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僕はM3リー

掲載日:2016/02/24

僕の記憶は第二次世界大戦中からある。

だが自我が芽生えたのはここ最近のことだ。


きっかけは耳をくすぐるような声。

甘いスコーンを思わせるような、

可憐な少女の通信が僕に心を吹き込んでくれた。

彼女の声をもっと聴きたい。

戦車内で行われる談笑や連絡以外にも、

日常で彼女がどんな事を話しているのかもっともっと知りたい。


僕はM3リー。戦車だ。


(オッケー!キミの願い叶えて上げるよ!ハハッ!)

だれ!?

(ボクかい?ボクはキミのすぐ側にいる友達さ!ハハッ!)

友達?どういうことなの?

(キミが強く願ったからちょっとだけ助けてあげたいと思ってね!)

願いが叶うの?

(モチロン!今から夕暮れまで魔法をかけてあげる!サア!魔法の世界へご招待!)


鋼鉄の体とは違う……。

軽くて柔らかいこの感じ……。

「僕、人の体になった!?」

(いいかい?タイムリミットは夕暮れまでだよ!あとはキミ次第さ!ハハッ!)

「ちょ、ちょっと待って!」

声は聞こえなくなった。

「僕、男なのに、なんで女子の制服着てるの……?」

スースーする。なんだか居心地が悪い。

でもよく考えたらこれで正解なのかな。

だってここは大洗"女子"学園だから。

校舎が騒々しくなり始めた、お昼休みか。

植え込みから人を探すが見つからない。

「うーん。優季さんいないなあぁ……」

「なにしてるのぉ?」

「ひゃう!?」

今の独り言聞かれた!?


後ろからひょっこり現れたのは探し人、宇津木優季さんだった。


不思議そうな顔で見つめられる。

どうしようどうしよう。

「優季いたー。なにしてるの早くいこー」

「はぁ~い、いまいく~」

そのまま彼女は仲間の元へ行こうとする。行ってしまう。

あれ?止まって、こっち振り向いた?

「ねぇ、貴方も一緒に行かない?」

お誘いを受けてしまった!?

しかしこのまま付いて行くのはちょっとどうだろうか。

「……はい」

ああっ!

考えるより先に返事しちゃった!

「あれ?誰その子?」

「えへへ~、誘っちゃったぁ」「え!ナンパ!?」

「優季ちゃんがナンパ!?」「優季やるー」

はぁ……このいつもの感じ落ち着く……。

なんて安心してる場合じゃないよ!

「貴女お名前は?」

名前!?そういえば人の名前なんて考えてなかった。

え、えーと、えーーーと。

「僕、リーっていいます……」

うわわわそのまま名乗っちゃたよ!

「外国からきたのー?」「僕っ娘です!」

「金髪ふわふわー」「あや触りすぎー」

あれれ?なんか受け入れられちゃったよ。


食堂まで連れて来られてしまった。

そういえばお金とか持ってないんだけど。

「私ランチー」「カレー!」「ラーメン!」「ドリア!」「……そば」

わー、どうしよう。

「好きなのたのんでいいよぉ」「えっ?」

「あたしが無理やり誘ったんだからぁ、奢らせて?」

助かったー、ってなんか情けない気もするけど……。

いや!いつかこの恩は必ず返します!

「あ、ありがとう……」

「あたしカルボナーラぁ」

「えっと、鮭定食」

箸。

しまった、使い方がわからない。

握って刺して、うう……ろくに食べれない……。

「リーちゃんどうしたの?」「あい?お箸使えないの?」

「外国じゃあんま無いもんね」「えっ、外国ってお箸無いの?」

「じゃ~、あたしのフォークかしたげるぅ、交換しよ」

「あ、ありがとうございます」

やっぱフォークは使いやすくていいなあ。


ん?これさっきまで優季さんが使ってたフォークだ。

僕の使ってた箸は……

あっ、優季さんがパスタを口へ運んで、

運んで……、唇へ……、唇……。

はわわわわ……。

シュポン。


……ん。

真っ白なベッド……?

そうか僕はオーバーヒートして行動不能になってたのか。

誰かが運んでくれたのかな……。

はぁ……。なんて情けないんだ僕は。

戦車の時はあんなに彼女たちと共に勇敢に戦えていたのに。

これならいっそ戦車のままだった方が、

「起きた?」

「えっ!?」

なんでここに!?

「あたしもさぼりぃ」

悪戯っぽい笑顔もまた可愛いなあ……。

「ねぇ。先生もいないし、おしゃべりしない?」

「う、うん!」

そうだった、僕は彼女とたくさんお喋りしたかったんだ。


もうチャイムが鳴った、いつも楽しい時間はあっという間だなあ。

いつも通り彼女たちはこれから戦車の練習に……。

あっ!その戦車がここに居ちゃだめじゃないか!

「あの、今日は色々ありがとうございました!」

「もう行くの?」

「うん」

本当に楽しかった。最高だった。

こんなにうれしい事だとは思ってもみなかった。

でも僕は戦車だ。戦車の乙女達のために走るのが仕事だ。

じゃあね優季さん、バイバイ。

「ねぇ、リーくん」

はっとした。今なんと?

「またね」

「はい!」

(ヤァ!時間はまだ残ってるよ!)

いいんです。僕はもう十分満たされました。

(ホントにそうかい?)

どういう事です?

(キミはもっと望んで良いんだ!

 この奇蹟は一回こっきりじゃない!

 もっと大きな可能性を開く事だってできるんだ!ハハッ!)

もっと……。

そうだ、またね、と約束したんだ。

僕はもっと、彼女と過ごしたい。

戦車であるという枠を越えて。

(キミの全ての人生を変えるのはキミ次第だよ!)


ん~ふふ~ん♪ふ~ふふ~ん♪

戦車を磨く。やさしく綺麗にぴっかぴか。


「あれ?優季ちゃん今日早いね?」

「おはようございまぁす」

「そういえば最近ずっと一番に来てますよね」

「えっ!うそうそ!?」

「昼休みもよく来てるぞ」

「えー!……って麻子!またそんなところで、さてはー」

「うぐっ……」

「でもどういう風の吹き回しですか?」

「はっ!そうだよ!?どうしちゃったの優季ちゃん?」

えぇ~、だってぇ。


「戦車が恋人でいいじゃないですかぁ~」



おわり


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