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転生

「あれ? ここは?」


 気付くともやのかかったような空間にたっていた。

 なんでこんなところに? ついさっきまで部屋で寝転がり、漫画を眺めていた筈だ。


 立ってはいるが、布団の感触が背中に残っている。


『おめでとう。そしてようこそ』


 一人だけだと思っていた所に声が聞こえ、ビクッとする。





「だ、誰?」


 声のする方へ顔を向けると、神々しい成りをした男が立っていた。見た目は若い。高校生くらいか?


『君はトラックに轢かれ、死んでしまった。しかし、子供を助けようとしたその心意気に感服し、再び生を授けようと思う』


「はぁ?」


 突然訳の分からないことを言ってきた少年に丁寧に説明する。


「あのな、どこの誰か分からんけどもいきなり変な事を言わないでくれ。俺はついさっきまで部屋で漫画を読んでたんだ。外に出てもいないし、トラックも子供も知らん」


『え? 何を言ってるの? ニートの君が出掛けに子供を見て、助ける代わりにトラックにはねられたんだよ』


「それは手違いだ。俺は就活を控えた大学生。バイトもしてるしニートじゃない。誰かと間違えたんだろ?」


 いきなりフランクになった少年に気にせず答える。夢か? いつの間にか寝落ちしてたのか?


 夢なら覚めろ。夢であると強く信じ、目覚めるよう念じる。


『そんなはずは無いんだけどな。おっかしいなぁ。ん? 何をうねうね動いてるの?』


「夢だー夢だー」


『なんで変な設定が入るかな。君はニート。そして童貞。現世でいいことが無かったから、常に異世界を妄想していた悲しい男。僕が言ってるんだからそれが真実だ』


「だから、それなら人違いだって。学生だし、彼女もいる。夢に出てくる人間を間違えたんじゃないの?」


『それはあり得ない。僕が言うんだから君はニート。話が進まないから気にせず進めるね。君に敬意を表して君の求めていた剣と魔法の異世界に転生させてあげよう』


「何その恥ずかしい話。いや、夢にしてはなんか生々しいな。全然覚めないし」


『ちゃんとスキルも上げれるだけ付けておくから、好きなだけ異世界ライフを満喫してね』


「いや、訳が分からんって。勝手に話をすすめ……」


『ではいってらっしゃい』


「うわー!」


 何かに吸い込まれる様に体が引きずり込まれる。ベッドから落ちたのかと思ったが、気付くと森の中に立っていた。




  *  *  *


『ここは? 森?』


『さっき言ってた異世界だよ。モンスターの渦巻く、剣と魔法の世界。君にはここで活躍してもらう』


『いや、いいから。夢じゃないの? それなら早く戻してくれ』


『それは困る。君はここに憧れてたんだ。もっと喜んでくれよ』


『だから! 一次試験があるんだから帰してくれ! 大事な時期なんだ』


『さっき漫画読んでるって言ってたじゃないか』


『うぐ……』


『にしても困ったな。頑張る気無い?』


『無い』


『君にはこの世界にいてほしいんだけどな。分かった。じゃあブクマを集めたら帰してあげるよ』


『ブクマ? なんだそれ』


『うーん、僕の信仰心って所かな。君が活躍すれば集まる、らしい』


『らしいってどうやって集めるんだよ』


『知らない。なんか、君が頑張れば増えるらしいよ』


『なんか曖昧だな。でも、それを集めたら帰してくれるんだな?』


『約束しよう』


『んで、どうやってこいつを動かせばいいんだ?』


『こいつ? いや、君自身じゃないか。取り敢えず森に迷ったつもりで奥に入ってモンスターでもやっつけてよ』


『いや、動かせないんだけど』


『えっ?』





 *  *  *


 森のなかにきちゃった。おうちがわからない。


「おとーさーん! おかーさーん!」


『お前の言ってた通り森に迷ってるみたいだけど』


『おかしいなぁ。なんでこの子に感情があるわけ?』


『知らないよ。ってかこいつの中に入ってる感覚はあるけど動くことも出来ないんだけど。どうしたらいいんだ?』


『分からない』


『え! じゃあ俺何も出来ないじゃないか!』


『僕も訳が分からないよ。なんだこれ』


『いや、他人事だと思ってるけどさ、活躍しろって言われてもこいつを見てるしか出来ないぞ』


 つかれて動けなくなっちゃった。おなかすいた。おとうさん、たすけて。


 ガサッ


 やぶから音がした。びっくりしてそっちを見ると、モンスターがあらわれた!


「ひゃひっ!」


『でけー! なんだこれ! 猪が立ってる!』


『グリモスだな。度々村の畑を荒らす害獣だ。さぁ、懲らしめてやりなさい』


『だからどうやって動くんだって』


『あ、そうだった』


 モンスターはぼくに気づくと一目散に走ってきた。う、動けない。


『わー! 来てる! 来てるって! おい! 早く逃げろ!』


『うーん、どうしたもんか』


『おい! マジでヤバイって! うわー!』


「グオオオオオオオ!」


 グリモスが叫ぶ。腕を大きく上げた。月の光を反射し、鋭い爪が鈍く輝く。






 ガシッ


 降り下ろされた腕を掴む。恐る恐るグリモスを見るとその醜悪な顔が眼前にあった。


「うおっ! こえええええ! あれ? でも動くぞ」


『もしや意識の無い間は動かせるのかもしれんな』


「マジか! てか恐いわ! どうしたらいいんだ?」


『驚いて気絶するとは狸みたいな奴だな。因みに、狸は驚くと気絶をして、死んだ振りをする。通称狸寝入りと呼ぶそれは、追いかけたマタギを騙し……』


「そんなどうでもいい事言ってないで何とかしてくれって」


『いや、君には力を与えてるから軽く叩くだけでやっつけれる筈だよ』


 攻撃を受け止められたグリモスが怒り狂い、もう片方の腕を上げる。

 2回目の攻撃はさっき見たのとは違い、ゆっくりと降り下ろしてるように見える。


「それは信じていいんだな? おらっ! 食らえ!」


 掴んだ腕を軸にして体を回し、顔めがけて蹴りを入れる。


 足が触れるか触れないかのうちに、グリモスの顔は大きく歪み、水風船の様に弾けた。


「ぐぶっ!」


 グロテスクな惨状が広がる。首の取れた体は痙攣を繰り返し、呼応するように血がビュッビュッと噴き出している。


「グボエ」


 堪らず、その場に吐いた。

 四つん這いになった俺の体にグリモスの死体が覆い被さる。


「うわっ!ばっちい!」


 急いで払いのける。

 自分でやった事とは言え、目の前に広がる光景に足がすくむ。


「や、やったけど、どうしたらいいんだ?」


『多分後ろの方角に村があるから、その死体持って帰ろう』


「マジかよ。気持ち悪いなぁ」


『村は貧しい筈だから、持って帰らないと食うのに困るぞ』


「そうか。でもお前、さっきから多分とかはずとか、話を信じて大丈夫なのか? なんか怪しいぞ」


『多分大丈夫だ』


「心配だなぁ。んで、後は何したらいいの?」


『分からん。また今度決める』


「はぁ、後先が思いやられるわ」


 ズルズルと死体を引きずりながら歩いていくと、確かに村があった。

 捜索していたであろう村人達が喜びながら駆けてきたが、返り血を浴び、巨大な死骸を運んできた幼児にたじろいでいた。


「本当に大丈夫なの?」


『多分』


 いつまで経ってもこいつの確証は取れずじまいだった。




 *  *  *


 日が経つにつれて、ある程度の事が分かってきた。

 ここは、ハマレの村。こいつの名前は、ムジーナ。


「これくらいか?」


『もう少し、もう少し。ちょいちょいちょー、そこ!』


「よし、でき『た!』……はっ」


『あーっ! しまったー!』


「あれ? なんだこれ?」


 へんなぼうをにぎっていた。また森のなかにはいってしまった。

 でも、あかるいし、村もみえる。


『捨てるなよ、そのまま持って帰れ!』


 ぼうをすてて村にかえった。


『あぁ、駄目だ。いつになったら出来るんだよ』


『それにしてもムジーナは面白いな。ちょっとしたことで直ぐに気絶する』


『笑ってる場合じゃねーよ。何日も経ってるけど大丈夫なんか? ちゃんと元の日に帰してくれるんだよな?』


『それは大丈夫。多分絶対』


『もう、どっちなんだよ』


『とにかく、まずは気絶装置を作る方が先だな』


『ああ。次に動けた時に部屋中に仕込んどくわ』




 *  *  *


「よし! 動けた!」


『早く書け! 早く書け!』


「おらー!」


 ガリガリガリガリ


『隠せ! 隠せ!』


「よしっ! 『間に合っただろ』んー、ひっ!」


 ガタッ


「おっ、ラッキー! 2連チャンだわ」


『早く! 早く!』


「分かってるって。おらー!」




 *  *  *


「畑の塩分は取ったから、後は堆肥を撒いて同じ作物を続けないように」


「ムジーナ、落ち葉を集めてどうするつもりだ? この畑も森になっちまうぞ」


「騙されたと思ってやってみてよ」


『おい、時間だぞ』


「よしきた! 部屋に戻れ!」


 シュンッ


「き、消えた……」




 *  *  *


「ムジーナ、こんな奥まで来て何するつもりだ?」


 グオオオオオオオ!


「モンスター退治」


「ひいいいい!」


「待て! 逃げるなって! 一緒にいたらレベル上がるから! そこにいるだけでいいから」


『ムジーナのレベルは変わらないなぁ』


「こいつが動いてるときでないとダメみたいだね。ま、意識がある時に村人に連れてってもらえばいいでしょ。先ずは村人のレベル上げ。ユーナちゃん、俺の勇姿を目に焼き付けてくれ! よっこらせっと」




 *  *  *


『さ、手袋を履いて砂鉄を集めましょう』


「履くって、お前道民か?」


『失礼な。私は神だ。天界より舞い降りし崇高な存在』


「はいはい、失礼しました。ところで神様、最近思ったんだけどさ」


『うん?』


「ムジーナ、気絶しずらくなってない? 時間も短くなったような」


『今さら気付いたのか。私はとうに知っていたぞ』


「ダメじゃん。てか、私って言うようになったのね」


『その方が神っぽいからな』


「はいはい。でも、どうしようか……」





 *  *  *


『長かったなぁ。何年いたんだろう』


『感慨に耽っているのか。所でムジーナよ』


『ん?』


『汽車に乗ってて気付いたんだが、都でムジーナが倒れなかったらどうすればいいのだろうか』


『あ! どうしよう! てか神も何も考えて無かったのかよ』


『うーん、次の舞台に行くことしか頭に無かった』


『低レベルだし、知ってる人もいないぞ』


『どうしたものか』


『やっぱりもう一度もどってユーナちゃんを連れてこよう』


『どうやって?』


『あー! それもできないのか……どうしたものか』


 うとうととしていると汽笛が鳴り、目が覚める。

 いきなり機関車に詰められてしまい、とうとう王都に着いてしまった。


 僕は何をすればいいのだろう。

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