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喧嘩

『いけーいけー! ムジーナなぞ一捻りだ!』


 野次馬よりも一際興奮している神の声が頭に響く。

 対峙しているモトアキは余裕の表情を見せていた。


「さぁ、どこからでもかかってこい」


 手を広げ、こちらの攻撃を促すような仕草をする。


「君みたいなちょっと力を付けて粋がるような奴は嫌いなんだ。僕は神の加護を受けている。君のようなはんかな努力では埋めれない歴然とした差というものが……ん?」


「おらっ! くらえ!」


 ボゴォ!


「おぐぅ!」


 ベラベラと口上が続いていたが挨拶がわりに殴り付ける。

 モトアキは勢いよく吹っ飛び壁に激突した。


『あ、こら! この卑怯者!』


 え? 神に罵られる。


『まだモトアキのセリフが続いていただろう! 正々堂々と戦え! そして負けろ!』


 ……。さっきどっからでもかかってこいって言ってたじゃないか。

 何? 俺が間違ってるの?


「モトアキ様!」


 娼婦がモトアキに駆け寄り治癒魔法を施す。ま、まぁいい。神がごねるならこれでノーカンだろ。


「くっ、油断してしまったようだ。ありがとう。アリスの魔法は傷だけじゃなくて心まで癒されるよ」


「モトアキ様……」


「もう大丈夫だ。どんな卑怯な手を使っても2度と触れることができないことを教えてくるよ」


「モトアキ様! あんな卑怯者動けなくなるまで痛め付けてください!」


 何故か卑怯者と言うことで意見が一致しているらしい。神とモトアキたちの思考がシンクロしている。





「なるほど君はなかなか強いみたいだ。油断していたとは言え僕に傷を付けるとはたいした奴だよ」


 モトアキはそう言って腰に付けた装飾のうるさい剣に手をかける。

 いや、何してるんだこいつ。


「伝説の名工に作らせた業物だ。これでお返しをしてあげるよっ!」


 ガチャガチャと音を立てて剣を抜くと一飛びにこちらへ向かってきた。


「わっ! バカっ!」


 剣先をかわし、剣の腹に掌底を打つ。


 バキャッ


 伝説の名工に作らせた業物は2つに割れた。


「おい、何やってんだ。これは喧嘩だろうが。こんなも……」


「フフ……やはりナマクラでは勝負にならないか。いいだろう本気を出してあげるよ」


 ??


 俺の言葉をモトアキが謎理論で被せてくる。

 こいつは健忘症なのか?


『なかなかやるな、ムジーナ。勝負もいい感じで白熱してるぞ』


 神は変にご満悦だ。


 モトアキは手を交差して腰から2本の短刀を取り出した。


「僕の本職はシーフなんだ。軽装備こそ本来の力を発揮できる」


 モトアキの構えに日の光が反射し、剣先が光る。本気じゃなかったもんって小学生かよ。


「僕に本気を出させたことを後悔するがいい!」


 沸々と腹が煮えくり返る。短刀でやたらと切りつけてくるモトアキを軽くいなし、手首を打って刀を落とす。


「いい加減にしろぉ!」


 ドゴォ


 これまでのイライラも含めて拳に思いの丈を詰めてモトアキを殴り付けた。

 リピートするかのように壁に打ち付けられる。


『ま、まさか。モトアキがやられるなんて……』


「神もいい加減にしろ! これは喧嘩だろ? 喧嘩の基本は素手でタイマンだろうが! 何道具使ってんだ!」


『何を言っているんだムジーナは。気でも触れたか?』


 神にも俺の思いは通じなかった。






『今ある攻撃を最大限利用しないと戦いに華が無いだろう』


「だから! 喧嘩で武器使う方が卑怯だって! 男なら拳で語り合うもんだろうが」


『ナメプして負けるのが一番の悪手だ。現状の最善手で応じるのが礼儀ってもんだろう』


 神との議論は平行線を保っていた。


「モトアキ様……よくもモトアキ様を!」


「リエルっ!」


「んっ?」


 脳内討論から意識を戻すと喧嘩の発端になった女が飛び道具を投げて来た。


 先の尖った武器が散弾銃のように四方に飛ぶ。


「うわっ! 危ない!」


  俺はすんでの所で全ての剣菱を捕らえる。


「何入り込んで来てるんだって。喧嘩はタイマンだって言ってるだろ」


 神と同じ思考を持った女だ。話は通じないかもしれないが取り敢えず諭す。


「それにな、もっと周りをよく見ろ。お前のその攻撃は……ん?」


 影に気付き上を見上げると別の女が頭上を飛び、上位の火炎魔法を凝縮させていた。


 布切れのようなスカートは役に立たず、ヒモパンの様なラインの細い純白の下着が露になっているがまったくと言っていいほど興奮しない。


「私のモトアキ様をっ! これでもくらえ!」


 なりふり構わず魔法を放ってくる。


「……」


 シュワッ


 辺りを埋め尽くすかの様な攻撃をかき消した。


「そん……な。モトアキ様に教えてもらった……私の……」


「……おい」


「ひっ!」


 もう一人、魔法を凝縮していた女を威圧し戦意を消す。手に集まっていた魔法が霧散する。


「お前ら、ここに座れ」


 皆の感性が異常だ。いや、もしかしたら俺だけが間違ってるのかも知れない。しかし、勝者の意見は絶対だ。女3人に正座をさせ、説教を始める。





「お前ら見境なく暴れるなよ。モトアキが集めた野次馬まで巻き添えになるような攻撃はするな」


「はい……」


 しおしおとした女に過ちを説く。


「男の喧嘩に女が入ってくることも気に食わん。『いいか? さっきも言ったが喧嘩と言うものは素手で語り合うものなんだ』んっ。『相手の不満や気持ちを拳で受け止め』あれ? またここだ。『自分の思いの丈を拳に込めるんだ』えっ? お、お姉さんたちどうしたの?」


『ムジーナ、ムジーナ』


『拳で語り合えば言い合うよりもずっと気持ちを……なんだよ?』


『おかえりっ』


『へっ? ……あっ!』





 綺麗なお姉さんが3人、目の前に座っている。短いスカートだから太ももが見えて目のやり場に困る。

 悲しい顔をしていたお姉さんたちがキョトンとした顔で僕を見てきた。


『神も少しは考えを改めろよ』


『何を言う。相手の隠し持った武器に気付き、こちらも用意していた道具で打ち負かす。そういう駆け引きもかっこいいじゃないか』


『そんな映画みたいな真似するかよ。それこそ本物の卑怯者じゃないか』


『なら私とも拳で語り合うか?』


『お? やってやんよ』


『どうやって私に手を出すのだ? やーいやーいどっからでもかかってこいー!』


『……はぁ、神とも分かり合えないのか』


「あの、えっ……? えっと」


 周りを見渡す。僕を驚いた顔でたくさんの人達が見ていた。

 なんでこんな。いや、ハマレでもそうだ。僕の知らないうちに話が進んでいる。


 気が付くと何かおかしな事が起こっている。

 僕の気付かないとこで勝手に僕が動いている?


『おっ、ムジーナが核心に迫ってきたぞ』


『神、ヤバい……』


『ん?』


 瓦礫が崩れる音がしてそっちを見ると傷だらけの人がこちらを睨んできた。手に見たこともないような魔法を作り出している……





「よぐ……よくも」


 男の人の敵意は完全に僕に向けられている。髭のおじさんといい、なんでこんな目に……


『これはまずい。ムジーナのレベルだと一瞬で炭になってしまう』


『もう手の出しようが無いわ。詰んだ』


『ムジーナも観念したか。モトアキに楯突いたのがそもそもの間違いだ。命をもって罪を償いなさい』


「いや、待って。その、話し合いませんか……?」


「きざま、散々好き放題やって今更何を言っている。どうやら僕の魔力に怖じ気づいたようだね。何を隠そう僕の攻撃で一番強力なのは魔法なんだ。今までのは前座さ」


 男の人が不敵に笑う。


「苦しむ前に殺してあげるよ! あああああ!」


 男の人が叫びながら向かってくる! 話が通じない! 離れているのに魔力の強さが分かる。明らかに僕を目標にしている。向かってくる。


「ウオオオオオオオオオオ!」


『お、おっさん!』


 横からも叫び声が上がる。あのおじさんだ! なんで……なんでこんな……


 男の人とおじさんが敵意をもって僕に向かってくる。へたりこんで動けない僕におじさんの拳が飛んできた……





「おっさん!」


 跳ね起きておっさんを見る。モトアキの攻撃はおっさんの鎧を砕き、深いダメージを与えていた。


「邪魔をするなクソゴミがあ!」


 モトアキを無視して横たわるおっさんに駆け寄る。

 だ、大丈夫だ。微かに息がある。


「おっさん! ありがとう……ありがとう……」


 即座に治癒魔法をかける。


「神の使いか知らんが、あまり無謀な事はするな。……これで借りは返したぞ」


「うん……うん。」


 ごめんおっさん。俺のせいで2度も死に目に遭うなんて。

 モトアキ、もう許さない。お前が殺し合いを望むならこっちも応えてやる。


 お前とはもう分かり合えない。


「モトアキ……ん?」


 振り返るとモトアキの様子がおかしい。


「神、まだ大丈夫です! 1回ピンチになっただけですから! ここから逆転でき……えっ? エターナル? 何ですかそれ」


 モトアキにも別の神が付いているのだろう。神とのやり取りを半分伺う。


「神? 神! 気配が……」


『エタったな』


「え?」


「おふううううう!」


 モトアキが強く息を吐き出すように声を上げる。

 傍目から見ても分かるくらいモトアキの力が失われていく。


『エターナル。モトアキに付いていた神が匙を投げたのだろう。最強の主人公が見せ場も無くやられればこうなる』


「モトアキ様!」


 女達が駆け寄る。


『今回なんとかなったがムジーナも私の気を害すなよ。負けなかったことだけは評価してやる』


 転生者との喧嘩はひょんなことで決着した。




 *  *  *


『ムジーナ、もう1回! ゆっくり説明してやる!』


『だから分かってるって』


「あ、あの……」


 フレードさんに事の顛末を教えてもらう。


『この世界は僕の物なんだ。だけど全然僕の思い通りにいかない!』


『分かってるって』


「お前を殴ったのは理由があったからなんだ。もう怖がらないでくれ」


 フレードさん曰く、僕の中に2人の人格がいるらしい。神様と、神の使い。僕の意識の無いときに神の使いが動いて回っているらしい。


 ハマレで言われた精霊様ってこの事だったのか。


『今回転生者と会ったことで仮説が浮かんだ。他にも神が入り込んで干渉しあって世界が歪んでいるんだ!』


『だから分かってるって』


 神の使いは言いがかりを付けてきた人を凝らしめるために決闘を申し込んだらしい。

 冤罪を受けたヤーナさんが一緒のパーティーに入った。ヤナンさんと名前が似ててハマレが恋しくなる。


『僕の創造を邪魔する他の神を見つけ出して追い出さないといつまでたっても僕の思い通りにならないんだよ』


『何回も言わなくていいって言ってるでしょ?』


 神の使いはいつの間にか僕を冒険者にしていた。フレードさんの元、戦闘の経験を積めと言っているらしい。


『だからこんなとこで油を売ってないで早く他の転生者を探せって言ってるんだろうが!』


『だから、分かってるから! こっちに考えがあるから任せろって!』


『いーや、分かってない。もう1回だけ一から説明するぞ』


『だからわかってるってばー!』


 すっかり陽は傾いた。もうしばらく王都に残らないといけないみたいだ。


 宿を教えてもらい、しばらく仮住まいをする。明日から何をやるんだろう。家族のいないベッドで不安だけが大きくなっていった。


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