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15話:フランク・ハーマンとフローラ・ベルネット

3時間後の18時に次話を投稿します。

 薄暗い部屋。オレンジ色の魔光球(まこうきゅう)が寂しげに一つ、部屋の天井に飾り付けられている。その魔光球はゆらゆらとゆっくり揺れ、部屋の中にいる人物や置かれている物の影を揺らす。部屋の(すみ)からは何かを探すような、ガチャガチャといった音がする。

「お、あったあった」

 探し物をしていた男性は(おもむろ)に立ち上がる。

 その部屋にリクもいた。そしてなぜか、リクは横になっていた。硬く、ひんやりとした台の上で。そしてパンツ一丁の格好で台の上に固定されて。

「それではリク君、始めようか」

 リクの横に来た男性は、先程探していた(ブツ)――大型のペンチをリクに見せつけるように両手で開閉する。

 リクは叫ぶ。

「んんん~~~~~~!!」

 口も塞がれたリクの叫びは(むな)しくも誰にも届かない。そしてリクは思う。

(どうして、どうしてこうなった!)



 ◇◇◇



 時は(さかのぼ)る。

「リク君。君を私の拷問室(けんきゅうしつ)へと招待しよう!」

 悪寒しかしないリクは、

「お断りします」

 当然のように断った。後ろにいるフレイの手をとり、目の前の二人の間を抜けるようにしてその場を切り抜ける。しかし、そんなリクを男は逃がさなかった。リクの肩を掴み、逃がさんとす。女はリクの進行方向に立ちふさがる。リクは男の手から逃れようとするも、見た目に反して男の力は強くその手から抜け出せなかった。

「まぁまぁそうピリピリなさんなって。まずは自己紹介させてくれ。私はニスカルト王立学園の魔術理論を担当し、ニスカルト魔術研究開発機関、研究部門に所属するフランク・ハーマン、人間族だ。以後よろしく」

 フランクと名乗った男は肩を掴む力を緩めることなく自己紹介をする。

「そして私はハーマンの助手を務めるフローラ・ベルネット、エルフ族です。以後お見知りおきを」

 そしてフランクに続いてフローラと名乗ったエルフは眼鏡を上げながら自己紹介をしてくる。

 リクは抵抗することを諦め、自己紹介されたからには自分もと名前を告げる。

「リク・ユードです……」

 するとフローラは(わき)に抱えていた資料を取り上げ読み始めた。

「リク様の事は色々と存じております。リク・ユード、八歳。血のつながったご両親の行方は不明。五歳からニスカルト王立学園に入学するまでは、現在北大商店街通りに店を構えるレグム家にお世話になっていたそうですね。家族構成は父母に姉二人。そして姉のシェリー様にはちやほやされ毎日を過ごしていたと。非常に(うらや)ましい限りです」

 その時、リクを見つめるフローラの瞳が怪しく光るのをリクは感じていた。その視線にリクはシェリーやミアにされてきた疲れる行為を何故か思い出させられた。

「魔術研究開発機関を創設し、Sランク冒険者であるアリソン様とワット様の正式な弟子である、リチャード様とミア様の弟子という位置づけでもリク様はあります」

 リクはその情報を知っている事には素直に驚いた。リク自身は勿論、アリソンたちも基本口外しない情報だからだ。そんなリクの後ろではフレイも目を見開いていた。その情報を語ったフローラとリクに驚いた様子で視線を向けていた。

「そしてさらに興味深いことに、リク様は魔力が無いと言われているそうですね。魔力視認(オバート)を用いても体から漏れ出る魔力を確認できないと聞いております」

 リクは呆れた。いったいどこからそんな情報を仕入れてきたのか(はなは)だ疑問だった。

「そんなリク様はニスカルト王立学園を受験し、見事筆記試験では満点。魔力量計測では計測不能。魔法実技試験では零点という色々と信じられないような成績を収めての特待生合格となりました。その他身体に関する諸々(もろもろ)のステータスも集めておりますが、今回は省かせてもらいます。以上です」

 リクは呆れ顔で軽く拍手した。よくこれだけの情報を短期間で集められたものだ。おそらく彼らはリクの入学試験の結果が出て、リクの奇怪な成績に目を付けてから調べ始めたのだろうとリクは推測した。それを考えると、彼らの情報収集能力は極めて高いと言える。

「さて、ここで疑問になってくるのが、入学試験の結果だ」

 フランクはリクの肩を離し、廊下を行ったり来たりする。そんな動きをするフランクを変なものを見る目で廊下にいる人たちは見ていた。それは助手であるフローラ以外の人たちだ。

「リク君には魔力が無いとされているにもかかわらず、魔力量計測結果は計測不能と出た」

 リクは別段驚くことはなかった。

「当たり前じゃないんですか? 魔力が無いんですから」

 そのリクの言葉に、フランクはチッチッチと指を振る。

「それは誤った認識だな。魔力が少ない場合は白色で表されるのだが、無い場合も白色に反応するはずなのだ。そのように作られている」

「えっ? それじゃ俺の一切反応を見せなかったのは?」

「実はリク君以外にも魔水晶が反応を見せなかった者は三人いる。彼らは当然のようにSクラスにいる。そして勿論魔力を持っている。つまり、魔水晶が反応を示さなかったのを意味するのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ということだ」

 リクは興奮し始めた。自分に魔力がある可能性がここにきて出てきたからだ。

「事実、リク君含める四人は魔水晶に共通した状況を与えた。それは魔水晶の破壊だ」

「え?」

「リク君は気付かなかったのかもしれないが、大きなひびを一本残していたのだ。それは魔水晶の計測許容量オーバーということだ」

 リクは胸の高鳴りを覚えていた。念願の魔法。それが使えるようになるかもしれない。

「ってことで、人体実験に付き合ってもらおう」

「へっ?」

 リクは浮遊感を感じる。それはフランクによって担がれたことによるものだった。リクはフランクの肩に担がれ、一瞬の出来事に困惑する。

「私たちから逃れようと思わない方が賢明ですよ。こ、これだけ興味深い研究試料を逃してたまるものですか。えへ、えへへへ」

 フローラは妖艶(ようえん)な笑みで舌なめずりをする。リクは全身の産毛が総立ちするのを感じた。

「ちょっ、どこへ連れてくつもりですかねぇ……」

 恐怖を感じたリクは二人に尋ねる。

「言ったじゃないか。拷問室(けんきゅうしつ)、だと」

「嫌な予感しかしないんですが……」

「それは気のせいですよ! っと」

 フローラは廊下の窓を全開にする。その窓にフランクが足をかける。

「え、まさか……」

「行くぞリクよ! 時間は有限! 一分一秒も無駄に出来ん!」

 そう叫びながらフランクは窓からリクを担いだまま飛び降りる。

「お~っほっほっほ。ごめんあそばせ~!」

 それに続いてフローラも窓から飛び降りる。その窓に駆け寄り五階から落ちていく三人をフレイは茫然(ぼうぜん)と眺めていた。



 ◇◇◇



 ガコンと重々しい音を立てながら扉は閉まる。ここは地下室。リクが連れてこられた場所は学園内の端も端、フランクの研究室の下に秘密に作られた、

「その名も秘密の拷問室(けんきゅうしつ)だ!」

「どう見ても拷問室(ごうもんしつ)でしょ!」

 リクは突っ込まずにはいられなかった。

 地下室に置かれている道具はどう見ても拷問器具。硬そうな台に拘束具。鞭やハンマー、鋭利な刃物にドリル器具。身の毛のよだつような器具がそこかしこに散らばっている。

 フランクに下ろされたリクは、先程閉まった扉から地上に出ようとすぐさま引き返す。しかし扉は開かなかった。

「その扉は私とフローラの魔力のみに反応して開く仕組みだ。リク君では開かんよ」

 フランクはそう言いながら部屋の隅で何かを探し始める。

「なぁ~に。別に痛いことをしようってわけじゃないさ。ちょっと眠ってもらって、その間にちょちょいっと体を調べさせてもらうだけだよ」

 リクは思わずにはいられなかった。

(俺、生きて帰れるんだろうか……)

 すると、突如体の自由をリクは奪われた。体に力が入らず、バランスを崩して後方へと倒れこむ。このままだと頭を打つ、と覚悟した時、フローラがリクを受け止める。後頭部に柔らかい感触を得るが、リクはそれどころではなかった。拷問室で体の自由がきかない。それだけで恐怖に見舞われるのは必然だ。リクはこれからされるかもしれない拷問シーンを思い浮かべ、気を失いそうになる。

「ふふふ、そう緊張しなくても大丈夫よ。お姉さんが優しくしてあげるから」

 フローラはそう言いながらリクの頬を撫でる。

「それでは失礼しますね」

 そう言うと、フローラは徐にリクの服を脱がし始めた。

「なっ、なっ!?」

 リクはさらなる驚きに声にならない声を上げる。

「何を驚くことがあるのかしら? リク君の体を調べるのですから服は邪魔なんですよ」

 抵抗できないリクは次々と服を脱がされていく。ルシオに買ってもらった正装は無下に扱われることなく、ハンガーにつるされたり綺麗に畳まれたりと丁寧に扱われたのは幸いだったろう。そしてリクはハタと思う。

(まさかパンツにまで手をかけるんじゃ)

 しかし流石のフローラもそこまで脱がすことはなかった。パンツ一丁となったリクをフローラは軽々と持ち上げ、部屋の中央に立つ高い台の上に寝かせる。

「ステータスで知っていましたけど、リク君年の割にいい体つきしてますよね。いい師匠を持つと正しく鍛えられるようですね」

 フローラはリクのうっすらと見える割れた腹筋、軽く血管の浮き出た前腕を見ながら呟く。そしてフローラは次々と腕、足、腰、胸、口といった場所を台に取り付けられた拘束具で手際よく拘束していく。その際リクは若干の息苦しさを感じる。

「ごめんなさいね。こうしないと暴れられちゃうから仕方がないのよ」

 リクはますます恐怖に支配されていった。暴れてしまうほど痛い何かをするのか。リクは力の入らない体を必死に動かそうと意識する。しかし体は言うことを聞かない。

 リクは頭上に取り付けられた魔光球を見つめるしかなかった。魔光球はゆらゆらと揺れ、地下室を怪しげに照らす。

「お、あったあった」

 先程から部屋の隅で探し物をしていたフランクは徐に立ち上がる。

「それではリク君、始めようか」

 リクの横まで来たフランクはそう言いながら、手に持った大型のペンチをリクに見せつけるように開閉する。それで何を引きちぎるのか、リクは想像に容易かった。

「んんん~~~~~~!!」

 リクの叫びは空しくもこもった声にしかならない。誰にも届かないその悲痛な叫びは味方などどこにもいないことを一層知らしめることにしかならなかった。

 極度の恐怖と緊張に見舞われていたリクは不意に眠気を覚える。それに(あらが)うことも出来ず、リクは深い眠りへとついていく。



 ◇◇◇



「――――はっ! はっ、はっ……」

 リクは荒い呼吸とともに目覚めた。

「こ、ここは……自分の部屋?」

 豪華絢爛(ごうかけんらん)な部屋にいることに気づき、リクは周囲を見渡す。自分の部屋であれば自分の荷物があるはずだ。

「あった。やっぱり自分の部屋だ」

 机の上に置かれていたのは愛読している魔法書。さらには今朝正装に着替える時に脱いだ服がベッドの上に置かれている。

 リクは全身に汗をかいていた。まるで悪夢を見た後かのように鼓動は早い。

(夢……なわけないよな)

 リクは腕にうっすらと着いた拘束具の跡を見て溜息をつく。フランクやフローラに捕まって何かされた事は現実の事だったのだ。リクは眠っていたためその間何をされたかは分からないが。開腹でもされていないか、リクはそのことを確かめるために正装を脱ぎ、パンツ一丁になって鏡の前に立つ。お腹や足、腕といった場所に傷跡はないかリクは注意深く確認していった。リクは気付かなかったが、治癒魔法を使える者がいた場合、傷跡ひとつ残すことなく治療することが可能だ。魔法が使えないリクはそのことまで頭が回らず、背中側を確認しようと体をひねる。その時、

「リク、大丈――……」

 ふと声がする。その声に振り替えるリク。玄関のドアの開く音を聞きのがしていたリクは突然の声に驚き、鏡の前でパンツ一丁の姿でいる状態で声の主――フレイを迎え入れた。

 学園寮の部屋は玄関のドアから部屋に入ってすぐに部屋の中全体を見渡せるわけではない。玄関から続く細い廊下を数メートル進んでから曲がることで、部屋の全貌(ぜんぼう)を見渡せるのだ。そんな廊下から顔をそっと(のぞ)かせたフレイはリクの姿を視界に入れ硬直(こうちょく)した。

「あ、あのこれは別に変なことをしていたわけじゃなくて、傷跡を――」

「きゃあああああぁ~~~~~!!」

 リクの必死の弁明(べんめい)も空しく、フレイの叫び声が空間を支配する。その際に暴走するフレイの魔力。魔道具はその暴走するフレイの魔力に反応する。食器類は棚から飛び出し、調理器具は宙を舞う。コンロの火がつき、シンクには大量の水が流れる。

「ちょっ、フレイ抑えて! うわっ! 危ないから冷静になって!」

「いいから早く服を着てぇ~~~!」

 フレイは廊下に下がって声を張り上げる。リクは飛び交う食器類を避けながらベッドに散らばる服を掴み素早く着替える。

「着替えた着替えた! だから落ち着いてぇ!」

「…………」

 こっそりと廊下から顔をのぞかせるフレイ。宙を舞っていた家具類は途端に力を失くして地に落ちる。高価な食器類が割れる音を悲しい思いで聞きながら、リクはフレイが座れるよう椅子を引く。

「え、えぇっとぉ。……いらっ、しゃい」

「お、おじゃまします……」

 ようやく落ち着いたフレイは椅子に座る。リクは二人分のお茶を用意してテーブルに置く。

「それで、何か用?」

 リクは務めて何もなかったよう振る舞う。フレイは出されたお茶を一口飲む。

「その前に、リク、鏡の前で何してたの?」

「だから言ったじゃない。傷跡がないか見てたって」

「やっぱり何かされたんだ」

「え?」

「あのね。僕、リクが連れ去られてからずっと、リクが帰ってくるのを男子寮の前で待ってたの。そしたらあのフローラ先生がリクをおぶって帰ってきたから心配してたんだよ」

 その言葉にリクはイライラを覚える。

(ハーマン博士。今度会ったら絶対に泣かす)

 そんなことを思いながら。

 そして男子寮に何故フレイがいるかというと、女子は男子寮に入ってもとやかく言われることはないのだ。全ては自己責任。逆に男子は女子寮に入ってはいけないという規則はしっかりとあるのだ。年頃の男子からするとすごく理不尽だと怒りたくなるだろう。まぁその怒りも本気ではないだろうが。

「リクが寝てる理由を聞いても大丈夫としか教えてくれなくて。それで、時間を置いて様子を見に来て、さ、さっきの状況に……」

 先程の状況を思い出したのか、フレイは頬を赤くしながら顔を(うつむ)かせる。それはそうだろう。何しろ異性のパン一姿を見てしまったのだから。リクは気まずい雰囲気に(ほお)()く。

「ま、まぁ状況は分かった。それでだけど、安心して。背中以外には傷がないのを確認できたから。背中は、まぁ後で確認するけど」

 そんなリクに思わぬ声がフレイからかかる。

「せ、背中だったら僕が見て、あげよう、か?」

 確かに、背中だと人に見てもらった方が確認しやすいだろう。リクはその考えに至り、フレイに背中を見てもらうことをお願いする。

「それじゃお願い」

「う、うん」

 二人は席を立つ。リクはフレイに背中を向けて服をめくり上げる。その時、間の悪いことにもう一人の来客が静かにリクの部屋へと入ってきた。

「よぉリク! ハーマン博士に――……」

「イ、イサギ兄ちゃん!?」

「――ッ!?」

 静まる部屋。フレイは驚きのあまりに翼を最大限にまで広げていた。数秒の静寂(せいじゃく)(のち)、イサギは口を開く。

「お、お楽しみ中でしたか。失敬(しっけい)……」

 そう言って廊下へと顔をひっこめるイサギ。

「って、違う違う! 断じて違うよイサギ兄ちゃん! 違うんだぁ―――っ!」



 ◇◇◇



「ってことでやって来ました大浴場」

「風呂に来たはずなのになんか疲れたよ、イサギ兄ちゃん……」

 ここは学園寮内の中央、男子寮と女子寮の丁度真ん中に位置する大浴場。男湯と女湯に分かれているこの大浴場は、貴族はもちろん王族も利用する場合があるため、風呂であろうと金銭に糸目はつけず装飾は最高級。広さも王族を考えられた贅沢な広さとなっている。

 そんな無駄に広く無駄に豪華な大浴場に、イサギとリクは来ていた。

「それにしてもなんでこんなに広くて豪華である必要があるわけ? 未だに慣れないよ……」

「さすがに俺は慣れたけどな」

「そりゃ三年もいればね。俺なんかまだ一週間なんだから」

 体を綺麗にする魔法――清潔(プリート)が存在する世界だが、体を綺麗(きれい)に洗う風呂場は存在する。清潔という魔法は、体の汚れを落としはするが、すっきり感や気持ちよさというものは伴わない。汚れていた際のむずむずした感覚などが、魔法で一緒に落ちることはない。そのため、体をこすって洗うことでそういった感覚も一緒に洗い落とし気持ちよくなるという需要(じゅよう)があるのだ。

「それにしても、ハーマン博士のあの行動が趣味によるものだったとはねぇ。趣味としては酷すぎる」

「ははは。まぁ初めて見る時はすげぇ怖いよな」

 フランクがリクを拷問しようと見えたシーンは、全て人の怯える姿が見たいがために行っていた演技であることを、リクはイサギから聞かされた。実はイサギ、魔術や魔力を研究するフランクの下で魔力に関する研究を行っているのだ。そのためイサギはフランクの行動理由をよく知っていた。興味のあることはとことん調べ上げる。その対象が人である場合は迷惑な遊び心を混ぜながらも、真剣に謎の解明に挑む。そんな人の下でイサギは日々魔力について勉強、研究をしていた。そんなイサギの行動は全てリクのため。リクの魔力を取り戻すためにだ。

「ところでリク。ハーマン博士から聞いたんだが、魔力があったんだってな。良かったじゃないか」

「うん。まぁまだ実際に確認出来た訳じゃないけどね。ある可能性が出てきただけでもすごく嬉しいよ」

「あとはどうして魔力が見られないのか。魔力は一体どこでどうなってるのかってところだな」

 二人は身体を洗い終わり湯につかる。

「そういえば、ハーマン博士は俺を捕まえて結局何をしたんだろう。イサギ兄ちゃん分かる?」

「ん~……。多分だけど、何かしらの魔法を使ってリクの体内の魔力循環を見ようとしたんじゃねえかなぁ。魔力視認(オバート)は勿論、魔力乱(オバーレン)とかも使ってそうだなぁ。魔力乱で体内の魔力を乱そうとして何らかの反応を見たとか。簡単に思いつくのはそんな感じだな。別に開腹とかするような人じゃないから安心しな」

 リクはイサギの言葉に安心し、肩まで深く湯につかる。温かな湯が流れ落ちる音が浴場内に反響する。リクの学生生活はまだまだ始まったばかり。これから楽しいことも大変なことも待っている。せっかく合格できたのだ。リクは学園生活を最大限に様々なことに活用していこうと決意する。リクはこれからの方針を口にする。

「取り敢えずは、魔力を取り戻すってことで」

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