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8-7 繋がりそう

 慌てふためくリトに佐太郎がコーヒーを差し出して隣に座る。


「安心しろって。 陽炎の館までなら送っていってやるから、そこから部屋に帰ればいい。 時間はまだあるだろう? まだ昼にもなってねぇ」


 リトはコーヒーを受け取って頷く。


「あっ、でも、お昼までには帰らないと弓に見つかったら心配させちゃう」

「ああ、そうか。 ま、平気だろう」


 佐太郎は自分のコーヒーを一気に飲み、ちらちらとリトを見る。

 コーヒーメーカーはもう空だ。

 リトは自分が貰ったカップを見る。


「いります? まだ飲んでいないから……?」

「違う違う」


 佐太郎が慌てて首を横に振った。


「えっと――なぁ、リト。 ライ……ラムールはどうしてる? 元気か?」


 リトは佐太郎の横顔を見る。

 あえてこちらを見ない佐太郎。


――気になるよね……


 リトはコーヒーを一口飲んだ。


「なんだか最近は忙しいみたいです。 白の館に寄ってもすぐどこかに行っちゃってます」

「今もか?」


 リトは頷く。


「時間が無いから、って言って。 本当に用件が無いときしか寄ることもできないって感じです。 眠り玉を巳白さんや私にお願いしちゃうくらいだから、寝てないんだろうなって思うし……」


 佐太郎が天井を見上げる。


「おれが――新世達を殺した奴が誰か分かったって言ったよな? それで気づいたんだが、もしかしたらアイツはその殺した奴を探しているのかもと――最近思ってな」


 佐太郎のかかとが、がりがりと床を掻く。


「通称で生きている翼族調査委員会メンバーを探し出すなんて普通じゃ無理だ。 しかもこれはアリドに言わなかったが、相手は”殺滅権”という自分の意志だけで相手を殺してもいいと認められている奴だ。 そんなのを持っている奴と戦って、陽炎隊の坊主達に勝ち目があるかというと、ノーだ。 そう考えれば……」


 リトが続けた。


「どうして新世さん達が死んだのか理由を言わないのも納得できる?」


 佐太郎が頷く。


「新世と一緒に死んだ一夢って奴はな、とにかく腕が立った。 ライ……ラムールよりもだ。 そんな奴が簡単に死ぬはずが無いんだ。 奴が本当に死んだというのなら、殺した奴は異常に腕が立つとみていいだろう。 殺滅権を持っているメンバーが相手なら、多少納得はいく」


 そしてほんの少し沈黙する。


「……または、本当は死んでいないんじゃないか、とか思うよ」

「えっ?」


 リトは耳を疑った。


「いや、記録には殺滅と載っているから、新世が死んだことは間違いないんだと思う。 でも、一夢の事はどうしても信じられないんだよ。 新世が殺されて、そしてその仇打ちを一夢とライ……ラムールでしようとしてるんじゃないか、とか考えちまうんだよな。 これが」


 リトも考えた。

 そう考えると合点がいく。

 一夢は新世を愛していた。 その新世が殺されて、仇を打つために、陽炎の館の子供達に迷惑がかからないようにするために死んだふりをした。 それならば弓達が死んでいる二人に近寄らせてもらえなかったのにも、墓に案内してくれないのも理由がつく。


「じゃあ、敵討ちが終わったら、新世さんのお墓に案内してくれるんでしょうか……? 一夢さんも、帰ってきてくれるんですかね?」


 リトの問いに佐太郎がうつむく。


「……だったらいい、と思う反面、友達のおれにぐらい相談しろよって、殴ってやりたいな」


 佐太郎は続ける。


「一夢は友達だったんだ。 あいつの友達もおれぐらいのものだったんだ。 なのに相談なしかよ? ラ……ラムールもラムールだ。 おれにとっても娘みたいなもんだってずっと思っていたのに、ここんところ全く考えている事がわからねぇ」

「娘?」


 リトがくりかえした。 


――佐太郎さん、言い間違えている。


「あ、そっか、息子だ、息子」


 佐太郎が顔を上げて照れくさそうに笑う。 そしてまくしたてるように続ける。


「ラ、ラムールがガキの頃から見ているけどな、ガキの頃はあんまり男の子っぽくなくて女みたいな顔してるから言い間違えちまった。 あいつには言うなよ? あいつはけっこうあれで女みたいだと言われるのはかなり嫌みたいだからな。 男なんだけどなー。 女みたいに着飾ればそこいらの女にも負けないくらいの容姿はあるのになー、でも男なんだよなー。 あはははっ」


 リトが頷く。


「そうなんですよね。 ラムール様って本当に綺麗。 一回、弓と一緒に窓ガラスごしにじーっと見たことがあるんですけど、男の人に失礼だけど、もう綺麗すぎて!」


 佐太郎が同意する。


「でもおれと同じ お と こ なんだよなー。 朝起きたらヒゲは生えるし」

「あー、一度だけ見たことあります。 すっごく似合ってなかったぁ」


 リトが笑う。

 その様子を見て佐太郎はほっと胸をなでおろす。


「どうかしました?」


 リトが尋ねる。


「いやいや! さて、もうそろそろ行こうか。 立てるか?」

「はーい」


 リトは元気よく返事をして立ち上がる。

 二人は洞窟の奥の部屋へと進んで行った。

 リトは佐太郎の後ろからついていく。

 洞窟は部屋の先にまた部屋があり、扉の向こうにまた扉があり、アリの巣の中を歩いているような感じ。 壁にはツタが張っているところもあり、メモ紙がピンで付けられたままになったものもある。

 掃除なんてものに無縁ってことだけ確信できる。


「広いですねえ」


 リトが思わず言う。


「んー? ああ。 おれの前の代の前の代の前の代のー、とにかくずーっと昔から、部屋を作ってモノがいっぱいになったら、片づけるのが面倒だから新しい部屋を作って――のくりかえしだからな。 おれ以外だったら絶対迷子になるだろうな。 はは」


 リトはそれを聞いて思わず佐太郎の服の裾をつかんだ。

 ここで離れ離れにでもなったらシャレではすまない。


「そういや、リト」


 佐太郎が歩みながら尋ねた。


「おめぇさん、ラムールの意識が見えたって言ってたな。 参考までにどんなものが見えたのか聞いていいか? 新世達のことについて、何か手がかりはないかと思ってな」


 リトは少し考えた。


「――あの、巳白さんにも、さっきも言わなかったんですけど」


 佐太郎が立ち止まるのでリトはおもわずぶつかった。


「イタっ」


 リトがつぶやいたが、佐太郎はそれに答えず振り向いた。


「何を言わなかったんだ?」


 なんだかリトがぶつかった事など気づいていないようだ。


――ま、いいか。


 リトはおでこを軽くさすりながら考えた。


「森の広場に一夢さんと新世さんが寄り添って、ってのは本当なんですけど、実は――二人はただ寄り添っていたんじゃなくて、倒れてて――顔色に生気が見られなくて――死んでるって思って。 周りには誰もいなくて――叫びたくて――」

「で?」

「で、巳白さんに頬はたかれて起きました」


 佐太郎が軽く頷く。


「そうか。 他は無いんだな?」

「ええ。 ――あれ?」


 リトは考えた。


「どうした?」


 佐太郎が首を傾げる。 リトが考え込む。


「違う。 まだあったような気がする。 そこでじゃなくて、あれ?」

 

  空の色が変だ。

  なんだろう、この胸騒ぎは。

  ――ねぇ、おとうさん、おかあさんのところに帰ろう?

  おとうさん? どうしたの? 

  どうしてそんな怖い顔してるの?

  どうして泣いているの?

  どうしてお父さんがぼくの首を絞めてるの?

  息が――できないよ

 

「違う」


 リトは呟いた。 これはきっと巳白さんの感情。

 

  暗い。 とても暗い。

  ここはどこ? 私は何をしている?

  ――誰もいない。 

  ……寂しいよ。 新世。 一夢。 寂しいよ。 

  会いたいよ。

  会いたいよ。

  寂しいよ。

  寂しいよ。

 

「寂しい……って」


 リトが呟いた。


「寂しい?」


 佐太郎が繰り返す。


「暗くって、誰もいなくって、会いたくって、寂しくって……」


 リトが頭をおさえながら考える。


「そんな感情……」


 佐太郎が少し青くなった。 そして少し考える。


「寂しい、か。 あいつはきっと、いっつもそんな気持ちなんだろうなぁ」


 そう寂しげに漏らした。


――寂しい? ラムール様が?


 誰にでも好かれ、尊敬され、多くの人に囲まれ、賞賛を浴びているラムールが?

 リトにはよく分からなかった。


「もう無いのか?」


 佐太郎が尋ねる。

 リトも考えた。

 寂しいなんて感情だけでしめてしまうのはやりきれない。

 するとふと、浮かぶ。


「お姉ちゃんの羽って、暖かくて、良い匂い……」


 リトの呟きに佐太郎が頷く。


「お日様とお花とおかしの匂いだ、って、すごくウキウキした感情」


 佐太郎が優しく微笑んだ。


「ああ、それもラムールだな。 あいつは新世の事が本当に好きだった。 母親であり、姉みたいなもんだった。 新世の翼が大好きで、心から大切に思っていたからな」


 リトも頷いた。

 そして、ふとラムールの部屋に舞い込んで来た不思議な手紙の事を思いだした。

 黒い鳥が届けてくる、ラムール宛の手紙。

 全体に何かの紋章が描かれていた、変な手紙。

 それにはラムールが我が国にお越しになる云々と書かれていた。

 そしてラムールが時間が無いと言ったこと。

 陽炎隊のみんなの世話をやかないこと。

 佐太郎さんが陽炎の館の保護者になってもいい思ってますと伝えたら、安堵したこと。


――あ、何か、繋がりそう

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