1-14 北の孤児院、って言葉
おにぎりを食べ終わると、間を置かず城下町に帰ることになった。
村長とラムールがにこやかに握手を交わしあう。
村民も、一目、ラムール見たさに総出で見送りに来た。
しかし誰も巳白に言葉をかける者はいなかった。 痛めつけて申し訳ないと詫びる者もいなかった。
言い方は悪いが――
「兄さんは保護された野良犬じゃない」
ぽつりと呟いた清流の言葉がリトの耳に入った。
しかし、まさにその通りだとリトは思った。
村民はそんな扱いを巳白にしたのだ。
とても切なかった。
リトは何も言わずに黙々と歩き出した。 弓が黙って隣を歩く。 弓がリトに何かを言いたいけれど、何をどう伝えて良いか分からずに悶々としていることはリトにも分かった。
いや、リトも自分がどんな態度を取ればよいか分からなかった。
リト達は先に村を出たが、羽織達は歩く速度が二人より速い。 そう離れないうちに追いつかれる。 羽織達は少し歩く速度を弱め、つかず離れずの距離で歩いていく。
「スンマセン。 お世話かけました」
背後で巳白が歩きながらラムールに謝った。
「構わないよ。 仕事みたいなものです」
――仕事? 巳白さんを迎えに行くことが?
リトが思わず声を荒げようとした時、アリドがすっと近づきリトの肩を抱いた。 思わずアリドを見ると、アリドの反対側にはリトと同じように肩を抱かれた清流の姿があった。
微かにアリドの手に力が込められる。
言うな、と、それは伝えていた。
「それにしても、どうして巳白はスン村などに行ったのですか? 昨日報告があったときは驚きましたよ」
ラムールの口調は本当に不思議がっているようでもあり、また、巳白を責めているようにも聞こえた。
「あ、それは、私が陽炎の館に忘れ物をしたから……」
弓が振り向いて返事をした。
「リトのおばあさまにあげるつもりのお土産を……」
ラムールが巳白の顔を見てため息をついた。
「そうだとしてもわさわざスン村の中に入らずに、前後の山道で渡せばこんな面倒なことにはならなかったのですけどね」
「スンマセン」
巳白が謝る。
「そういや、弓。 オルガノ村は楽しめたか? 土産は?」
巳白は謝ったついでに思い出したように尋ねる。
「えと、うん。 お土産もとっても喜んでもらえたわ。 楽しかった! ――あ」
弓が巳白の顔を見て口をつぐんだ。
「いいって。 気にするな。 喜んでもらえてよかったな」
巳白は心の底から嬉しそうに微笑む。
「また行くか?」
「うん。 でも今度は水着を持って行かなきゃ」
弓がそう言うとプッとアリドと来意が吹き出す。 リトと清流も思わず思い出し笑いをしそうになった。
「何だ何だ? 羽織も急にうつむいて……? 清流?」
巳白の問いに清流がやっと微笑みを浮かべて返事をする。
「羽織ったらね、弓ちゃんやリトちゃんが着替えている所に飛び込んで行っちゃったの」
「ち、違うだろっ! 清流!」
真っ赤になって羽織が訂正する。
「下着姿で泳ごうとしていただけだぞ、着替え中じゃなく……て……」
羽織は言いながら弓の顔色を見て口を濁す。 弓がぷうっと頬をふくらませる。
「ゴメ、ゴメゴメ、ゴメン! 弓」
「アシカガ森のプリンの木の実、3つ」
弓が指を三本出す。
羽織が激しく頷く。
それを聞いてアリドが笑う。
「プリンの木の実とは高くついたなー、羽織」
「アリド! もう蒸し返さないでくれよ、頼む!」
必死な羽織を見るのは楽しい。
「何だ? 俺には全く話が読めないぞ?」
巳白が首をかしげる。
「陽炎の剣を振ったら、下着姿でスン村の温泉に入ろうとしていた二人の前に出ちゃったのさ」
くすくす笑いながら来意が説明する。
「僕と清流とアリドは最初から目を閉じていたから無罪放免♪」
「あー、それでお前達もやって来たんだな? やっと分かった」
巳白が頷く。
「楽しかったか?」
返事をしたのは清流だった。
「みんなとても親切だったよ。 ご馳走も美味しかったし、兄さんも今度行こうよ。 いいよね、リトちゃん」
「勿論、全然オッケーよ」
あれだけみんな親切だったのだ。 巳白が来てもきっとみんな親切だろう。
「もしかして北の孤児院、って言葉を口にしたか?」
巳白が言う。
「巳白も僕達が来る直前に口にしたんじゃないかい?」
来意が反対に尋ねる。
「……ま、な。 来意がいざとなったらできるだけ年配の人にそう言えって言ってたから、試してみたけど、あれは一体、何なんだ? 実際、明らかに態度が変わったし」
巳白も不思議がる。
「僕も正直、分からないんだ。 僕は時々前に住んでいた村まで行くだろう? その旅の途中に気づいたんだけどね」
来意が肩をすくめる。
「……老師のおかげですよ」
ラムールが口を開いた。