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再会

「えっと、木が燃えて炎を上げるのをイメージするんです。……あ、はい。熱とか臭いとかも想像して。で、大気中のま、魔素を炎に変えるつもりで……」


 俺の説明を辿々しくもムジーナが通訳する。

 以前神に教わった事の受け売りだ。


『ムジーナは理解してるのか?』


「えっ、あ、はい。何となく分かるんですが全然できないです……」


 ヤーナとムジーナは熱心に練習している。おっさんは耳は傾けているが魔法を使う気は無いようだ。

 ま、その方がおっさんらしくて渋い。


「わっ! で、出た!」


 ヤーナの手から小さな火が上がる。パーティーのバランスが少しずつ広がっていく。


『本当にこのメンバーで固めるつもりなのか……?』


 神が恐る恐る聞いてくる。ムジーナと意思疏通ができるようになってから神も静かになった。


『今はめぼしいやつもいないからな。』



 *  *  *


『転生者は皆一線級なんだろ? 前みたくムジーナと入れ替わってしまったら次こそ危ないと思ってさ』


『うーむ』


 ここ数日ヤーナとムジーナのレベル上げが続いた。都の近くでやっていた魔物狩りも次第に森の奥へと場所を変えていく。


 戦闘はやはり頭ひとつ抜け出したおっさんが主体で、魔法を操れるようになったヤーナが補助にまわる。


 目の前にはバイソンのような大きな牛が前肢をかいている。


 猛牛の突進をおっさんが食い止める。その横っ腹にヤーナの火炎魔法が当たった。


「や、やった! 当たった!」


「おい! 気を抜くな! すぐ次の行動に移れ!」


「! は、はい!」


 ヤーナはおっさんに諭され次の攻撃準備をする。

 魔物の攻撃を受けながら周りにも指示を怠らない。


『ソロでやってたって割にリーダー気質だな。おっさんは』


『それにしてもムジーナはまだまだだな』


 ムジーナはおっさんの後方で剣を構えている。


 が、魔物とは十分な距離があり、体は震えている。


「す、すみません。い、いかないといけないんですが……」


『いい、いい。焦るな。一緒に参加するだけでレベルは上がるから。気絶しなくなっただけで十分よくなってるよ』


「はい、あ、ありがとうございます」


 茶化したつもりだったがムジーナには伝わらなかったらしい。





 戦闘はおっさんが攻撃をいなし、ヤーナが魔法で地味にダメージを蓄積させていく。


 15分ほどヤーナの反復攻撃を続けると牛は弱り膝をついた。


「や、やった……」


 今回の戦闘で初めてヤーナの攻撃だけで魔物を仕留める。


 パーティーは少しずつ成長していった。


『まだだ』


『えっ?』


 神の声に魔物を見ると、最後の力を振り絞りおっさんに突っ込んでいく姿が見えた。


 止めを刺す前だったがおっさんはヤーナにアドバイスをしていて完全に死角になっている。


「あ、危ない!」


 ムジーナが駆け出し、おっさんの盾になる。ムジーナの声にハッとしたおっさんだったが既に牛はムジーナに激突していた。


「がっ!」


 ムジーナが吹っ飛ばされる。

 牛はムジーナに止められる。


「ムジーナ!」


 おっさんが牛に止めを刺してムジーナに駆け寄る。

 ムジーナの剣は牛の攻撃で曲がってしまっていた。


『おー! やったじゃんムジーナ!』


 体が軽いせいで飛ばされはしたが、牛の攻撃を剣で受け止め、自身のダメージも少なく済んでいる。


「あ、あはは。足が震えて起き上がれないです……」


 何より魔物に向かっていった。少しずつだがしっかりとムジーナも成長している。


「よくやったぞ。ムジーナ」


 おっさんに褒められ、顔を赤くしている。

 照れていた顔は次第に苦悶の表情に変わり、熱い吐息が漏れてくる。


「オゥッ! オゥッ!」


 オットセイともゴリラとも言える咆哮が森にこだまする。


『……』


『……ムジーナ、やっぱりヤーナは外さないか?』


 神に逆らってきたが、レベルが上がる度同調したくなる。


『ちょっと……考えるわ』


 それしか言えなかった。




 *  *  *


『この世界にはいくつか国があるんだろ?』


 都への帰り道、神と今後の打ち合わせをする。


「あっ、話し合いが始まった」


 ムジーナは意識を遮断し、こちらの声を消す。ムジーナがどんどん万能になっていく。


『あぁ。7つの大陸があって人間の国が13あるな』


『旅の道中でも魔物はいるんだろ? そろそろ転生者狩りを始めるか』


『ムジーナ! やっとその気になってくれたのか!』


 神との立場が逆転してるような気がするが、気にせず続ける。


『二人ともある程度レベル上がってるしな。ボチボチ始めてもいいんじゃないかって』


「あ、ムジーナ! いた!」


「えっ?」


『ん?』


『あー!』


 都の入口に立つ人影がムジーナを呼ぶ。目を凝らすと懐かしい顔にこちらまで安堵の声が出る。


「ユーナ!」


『ユーナちゃん!』


「えへへ。来ちゃった」


 久しぶりの再開だった。




 *  *  *


 都に戻り、四人で食事を摂る。


 ユーナのことを説明し、おっさんに懇願してパーティーに組んで貰った。


『ムジーナを無視して3人で進んでいたらユーナには会えなかったのか……』


 神はまた自責の念を唱えた。


『これで神の望んでいた女パーティーも叶ったな』


『できれば女の子だけが良かったけど……まぁいい。必要最小限はうまくいってると思うようにするよ』


『ムジーナ、今日はユーナちゃんを泊めてやれ。初めての王都で不安だろ』


「えっ、そんな。恥ずかしいよ女の子と一緒の部屋なんて……」


「ムジーナ、今日来たばっかりで宿がないの。ムジーナの部屋にお邪魔していい?」


「えっ?」


 ユーナちゃんが積極的だ。流されるままにムジーナはユーナちゃんを招き入れた。




 *  *  *


「まだ全然経ってないのにムジーナは強くなったね」


「いや、フレードさんが手伝ってくれたお陰だよ。神……えっと精霊様もいろいろ教えてくれて」


「えっ、ムジーナ、精霊様と話せるようになったの?」


「うん、頭の中に二人いる……」


『いえーい! ユーナちゃんみてるぅー!?』


『ユーナよ、私が神である』


『神、聞こえないって。はは。ユーナ! ユーナ! ユーナ! ユーナ!』


「わっ!」


「今も精霊様はいらっしゃるの? 何か聞こえる?」


『あ、またムジーナが声を消しやがった!』


『おい! 出せ! ユーナちゃんと話をさせろ』


「いや、なんか興奮してるからちょっと静かにして貰ったよ」


(神様、ちょっと静かにしてよ)


『わっ! ムジーナの声が!』


『こいつ、俺の頭に直接……!』


(頭に二人の声が響くんだから……)


『ムジーナがどんどん成長していく……』


「そうなんだ。精霊様の遺してくれたこと、みんなで守ってますからね。……私の声聞こえますか?」


『聞こえてるよー!』


『ユーナ! ユーナ! ユーナ! ユーナ!

 』


(もうっ静かにしてって……)


「聞こえてるみたいだよ。ユーナに会えて嬉しかったみたい。精霊様も寂しかったのかな」


『ムジーナ、器用だな』


「そうなんですか。あ、そうそう。ハマレではね、ムジーナが出てったあとヤーナさんが……」


 部屋の中ではハマレの近況とムジーナの出来事で話しに花が咲いた。






「それでね、フレードさんは最初僕に殴ってくる……」


『おい、ユーナは寝ちゃったぞ』


 ユーナは布団で丸くなって寝息をたてている。初めての旅で疲れたんだろう。


『か、可愛い……』


 ゴクリ


 ムジーナが唾を飲み込む音が聞こえた。


『ムジーナよ、神が天啓を与える。今すぐ添い寝をするのだ』


『ムジーナ、やっちゃえ!』


「ユーナ、お疲れさま」


 ムジーナは神の言葉を聞き流し、ユーナに布団をかける。床に布を敷き、そこで横になった。


『おい、大事な場面なんだ。多少のことなら許してやる』


『キスくらいいいだろ! チュッでしちゃえ!』


(二人が見てる前でそんなことできないよ!)


『こいつ、頭に直接……』


(もうそれはいいよ!)


 ムジーナは顔を赤くして布にくるまった。


『まぁ待て。私たちがいるのが問題ならしばし天界へ戻ろう』


『おっ、そうだな。いい時間になったら戻ってくるから思いの丈をぶつけてくれ』


『では、邪魔をしてすまなかったな』


『頑張れムジーナ!』


『……』


『……』


 ……


 ……







『……』


『……』


(……いるんでしょ?)


『……ちっ、ばれたか』


(もぅ……)


 ムジーナのため息が漏れる。


「……いくじなし」


 ユーナちゃんの静かな声が聞こえた。


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