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14話:入学式

「……う~ん…………。やっぱ、似合わないよなぁ」

 鏡越しで見る己の正装姿に恥ずかしさを感じながら、リクは若干曲がっているネクタイを直す。

 ここはリクがこれから六年間過ごす予定である、ニスカルト王立学園の男子寮の内の一室だ。ここの学園寮は王立なだけあり豪華絢爛(ごうかけんらん)の一言に尽きる。生徒にこれだけの金銭をかけていいのだろうかと思えるほどだ。特にリクは平民出身の特待生であるため、余計に居心地の悪さ、むず痒さを感じていた。リクのいる室内も勿論豪華だ。最高級の魔道具で作られた家具の数々。小さな食器類から大きなタンスなど、何から何まで全てが魔道具仕様だ。魔道具でない部屋を飾る装飾品などの置物は希少金属類をふんだんに使い、触れることすら恐ろしいほどの代物だ。リクはそんな一室を自分の部屋として一週間前から過ごしていたのだ。ニスカルト王立学園入学式という今日を迎えるために。

「にしても、この部屋にはまだ慣れないなぁ。一人の部屋にしては広すぎるし……」

 そして魔力のないリクには魔道具仕様の家具などあってもないのと同じ。全てを自らの手で使用しているのだ。

「さて、そろそろ行こうかな」

 自室にかけられた時計を見てリクは呟く。リクの今の格好は入学式のためにレグム家が合格祝いとして買ってくれた正装姿だ。学園生活は基本服装自由だが、入学式くらいはちゃんとした服で出ろ、とルシオが奮発して買ってくれたのだ。シェリーはリクの正装姿を見て鼻血を垂らし、メリーは頬を赤らめてそっぽを向く。そんな二人の反応を見て母ヘレンはくすくすと笑っていたのをリクは思い出す。

 特待生は寮の補助金が出るということから、リクはお世話になったレグム家とはお別れして一人暮らしを始める決意をした。そしてその決意をした時のシェリーの反応はびっくりするものだった。「私もリッくんと一緒に住む!」と泣きながら仕事を放り投げてリクに付いていこうとしたのだ。リクは流石に呆れ、「自分が成長するには一人暮らしをしないといけない。いつまでもお世話になるわけにはいかない」、とシェリーを黙らせた。リクが大好きなシェリーは酷く落ち込んだが、全てはリッくんのためと同居することを諦めたのだ。メリーもまたリクと別れることを悲しんでいたが、メリーは姉であるシェリーのように暴れることはなかった。理性で自分の欲を抑え込み、リクの成長を姉として素直に応援するにとどめたのだ。

 リクは自室を出て鍵を閉める。ドアノブに魔力を通せば勝手に閉まるはずの鍵だが、リクはそれが出来ないため自室を閉めるための鍵を与えられ、それを使って閉めている。そんなリクの様子を見て笑いものにするような貴族の子は同じ寮に住む中にはいなかった。ただ不思議な存在を見るかのような目で見られることはあったが。

 寮生活を送ったこの一週間は一人でいることが多かった。隣室や、すれ違う人には挨拶を交わしたが、基本友達になろうと行動したことはなかった。何しろほとんどの人が貴族で年上なのだから。だがそんな寮に住んでいる人の中で、リクの知っている人が一人だけいた。それは三年前に学園に主席入学した平民出身のイサギ・ヴァンピールだ。イサギとは食堂で偶然出会った。その際には話が弾んだが、イサギの周りには既に同学年の友達が当然のようにいた。そのため、それ以来は遠くから挨拶をする程度に収まっている。そのため、昼間の暇な時間帯は貴族街の散歩に出かけたり、大図書館で気楽に読書をしたりしていた。

「行ってきます。鍵、よろしくお願いします。入学式とか終わったらすぐ帰ってくる予定です」

「いってらっしゃ~い。でもリク君はきっと変人に会うと思うから、すぐには帰ってこれないと思うわよ」

 玄関で受付をこなす、寮長である彼女の名は二コラ・グレスレット。彼女はニスカルト王立学園の卒業者。自分がお世話になっていた寮に恩返しをするとともに、寮生活を学生たちが満喫できるよう貢献したいという思いから卒業後からこの職に就いている。

 そんな彼女の口から出たのは不吉な言葉。行動が予言されたようでリクは軽く寒気を覚えた。そして曖昧(あいまい)な返事しか出来ずに、リクは寮を後にする。

 学園寮は広い敷地面積を持つ、学園内に建っている。そのため、リクは寮を出る以前から学園内にいるのだ。しかし、寮を出てから入学式が行われる体育館に辿り着くまでに要する時間はリクの足で十分以上かかる。寮の近くに存在する転移陣を用いればあっという間なのだが、残念ながらリクは……。だがリクはいい運動になると前向きになって、早歩きで体育館へと急ぐ。

 体育館へと近づくと人口密度は激増する。入学式に参列する新一年生の人たち、その両親たちで体育館の出入り口は塞がる。リクはその列に並び、入り口前で受付を済ます。

 体育館内に入ると大勢の人によるざわめきで中は溢れていた。壁際に並べられた席には学園の教職員が、中央から前列にかけては新一年生が、後列にはその保護者が席についている。リクは席と席の間に作られた通路を通り抜け、Sクラスが座る最前列の席に向かう。

 リクの正装姿は大変立派だが、貴族の子が身に纏う正装とはやはり劣る。そのため、目立つというほどではないが、平民と思わしき男の子が随分前へと歩いているなぁ、といったささやき声がいくつかリクの耳に届く。その声に怯えることなく、リクは素早く歩を進める。そんな時、リクにかけられる声が一つ。

「貴様は、あの時の孤児ではないか」

 その声に視線を横に向けると、Aクラスの席に身を置くクリストフ・ドレスラーだった。

 リクはその偶然か必然かの遭遇に内心嫌で仕方がなかった。しかしそんな感情を顔に出すことはなく、務めて平静でいた。相手は貴族。階級は分からずとも自分よりも遥かに偉いご身分である人の息子だ。クリストフの性格を正確に知らないリクにはあまり反抗的な態度などはとれなかった。

「どうも、お久しぶりです」

 リクは物腰低く対応した。

「久しぶりだなぁ、ユードよ。それにしてもよくもまぁここに入学できたものだな。前にも言ったが本来ここは貴族だけが通うべき場所だ。貴様が居ていい場所ではないのだがな。まぁいい。学園が許したのだからそれに文句は言うまい。それで、貴様は何クラスだ? 私には分かるぞ。貴様程度の実力ではIクラスが関の……や……ま…………」

 クリストフの視線がリクの胸に付けられた所属クラスを示すバッチに注がれる。クリストフはリクのつけるバッチを見て愕然とする。口は開き、身体は固まる。

「Iクラスが、何だって?」

 そんなクリストフに、リクはあえて胸のSクラスを示すバッチを見せつける様にゆっくりと身を翻し、最前列の席へと歩を再び進めた。しかし、その歩は最前列に近づくと再び止まる。リクの視界に一対の黒い翼を背に持つ人物が入ったからだ。

「フレイ!」

 リクはその人物の名を呼ぶ。試験の時には翼を隠していたフレイだが、何か心境の変化があったのか、差別の目で見られる黒き翼を隠すことをやめたようだ。

 リクに名を呼ばれたフレイは体を跳ね上げさせながら翼を急に広げる。名を呼ばれて驚いたのか、フレイはうっすらと涙を両目に溜めながら振り返る。

「あ、リ、リク。おはよぅ……」

 フレイは見るからに緊張していた。大勢の人という人の視線を集めるフレイ。その原因は言うまでもない。黒い翼を背に持つからだ。悪魔を連想させる黒い翼は忌避されて当然なのかもしれない。しかしリクはその当然を捨て、フレイと友達でいたいと思っていた。何しろ同じ平民出身のSクラス所属同士。そして彼女は悪魔ではなく、正真正銘の翼人族なのだから。

「合格おめでとう、フレイ」

「あ、う、うん。リクもおめでと……」

「お互いSクラスだね。これからよろしく」

 リクはフレイに手を差し出す。しかしフレイはその手を握り返すことはなかった。握り返したいような仕草は見せるものの、行動に出ることはなかった。リクはその理由をすぐに理解した。フレイに向けられる忌避する視線がリクにも注がれ始めたからだ。つまりそこから分かることは、悪魔と思わしき人物と話しているリクも怪しい人物であると思われている、ということだろう。フレイは、リクと仲良くすることでリクも自分のせいで差別を受けるのではと考えていたのだ。

「リク、あまり僕と、仲良くしない方がいい……。友達が出来なくなっちゃう、から……」

 フレイは消えるようなか細い声でリクに言う。リクの事を考えて言ったつもりのフレイに対し、リクは呆れながら言葉を返す。

「はぁ、何言ってんのさ。友達ならもう出来てる」

「えっ?」

「フレイって友達がな。何の問題もないよ」

 リクは両手を広げながらフレイに何の問題もないことを伝える。しかし、フレイの気持ちはそれで解消されるものではない。フレイの悩みは相当深刻なものだ。翼人種は一対二枚の翼を持つのだが、悪魔は二対四枚以上の翼を持っているのが特徴だ。そのため、色は違えどフレイは確かに翼人種なのだ。リクからしたら悩むことなく自信を持てばいいのにと思うのだが、当の本人ではないリクには到底考えられない、辛く苦しい思いがあるのだろう。悪気のないささやき声でも、思い詰めているフレイには全てが心を締め付けるきつい言葉に聞こえるかもしれない。フレイは顔を伏せたまま黙ったままだ。

「周りなんか気にしたら負け負け。友達くらいは自分に選ばせろよ」

「でも、僕と友達だときっとたくさんの迷惑を……」

「迷惑がかかることくらい気にすんな。困った事や辛い事があったら俺を頼れ。自分の友達を助けるのは当たり前だって。周りからどれだけ罵詈雑言(ばりぞうごん)浴びせられようとも、な。親友!」

「…………」

「って親友まではちょっと早いか。俺の勝手だったな」

 そんなリクの言葉にフレイのきつく締め付けられた心は解き放たれる。溢れる涙。漏れる嗚咽(おえつ)。止まることなくそれらは流れ出る。

「ええっ!? どうしたフレイ! 俺のせいか? 俺のせいか!?」

フレイの涙に慌てるリク。自分の思っていることを言っただけで、まさかフレイを泣かせう事になるとは思っていなかった。

「……ふふっ。ううん。ありがと、リク。これからよろしくね、親友リク!」

 フレイの顔には笑顔が咲いていた。今まで暗い顔しか見ていなかったリクにとって初めて見るフレイの笑顔。彼女の笑顔は大変かわいらしく、男なら軒並(のきな)みノックダウンだ。

 仲を深めた二人は隣の席に座りあい、入学式が始まるのを待った。

 入学式は粛々(しゅくしゅく)と始まる。今年の入学成績は、三年前イサギが叩きだした最高得点を上回る成績が出た。その成績は三人の男女によるものだった。その三人は主席として壇上の端に座っている。学園長の挨拶が終わると新入生代表の挨拶が始まる。壇上に座っていた三人の男女の内、男が立ち上がり、壇上の中央に向かって歩き出す。そして挨拶が語られる。その直前、リクは彼と目が合った気がした。

 彼の挨拶が進む中、突如椅子の倒れる音が体育館中に響き渡り、

「見つけたぁ――――っ!!」

 と、教職員スペースから男性の大声が上がる。さらにはそれに続いて女性の声も体育館内すべての人の耳に届く。

「ちょっ、博士! 今は式中です! 声を押さえてください! 私も興味ありありですぐにでも動きたいですが、我慢してるんですっ! 今は動かない、でっ!」

 注意をしている女性の声も大きいの一言に尽きる。リクだけでなく、全生徒全保護者、全教職員の視線が声のした方へと向く。リクのいる位置からはよく見えないが、どうやら女性が男性を引きずりながら体育館を後にしているようだった。しばらくの間体育館内はざわめきで満たされた。しかしそれも司会の一言で静まる。式は壇上に立つ新入生の挨拶の続きから始まり、式はそれ以降(とどこお)りなく進み、入学式は無事終わりを迎える。

 リクはフレイとともに人でごった返す体育館を後にする。次に向かうはリクたちが一年間お世話になるSクラスだ。リクは体育館を出る前、自身には魔力が無いことをフレイに伝える。Sクラスへ行くのにも徒歩で行く必要があるリクはフレイに転移陣で先に行っててと言いたかったのだ。しかしフレイは「リクと歩いて教室に行く」、とリクに合わせることを選択した。その理由を尋ねたところフレイは――

「実はね、僕、あまり魔法が得意じゃないの。魔力は有り余るほどあるんだけど、どうしてもそれを上手くコントロール出来なくて。いつも魔法を暴発させちゃうんだ。恥ずかしいことに」

 と言う。フレイはどうやら魔法を発動させる際、適量の魔力を使用することが出来ずにいつも魔法を暴発させているようだ。そのため、転移陣を使用する際に用いる魔力量の感覚も掴めず、リクと同じように徒歩での移動をしていたらしい。リクにとっては羨ましい魔力量だが、それもまたコントロール出来なければただの宝の持ち腐れということだ。

 そういった理由から二人は一年生棟のSクラスまでのんびり歩くことにした。体育館を出ると近くの転移陣までの列が出来上がっていた。リクとフレイはその列を通り過ぎる。黒い翼は目立つようで、その際に多くの視線がフレイに集まる。フレイはその視線に再び緊張を覚えていた。リクはそんなフレイの手を取る。

「大丈夫だから」

 そんな言葉をリクはフレイにかける。その言葉に安心したのか、フレイの体から緊張は抜けていく。

 体育館前の混雑を抜けると、辺りは一気に静まりかえる。二年生から六年生はまだ春休みであるため、学園内には学生が少ないからだ。

 二人は大きな建物や運動場を通り過ごし、大きな道を通って一年生が過ごす棟に到着する。一学年はSから始まってA,B,Cと続き、G,H,Iまでの計十クラスある。二人が所属するSクラスはAクラスと同じ階の五階にある。階段を上り、教室に到着した時にはリクたち以外の人は既に集合していた。それも当然だろう。Sクラスといえば一学年の成績優秀者上位二十名しか入れないようなエリートクラスのため、転移陣での移動など朝飯前なのだ。リクとフレイは例外中の例外だと言っていいだろう。

 Sクラスに着いた二人は当然のように隣に座りあう。一番遅れてきた二人は注目を浴びたが、ただそれだけ。フレイの黒い翼を気にするようなものは出てこなかった。魔術や知識が大人以上なエリート生徒は精神も大人以上なようだ。その雰囲気にリクは安心した。Sクラスに所属する人たちは自分たちにとって接しやすい人なのかもしれないと感じていた。

 しばらくするとSクラスを担当する先生が教室へと入ってくる。

「みなさん、お待たせしました」

 入ってきたのは魔人族と思わしき女性。服を突き破らんかという程の豊満な胸。比率がおかしいだろと突っ込みたくなる程のウェストのくびれ。全ての男性を魅了する容姿をした女性がコツコツと靴を鳴らしながら教壇(きょうだん)の前に立つ。

「本日はニスカルト王立学園へのご入学おめでとうございます」

 先生の堅苦しい挨拶が始まる。

「先生の名前はマルーシャ・ローズ。種族は見てわかる様に魔人族のサキュバスです」

 彼女の背には膜のある黒い翼が生えている。そして絶世とまでいえる美しい容姿。サキュバスの特徴だ。

「さて、堅苦しい挨拶はここまでにして、と。…………みなさん、私の魔法から逃れられるかしら?」

 その瞬間、クラス内の空気がピリッと緊張する。マルーシャはクラス中の生徒たちに視線を向ける。マルーシャはSクラスというエリートの生徒を試しているのだ。発動している魔法は【蠱惑(フルーフ)】。サキュバスやインキュバスがかなり得意とする魔法だ。対象の人の心をひきつけ、惑わす。まともな思考が出来なくなるほど、魔法発動者に夢中になる魔法だ。そんな恐ろしい魔法がSクラス中にかけられた。この魔法の対抗策としては、己の体を流れる魔力を正常に循環させる必要がある。そもそも蠱惑とは対象の人物の魔力を乱し、術者と魔力波長を同期させてコントロールすることで対象者の意識を乗っ取るという魔法なのだ。この魔法を予告なく発動させられると、気付くことなく魔法にかかってしまう可能性がある。今回は魔法の発動をほのめかす発言があり、サキュバスという種族説明があった事により、Sクラスの面々はかけられる魔法をすぐさま予想して蠱惑に対抗しようと対応できたのだ。

「……くっ」

「……ふぁ~~……」

「ああん、マルーシャ様ぁ~~」

「…………」

 しかし、クラス内二十名の内数名がマルーシャの(とりこ)にされる。大半はなんとか堪える。そして五名はそんなマルーシャの魔法をものともせずに受け流していた。そんな中、リクはというと――

「魔力が無いのがこんなところで役に立つとは……」

 魔法にかかることはなかった。乱す魔力が無いためにリクは魔法に引っかかる事すらなかったのだ。

「ふふっ、全力ではないとはいえ、流石はSクラスね。耐えた子は偉いわ」

 マルーシャは肩にかかる髪を払いながら言う。そして両掌を合わせて高い音を鳴らす。

「……はっ」

「マルーシャ……あれ?」

「うぅ~~、やっぱり僕にはSクラスにいる資格なんてないよ~」

 マルーシャの魔法にかかっていた者たちが目を覚ます。その中にはリクの隣に座るフレイもいた。魔力コントロールの下手なフレイは抵抗する間もなく一瞬でマルーシャの虜になっていた。それを恥じてフレイは机に顔を伏せる。

「フレイ、気にすんな。これからの学園生活でコントロールしていけばいいんだよ」

 リクはフレイの頭を撫でて落ち着かせる。リクから言わせるとSクラスにいる資格がないのは自分の方だと言いたくて仕方がなかった。

「さて、みなさんの大体の実力も把握できたことですし、連絡事項は後回しにして自己紹介といきましょうか」

 マルーシャはそう言うと、最前列右端に座る人から順々に指して自己紹介を促した。リクは王族や貴族の自己紹介は半分聞き流していた。何しろ身分が違いすぎるために、関わることもないだろう、関わりたくないと思っていたからだ。最後列に座っているリクとフレイは後半の方で自己紹介を済ませた。フレイの自己紹介の際に少しだけみんなの意識を確認したリクだが、やはり誰も差別した視線を向けることはなかった。

 自己紹介を終えるとマルーシャは学園生活で気を付けること、校則について、明日からの行事についての連絡をする。

 それらを終えたSクラスは解散となった。寮生活をしているリクとフレイは一緒に帰ろうと話し合う。他の面々も賑わいを見せながら順々にSクラスを後にする。リクとフレイも教室を出る。すると目の前に立ちふさがるすらりと背の高い、乱れた髪の毛を持つ人間と思わしき男と、こちらもすらりと背の高い眼鏡をかけたエルフと思わしき女がいた。

 二人を見上げる形になるリクに向けて男が放った言葉は、はた迷惑なものだった。

「リク君。君を私の拷問室(けんきゅうしつ)へと招待しよう!」

 悪寒(おかん)しかしないリクだった。


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