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 1-12 違和感

 ところがリトはスン村に入ったその時、何か違和感を覚えた。

 いつもの村ではない。 いったい、どこがだろう。


「どこにいくの?」


 リトの問いに答えぬまま、来意は先頭を歩く。

 まるで歩き慣れた道のように迷わず一軒の家へつき、来意はその家の戸を叩いた。

 返事がない。

 来意はもう一度、強く戸を叩いた。


「こちらのご老人が具合を悪くしていらしたのでお連れしたのですが。 私は陽炎隊という自警団の者です」


 よく響く声で来意が戸の向こうに話しかける。

 カタン、と扉のむこうで鍵を外す音がした。

 そしてとても慎重に、ゆっくりと扉が開く。


「こちらのご老人ですよね?」


 来意が少し体をずらし、羽織に背負われた老人を見せる。

 隙間から顔を出したのは中年の婦人だった。 婦人は老人の姿を確認すると「おじいちゃん!」と声をかけた。 それを聞いて、婦人の背後で「おじいちゃん?」と子供達の声がした。 


「アンタたちは出できちゃダメ!」


 婦人は子供達の声を聞くと、かなりヒステリックに怒鳴った。


――それだ。


 リトはさっき感じた違和感が何なのか理解した。

 村の中に人がいないのだ。 いや、村の中に人の気配が無いというか、隠れているというか。

 いつもは賑やかなこの村がひっそりと、とてもひっそりと静まりかえっていたのだ。


「それで、おじいちゃんは……」


 婦人が小さな声で囁くように尋ねる。


「持病のようでした。 薬を煎じて飲ませておりますので心配はいらないと思います」


 羽織の返事を聞いて婦人はほっと胸をなでおろす。

 羽織一人だけが家の中に入って老人を奥の部屋へ連れて行く。 中では老婆が出迎えて案内しているようだ。


「あの……自警団、とおっしゃいました……よねぇ」


 婦人がおそるおそる尋ねる。

 そのとき、ちらりと来意がアリドを見た。

 婦人は続ける。


「実は……村で翼族の男を一人、捕まえているんですけど、退治はできますか?」


 リトはひやりと背中に汗をかいた。


「この村には退治屋がいないので翼族を簡単に退治できなくて、村の男達が今、どうやって退治するか話し合いをしているんですけどね……よろしかったら代わりに退治を……」


 退治だなんて、と口を開きそうになったリトの手を、弓がぐっと掴む。

 弓?

 リトは思わず弓を振り返った。


「何だよもう、アリド、やめてよ」


 その時リトのすぐ隣で清流がアリドの手を振りほどいた。


「ん? いーじゃん?」


 見るとアリドが清流の顔にベタベタと手をやって遊んでいた。


「からかうのはよしてよ。 話が聞こえないじゃないか」


 清流がぷりぷり怒って言う。

 来意は清流達をちらりと見ると、今度は少し大きめの声で言った。


「構いませんよ。 場所はどちらに行けばよいか教えて下さい。 合い言葉も」


 婦人はそれを聞いてほっとしたように息をつくと、小声で二言三言、来意に告げる。


「わかりました。 行くよ! 羽織」

「ああ」


 羽織が家から出てくると来意は再び先頭に立って歩き出す。

 来意が進んだ先はごく普通の家だった。 来意はその家の扉をリズムをつけて叩く。

 そして叩きながら――少し考え、一度間を開けると、普通にノックした。


「誰だ?」


 扉の向こう側から男の声がする。


「スイルビ村の来意。 北の孤児院の者です。 兄弟を迎えに来ました」


 扉ごしでも、相手がとても動揺したのが、リトにも分かった。

 程なくして扉が開く。 中は大勢の男達と、一握りの老人が部屋を埋め尽くしていた。

 その老人の一人が前に進み出て、リト達を招き入れる。 

 家の中の男達全員が道をあけた。

 一行は家の一番奥の間まで通される。

 その部屋の中央には椅子に巳白が腰掛けていた。


「――!」 


 リトは思わず息をのんだ。 巳白は足や手を縄でくくられ、翼に鎖をつけられ、体中あざだらけになっていた。


「なんてことを!」


 誰よりも早く、そして怒りに満ちた声で清流が叫んだ。

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