、オレら。 なのにかばう」


 そう付け加える。 世尊がそれを聞いて身を乗り出す。


「それはオレも思ったことあるぜ。 ラムールさんてさ、一応保護者だからたまーに帰ってきたりするけどさ、それも村祭りの時だけとかだぜ? 思い切り放置されてるよな、オレら」

「そうなのか?」


 佐太郎が意外そうに聞き返した。


「放置っすよ。 陽炎隊の登録の手続きや事務連絡を受け取るのも白の館に行かなきゃなんないし、なぁ、羽織」

「うーん。 確かに、デイが遊びに来た時は迎えに来たりもするけど、あっ、でも屋上庭園の世話は誰がしてる? ラムールさんじゃないか? 入り口の鍵は閉められちゃうからさ……」

「世話はぼくと兄さんだよ。 ラムールさんがいない時は一夢さんたちが住んでいた屋上庭園へ繋がる部屋は鍵がかかって入れないし。 仕方がないから兄さんが屋上から入ってくれてるんだ。 それでも中の部屋と繋がる窓も全部閉まっているし」

「あ。 それは私も嫌、というか、寂しいって思ったことはあるわ。 新世さん達の事を偲んであの部屋に入りたくても入れないんだもの」


 弓も言った。


「部屋に入れない?」


 佐太郎がぎょっとして言った。

 リトを除く全員が頷く。


「ついでに言っちゃえば、墓参りも一度もしてねーよな、オレら」


 アリドが言うと、再び皆が頷いた。

 佐太郎が目を見開いて顔を見回す。


「ちょ、ちょっと待て、墓参りしてないって、どうしてだ?」

「おはかのね、ばしょがわかんないの。 ね、おにーちゃん」


 素直な眼差しで義軍が答えた。


「そうだよなー、義軍。 この家で黙祷しか出来てないよな」


 義軍をあやすように世尊が答えた。


「命日もここには寄りつかなかったしね」


 清流は吐き捨てるように言った。


「ちょっと、それは異常じゃない?」


 思わずリトが口を挟んだ。 いや、本当はこの家の者でないから黙って聞くだけにしようとしていたのだが、思わず言葉にしてしまった。

 一度口に出したら、もう引き返しようがない。

 リトはそのまま続けた。


「前に私が初めてこの家に遊びに来たとき、新世さん達のお部屋に案内してくれたじゃない? あれってたまたまだったの?」


 弓が頷く。 そして来意も付け加える。


「正直、珍しい事だったよ。 ラムールさんがたまにこの家に寄ったときでも一人で中にこもって鍵かけちゃうからね」

「どうして?」

「わからないよ。 いくら、勘でも」


 来意がため息をつく。


「……まー、あの後、ここぞとばかりにオレらも部屋に入ったけどな〜」


 世尊がぺろりと舌を出した。


「あ? 待てよ?」


 世尊が何かを思い出した。


「アリドは除籍処分されたんだぜ? なのによく今日、ラムールさんと一緒に途中まで歩いて帰ってこれたもんだぜ?」


 そう言ってアリドを指さす。


「あ゛。 そうだった」


 アリドも今思い出したようだった。 


「捕まえないって変だぜ?」

「捕まえて欲しいのかよ」

「いや、そうじゃなくて」

「どうせあの人の事だから、城下町近くまで来て安心させてから捕まえるつもりだったんじゃないかな」

「え? 清流。 それは無いと俺は思うけど……なぁ?」

「でも、確かに言われてみたら変だわ」


 みんな一斉に話し出す。

 リトとアリドは黙っていた。

 アリドが除籍処分した後もラムールと交流があるのはみんなには言っていない。


「あー、おいおい、分かった、分かったからお前たち、ちょっと静かにしないか」


 佐太郎が大声を出してみんなを鎮めた。


「アリドの件はいいっとして、えと、まず、何だ。 ――そう、墓参り。 まずは二人の墓の事だ」


 ほぐれた糸を解くように、最初の話題へと佐太郎が話を戻した。


「墓――は、神の樹がある場所じゃないのか? おれはいつもそこに参っていたんだが?」


 神の樹?

 リトは佐太郎を見た。

 リトの知る限り、神の樹は白の館の裏の小森にあったはずだが。


「そこじゃありませんよ」


 来意が答える。


「裏の森の中というのは分かっているんですけど、広場でした」


 他のみんなも頷く。


「なんてこった。 ライ、ラ、ラムールはおれに嘘をついていたと? ――いや……」


 佐太郎は思い出すように手を頭に当てる。


「おれも詳しくは聞いてなかった、な」

「本当ですか? どうせラムールさんをかばってるでしょ?」

「清流、そんな言い方は失礼だぜ」


 思わずつっかかる清流を世尊が諫める。


「清流。 本当だ。 老師の亡骸は神の樹の所に――埋めた――から、てっきりおれは二人もそこだと」


 佐太郎が答える。


「もしかして、来意がおれに尋ねたい事もそのあたりか?」


 佐太郎の問いに来意が頷く。


「もうすぐ、新世さんと一夢さんが亡くなって、2年になるんです。 でも僕たちは二人が突然死んだと聞かされた時以降、お墓参りも行けていません。 ラムールさんに尋ねようにも、なかなか忙しい人ですから。 だから佐太郎さんに知恵をお借りしようかと」


 うむ、と佐太郎は頷いた。

 正直、リトは訳が分からなかった。 しかし。 訳が分からなかったのはリトだけではなかったのだ。


「僕たちは、みんな色々な事情で、一夢さんと新世さんに引き取られました。 そして二人がある日突然亡くなる日まで、とても――とても幸せに暮らしました。 でも、それはたった数年間の出来事で、僕たちは一夢さんと新世さんの事を何も知らない。 ――知りたいんです。 二人のこと」


 真剣な眼差しで訴える来意を見て、佐太郎はもう冷え切ったコーヒーカップを握りしめ、一口、飲んだ。


「おれが知っている範囲でよければ」


 佐太郎はゆっくりとみんなを見回した。


「昔話だ」


 そして口を開いた。


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