18話:合同授業
3時間前に17話を投稿しています。
「今日はみなさんお待ちかね。王国軍の兵隊さんたちが実技指導に来てくれる日ですよ!」
なかなかに忙しい休日も終わり、学園生活も二週目に突入する。今日は光明の月、十日の風の日。朝の寒さもだいぶ薄れ、温かな日々が続くようになってきたそんな頃だ。
Sクラスの生徒たちは朝礼を行っていた。みんなの前に立つ担任のマルーシャ・ローズ。相も変わらぬ美しさを振りまきながら、今日の授業予定を生徒たちに伝えている。
「午前中の授業時間を使って将来就きたい職業ナンバーワンの先輩たちに色々なことを聞いちゃいましょう! もちろん剣術魔術の指導もしてくれますよ」
生徒の多くがその楽しみな時間に期待を膨らます。
「そしてその授業はだけど、Aクラスと共同で実施します。互いに譲り合って仲良くやっていきましょうね」
元気な返事がクラス中に響く。だがその返事は年齢にそぐわぬ落ち着いた返事だ。流石は高い教養を受けてきた王族や貴族なだけある。
そんな中リクとフレイは……。
「フレイって剣術とかどうなの?」
「あ、あははは……。からっきし……」
二人も午前の授業の話題で盛り上がっているようだ。
「そうなると、フレイって実技はてんでダメってことにならないか?」
「うぐっ。そ、そうだね……。僕って、魔力量しか取り柄が無いよね……」
「で、でも、勉強もよくできるじゃん」
「リクと比べると全然だめだよね…………」
「…………」
盛り上がっているのかは微妙なところだが、リクはフレイをネガティブ思考から回復させることが出来なかった。本来なら楽しみな授業であるはずの実技の授業。それも王国軍の衛兵が来るとなれば盛り上がり間違いなしだが、フレイはどうしても気分が盛り上がらなかった。そんなフレイのテンションに引っ張られるように、リクもまた己が魔法を使えないことを考え、ネガティブ思考に陥っていく。やけに暗い雰囲気を背負う二人にある四人の視線が向かっている事にはリクとフレイ、ともに気付くことはなかった。
◇◇◇
「みなさんおはようございます。まず、本日はみなさんのような優秀な生徒たちの指導を任せられたこと、光栄に思います。ありがとうございます。私の名前はジスター・ヴォルフ。私は皆さんと同じ年の時、グレース帝国からこちら、ニスカルト王国に留学し、ニスカルト王立学園に入学しました。学園卒業後はニスカルト王国に籍を移し、こうして王国軍の一員として働いています。まだまだ四年目の新人の域を出ない身ですが、今日はどうぞよろしくお願いします」
大きな拍手が運動場に鳴り響く。
運動場には五名の衛兵と四名の先生、SクラスとAクラスを合わせた七十名の生徒がいる。生徒のほとんどは人間族だ。ニスカルト王国は種族平等といっても、貴族になれるのは多くが人間族なのだ。国に対して功績を上げやすい王国軍に所属すること自体は多種にわたる種族が可能だ。だがいくら功績を上げても、人間族以外の種族が貴族になれることはまれだ。そういった意識下での差別が今だ残っているのは、ニスカルト王国の課題と言っていいだろう。
「それでは早速、衛兵さんの方々の模擬試合を見させていただきましょう。お国を守る衛兵さんたちの実力が垣間見える貴重な時です。静かに見学しましょうね。それではよろしくお願いします」
一人の先生がそう合図すると、二人の衛兵が準備を始める。一人は先程挨拶をしたジスター・ヴォルフ。もう一人はその部下だろうか、ジスターが色々と指示を出している。先生たちは衛兵の模擬試合をするための広さを確保するため、生徒たちを移動させている。運動場の真ん中には生徒に囲まれた大きな広場が出来上がっていく。先生たちはその広場を囲うように障壁魔法をドーム状に構築していく。その真ん中に立つのは二人の若き衛兵。どちらも最後の十代を迎えるような年齢だ。その二人の内の一人、ジスターは腕組みして立っている。もう一人の衛兵は実戦で使うような剣の形をした木刀を構えている。生徒たちのざわめきも静まり、運動所は静寂で支配される。
「一瞬の瞬きも出来ないからね」
「うん」
リクがフレイにそう教えた瞬間――
「――しっ」
「――はっ」
二人の衛兵が漏らすわずかな息とともに、中央に立っていた二人の姿が掻き消える。その直後、金属同士のぶつかり合いと思われるほどの高い衝撃音が全生徒、先生たちの鼓膜を揺さぶる。
「はぁああああっ!」
「せぁああああっ!」
それは瞬きせずとも見逃してしまうような速度だった。だが一部の生徒はその速度にもついていく。なぜなら感覚強化という無属性魔法で五感をフル強化しているからだ。中には使っても追いつけないような人もいるが、それは実力不足といったところだろう。魔法の使えないリク、細かな魔力コントロールを苦手とするフレイは、当然のように感覚強化を使えず、ジスターたちの速度についていけなかった。
先生たちが維持する障壁内では激しい戦闘が行われていた。それは実戦さながら。致命傷となるような急所は外しているが、実際に相手の体に対して魔法を放ったり、剣を模した物で叩きつけたりと、怪我必至な攻防が続いている。
「レ、レベル高すぎ……。生徒に見せるような模擬試合じゃないよ……」
リクはそんなことをぼやていた。その隣ではフレイも茫然としていた。
一対一の戦いにしては長い闘い、一分が経過しようとした時――
「――くっ」
「っらぁあああ!」
ジスターと戦っていた衛兵が体の痛みにバランスを崩す。それをチャンスと見てジスターは一気に攻めに出る。
「【弾丸】!」
ジスターは土属性魔法の弾丸を発射する。弾丸とは土属性で創られた弾を発射する魔法で、貫通力が高く初速が速い。消費魔力は少なめだが顕現技術の難易度は高めのため、中級魔法と設定されている。
「ぐぁあああ!!」
ジスターの弾丸は見事に相手の衛兵の左太ももを貫通した。完全に崩れ散る対戦相手。ジスターは決着をつけるために高速接近し、背後から雷の刃を突きつける。
「勝負あり!」
審判を務めていた女性の衛兵から決着の声が上がる。一瞬の静寂が運動場に広がったと思うと、一転、運動場は歓喜の声に満ち溢れた。
「うわぁああああっ!」
「すっげぇええええ!」
「かっこい~~~っ!」
鳴りやまぬ拍手や歓声。生徒たちはハイレベルな戦いを目撃し興奮していた。普段は落ち着いた雰囲気を見せる貴族の子らだが、この時は違った。可愛らしい、子供としての素の姿を見せていた。
「大丈夫か?」
「えぇ、おかげさまで」
ジスターは怪我させてしまった部下の怪我を治癒魔法で治していた。
「それにしても、お前だいぶ強くなったなぁ」
「はは。そら先輩に日々鍛えられてますからね。ま、それプラス自主練をしても先輩の化け物加減には追いつけなさそうですが」
「なんだとぉ」
互いを傷つけあった二人だが、心の内にわだかまりはない。信頼しあった仲であるからこそ、全力でぶつかりあえるというものなのだ。
「今一度、素晴らしい試合を見せてくださったお二方に大きな拍手をお願いします!」
再び割れんばかりの拍手が鳴り響く。その拍手に答えるジスターたち。
「みなさんいかがだったでしょうか。正直、先生は衛兵さんたちの動きについていくのは苦労しました」
先生の話に頷く大勢の生徒たち。
「かつて、ヴォルフさんはとても優秀な生徒として有名な方でした。勿論、この学園を首席で卒業し、王国軍に所属してからも活躍し続けていると聞いております。みなさんの多くが目指す王国軍の全員がヴォルフさんのように並外れた実力を持っているわけではありませんが、みなさんはこれだけの実力を持つ組織に入ろうとしているわけです。このすごさに消沈せず、逆に闘志を燃やして国に仕える王国軍に入隊していってほしいと、先生は願っています」
先生の話が終わると、次は衛兵たちによる実技指導。生徒たちはそれぞれ二組に分かれて模擬刀を使いながらの魔術、剣術の授業に入る。
リクとフレイは当然のように二人で組もうとしていた。
「ま、よろしくね、フレイ」
「う、うん。お手柔らかにお願いします」
しかし、そんな二人に待ったをかける者がいた。
「異議あり!!」
それは数人の男子たちを引き連れた、クリストフ・ドレスラーだった。
「またか……」
「…………」
思わずため息の出るリクとフレイ。
「やぁやぁ久しぶりではないか、ユード君にフィーダ君。最近調子はどうだい? 魔法は打てるようになったかな? 私は最近上級魔法を練習していてね。己の限界をさらに高めようと日々精進しているのだよ」
クリストフは不快感を与えるような話し方で二人に話しかけてくる。
「何の用……?」
「何の用ですか、だろう? 身分の高い者、偉い人には敬語を使うように、ママから教わらなかったのかな? おっと、君にはママがいなかったな。孤児のユード君」
クリストフはいちいち癇に障る事を言ってきた。リクは感情を爆発させないよう冷静にいた。
「何の用ですか」
「ふむ。貴様にとっては大変喜ばしいことだ。私が貴様の相手をしてあげようと言うのだ。どうだ? 感謝するがよい」
リクは、うげぇ、と口と顔に出さずに嫌がった。
(厄介な人に目をつけられたものだな……)
剣術の腕には自信のあるリクだが、魔術が絡むとどうしても勝つことは出来ない。リクはフレイと二人でのんびりと授業をこなしたかったのだが、どうやらそうもいかなくなったようだ。そんな時、リクのもとにやって来る一人の衛兵がいた。ジスターだ。
「よう、リク。久しぶりだな」
「ジスター……さん。お久しぶりです」
リクは「ジスター兄ちゃん」と呼びそうになるのを既の所で堪えた。ここは二人だけでいる場ではない。大勢の目や耳があるこの場であまりにも親しげにすると何を思われるか分からない。特に、リクの後ろにいるクリストフなどは気にするだろう。いや、ジスターがリクだけに話しかけてきた時点で疑問に思うはずだ。
「すみませんがヴォルフ様。ユード君とはいったいどういったご関係で」
「ん? 誰だあんたは。ところでリクよう――」
「ぐっ……」
クリストフはものの見事に無視された。
クリストフを無視したジスターはリクと会話を交わした。それは自分が王国軍の警備隊ではなく正騎士隊に所属し、魔物の討伐やいつ起こるとも分からぬ戦争のために訓練をするようになった、という内容だった。その内容はジスターが以前リクに語った夢に近づく一歩だった。ジスターは、いつかはニスカルト王国騎士団長になるのが夢だと言っていた。その時は街を警備するただの新米兵士。いくら実力のある人だとしても、当時からすると無理難題な夢だったかもしれないが、今では立派な正騎士隊に所属する一員だ。騎士団長という夢に一歩近づいたのは間違いないだろう。
「ところでリク。お前――」
「ユード! 私とさっさと勝負をしたまえ!」
ジスターに無視された事に怒りを覚えたのか、矛先をリクに向けて怒りをあらわにするクリストフ。溜息をつくリク。
「俺と戦っても何も面白くないよ? 勝ったとしても何の自慢にもならないし」
「ふん。周りの者に私の実力が分かればいいのだよ。そして私の実力を見せやすい相手といえば、そう、君なのだよ。ユード君」
リクは何度目とも知らぬ溜息をつく。つまり、クリストフは弱いリクを相手にすることで、相対的に自分を強く見せ、また、自分の得意な魔法を使いやすい状況が作ることが出来るということだ。なんとも卑怯な考えだろうか。
「やってやれよ、リク」
「えっ!?」
「ありがとうございます、ヴォルフ様」
「ただし、剣術のみで、だ。お前もリクが魔法を使えないことは百も承知だろ? なら貴族として平民であるリクと同じ条件で戦ってあげることが、上に立つものとしての役目ではないか? 別にこれはお前にハンデを課しているわけではないぞ。逆に、リクにあったハンデを無くしているといった感じだな」
「……いいでしょう。貴族として平民に国の平和を守る者の実力をはっきりと見せて差し上げましょう」
クリストフはそういうとリクから距離を取り始める。
「リク」
「何?」
「舞台は用意した。奴を遠慮なくぶったおせ」
「いいの?」
「構わん。お前の剣術の実力を見せつけてやれ」
「了解」
二人は周りに聞こえない程度の声量で会話した。
「さて、二人の練習試合は他の生徒を指導しがてら遠くから見てるから勝手にやっていてくれ。お前らなら大丈夫だろ」
それは主にリクの実力を考慮しての言だった。
「ヴォルフ様!」
「……なんだ?」
ジスターはクリストフの呼びかけにいやいやながらも対応する。
「私がユード君に勝ちましたら、ヴォルフ様が所属する部隊に、将来私を推薦していただけないでしょうか」
「……剣術でちゃんと勝てたなら、考えとくよ」
「ありがとうございます」
ジスターはそれだけ言うとリクの肩を叩き、その場を離れる。クリストフは木刀を構え、リクと正対する。リクもまた、クリストフと同様木刀を構える。互いに隙は少なく、相手に重い一撃を与えるのはなかなかに難しそうだ。
「ユードよ。私は貴族の礼儀として貴様を剣術で倒す!」
「俺をあまりなめるなよ」
いつもと違う雰囲気。静かに滾る闘志。リクのその様子にクリストフは一瞬ひるむ。リクはその隙を狙って猛然と駆けだす。クリストフは一瞬反応が遅れるもリクをその場で迎え撃つ。リクは右下段に構えた木刀を振り上げる様に、クリストフは右上段に構えた木刀を振り下ろす様にして、二人は衝突する。
「わぁ~……」
フレイは思わず声を漏らす。初めて見るリクの実戦形式に近い戦い。想像以上の速さと力強さに、フレイは釘付けとなった。
二人は鍔迫り合いに入り、膠着状態となる。
「な、なかなかにやるな。だが私には到底及ばん!」
「試合が終わってからも同じことが言えるかなっ!」
リクは押し合っていた力をふっと抜く。するとどうだろうか、リクを押し込もうと力を入れていたクリストフは当然のように前のめりになる。リクは両手で持った木刀の上を滑らせるようにクリストフを自身の右側へと受け流す。そのままリクは半回転し地に手を付いたクリストフめがけて木刀を振り下ろそうとする。
「まだだ!」
しかしクリストフも剣術指南を幼少のころから受けてきた身。そうやすやすと無様に敗北するわけにはいかなかった。クリストフは地に手を付いたものの、右手で握りしめた木刀を振り向きながら振り上げる。
すると、互いの木刀は両者の中間で再び鍔迫り合いとなる。
「…………」
この時からリクは違和感を感じ始めた。
両手で木刀を握りなおしたクリストフは膝立ちの状態からリクを押し込もうと力を込める。
「――くっ」
リクは上から体重を乗せているのにもかかわらず逆にクリストフに押し返され始めた。この時になってリクはあることを考え始めた。
(こいつ、結局魔法を使ってるのかよ)
リクはクリストフが身体強化を発動させている可能性を考えていた。表面上に変化の見られない身体強化は一見普通の状態に見えるが、戦ってみると使用しているかが分かりやすい。クリストフは周囲の人たちにばれない程度の力加減で身体強化を使用し、リクにギリギリでもいいから勝とうとしているのだろう。
「はぁあああっ!」
「くそっ!」
力で押し負けたリクは一旦距離を取る。しかしそれに追随するようにクリストフはくらいついてくる。
「逃げるなぁ!」
「くっ。お前こそ卑怯だぞ!」
再度二人の木刀が交錯する。二人の試合を見ていたフレイは、再び木製特有の高い音を耳にするものと予想していた。もちろん、リクもだ。しかしその予想は裏切られた。
「――なっ!」
「くらえぇえええっ!」
ぶつかり合った両者の木刀はリクの木刀が折れるという結果になった。そしてクリストフはそのままの勢いでリクの肩を強く叩く。
「ぐぁああああっ!」
「リクッ! ずるい!」
この時になってようやくフレイにもクリストフが魔法を使っている事に気付いた。身体強化のほかに木刀の強度を強化する、土属性魔法の硬質化だ。
肩に叩きつけられた痛みでリクは膝を折る。二人の勝負は決したかのように見えた。
「私の、勝ちだ!」
息の荒れるクリストフはそこからとどめを刺そうと木刀を振り上げる。
「危ない!」
フレイは思わず声を上げる。フレイが何とかしてクリストフの所業を止めようと、魔力を練り上げ魔法を発動させようとした時――
「私に任せてください」
と、フレイの前に出る女の子がいた。その女の子は左手を上に掲げこう唱えた。
「【鈍風槌】!」
「えっ!? それだとリクも!」
そう、フレイの言う通り、彼女の使った鈍風槌をここで使うと、クリストフだけでなく近くにいるリクも巻き添えになる可能性が高い。何しろ一般的な鈍風槌は表面積が大きく、対象物にあてやすいのが特徴でもあるからだ。しかし、名も知らぬ彼女の鈍風槌は少し違った。
「がっ!! い……だ……だ……」
クリストフだけに魔法が叩きつけられていた。
「柄を長く、頭部を小さくしましたので」
彼女はそう説明した。魔法を一番作りやすい形に作るのではなく、あえて違う形に作るのは魔力コントロールと創造力が優れている証拠だ。彼女もまた、魔法に関しては一年生の中で頭一つ二つ飛び抜けているのが窺える。
木刀を落としたクリストフは頭を押さえながらフレイたちの方を振り向く。
「くっ、誰だ! この私に攻撃するような輩……は……」
「クリストフさん。あなたが私をご存じでないはずがありませんよね?」
「レ、レイナスティ……さ……ま……」
「くっ。……って、あれ? レイナスティってどこかで聞いたことあるような……」
クリストフの呟きにリクは自分の記憶を探ろうと痛みを忘れようとする。
「――くっ……。そ、そう。これは事故です! 授業の最中に起きた不慮の事故です! そもそもあのリクという者が私に楯突くから!」
「それでも、あなたが魔法を使ってリク様を怪我させたのは事実です。リク様が魔法を使えないのはご存じのはずでしょう? 貴族であるあなたが試合のルールを破ったことには心底呆れています。恥ずかしくないのですか?」
「ぐっ……」
「そもそも、貴族、平民だと言って階級で差別を図っていては、真の平和は訪れません。国民すべてが地位にこだわらず暮らせる日が来ることで、平和とは訪れるのです」
レイナスティはクリストフの隣を通り過ぎ、肩を押さえているリクのもとに着く。
「立てますか? リク様」
「え、あ、はい……」
リクはレイナスティの差し出す手を握り立ち上がる。
「私を、覚えていませんか?」
「えっと、レイナスティ様って呼ばれてたけど。……も、もしかして三年前、裏道で迷子になってた、あのレイナスティ……ちゃん……?」
「あ、あの迷子の事は忘れてください……」
レイナスティは顔を赤らめながら伏せる。そう、彼女は三年前に裏道で迷子になって酔っ払い三人に絡まれていた女の子だったのだ。
「コホン。初日の自己紹介で名前は言いましたが、何の反応もなかったのでここでもう一度名乗ります。私の名前はレイナスティ・ニスカルト。この国の第三王女です」
「――へっ?」
「あの時の約束を覚えていますか? お礼をさせてください。今週末にでも私の家、王宮へと招待させてください。来て、くださいますよね?」
「えぇえええええ~~~~~っ!!?」




