1-11 発見した君の責任だ
「信じらんない」
思わずリトは呟く。 普通に行くよりも数倍早く、オルガノ村からスン村まで来たのだ。
弓に手を貸されてリトは立ち上がる。 周りを見回すと――清流がいない。
「清流くんは?」
「清流は先に走っていっちゃったから……。 もうすぐ着くと思う」
「来意の後をついていくのが一番近道なのにな」
みんなで清流が来るはずの道の方に目をやる。
「清流くんを待たずに、先にスン村に入って村長さんか誰かに話をした方がいいんじゃないの?」
リトは思わず言った。 いつ清流が来るかは分からないがここで黙って待っていたら、それこそ清流は怒るのではないだろうか。
「清流を抜きに動いたら面倒なんだよ、あいつ」
アリドが言った。
でも、と言いかけたとき羽織が「来た!」と言って彼方を見た。 確かに清流が走ってきていた。
清流は風のように素早く走って来て羽織達の前で止まった。
「なかなか後からついて来ないと思ったら……やっぱり来意の先導だったんだね」
「先に行っちゃった清流の勝手だろう?」
不満げに漏らす清流に来意が答える。
清流はふう、と一息つくと、ちらりと今駆けてきた道を振り返った。
「何かあったろ」
すかさずアリドが言った。
清流の動きが一瞬、ぎこちなく揺れた。
「何があった」
アリドの口調はかなり決めつけたものの言い方だった。
「……別に」
清流がそう答えると今度は羽織も「何があった?」と尋ねた。
清流はちらりと来意の方を見る。 そして観念したかのように
「道に倒れてうずくまっている人がいただけ。 腹痛か何かだろうけど」
と告げた。
「その人、どうしたの!?」
リトが思わず尋ねた。
「どうしたの……って、別に。 そのまま。 ぼくはスン村に急いでいたし、後から羽織達が通るだろうって思ったからね」
「ええ?」
リトは大声を上げた。 清流は首をかしげる。
「どうして? 大丈夫さ。 誰も通らない道じゃないしすぐに誰かが助けてくれるさ。 ぼくが関わったらスン村に行くのも遅くなっちゃうし、兄さんを解放してあげるのも遅くなっちゃうじゃないか?」
確かに今は巳白の身が危ない、のかもしれない。
が、何かが間違っているのではないか。
「行っておいで。 清流。 発見した君の責任だ」
来意が言った。 清流はとても面倒そうな嫌な顔をした。
「巳白が聞いたら哀しむぞ。 清流。 行ってこい」
アリドが巳白の名前を出すと、清流は少しだけうつむいた。
「……でも……兄さんが、今、囚われているってのに……」
「巳白なら大丈夫。 僕の勘が言うんだから間違いない」
とどめを刺すように来意が断言した。
「……」
「清流、俺も行くから。 ほら行くぞ? 弓は待ってて」
清流の返事も待たず、羽織が駆けだした。 清流もそれを見て慌てて追いかける。
「本当に兄さんは大丈夫なんだろうね、来意」
振り向きながら清流は尋ねる。
「太鼓判押すよ」
「じゃあ、ぼく達が戻ってくるまで待っててよ、約束だからね!」
清流はそう言うと覚悟を決めたかのようにものすごい早さで羽織の後を追いかけた。
二人の姿が見えなくなると、アリド、来意、弓の三人は揃って大きなため息をついた。
「ったく、清流を単独行動させるとマジでタチが悪りーんだからなあー」
アリドがそう言って頭をかいた。
小一時間して、清流と羽織が老人を一人連れて歩いてきた。 いや、正確には羽織が老人を背負って歩いてきていた。
「羽織様」
弓がかけよる。 羽織は弓を心配させないように優しく微笑んだ。
「大丈夫。 持病が出ただけ。 清流が薬草を煎じて飲ませたから落ち着いたよ。 スン村の人だって言うから連れてきた」
「良かった」
弓はそう言ってほっと胸をなで下ろした。 老人は羽織の背中で気持ちよさそうに眠っている。
「ありがう。 清流」
弓はそう言った。 清流がこくりと頷く。
「いいさ。 これでスン村にも貸しが出来たから、これから交渉しやすい」
「そういう事じゃないんだけど……」
弓は困ったように答えたが、清流は来意の元へ行く。
「……ま、正直に、困っている人がいたと言えるようになっただけ良くなったと思うな。 俺は」
羽織が呟いた。
「それじゃあ村に入ろうか」
来意が声をかけ、リト達はスン村の門をくぐった。