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0話:終わりの始まり

 日曜日に投稿予定です。

 長編の予定です。長いお付き合いをよろしくお願いします。

 広大(こうだい)なる海を越え、高き山々を越えた先に広がるは、見渡すかぎりの荒野(こうや)――誰も足を踏み入れたことのない大地。

 そこには草木がまばらに存在し、赤茶(あかちゃ)けた大きな岩が人の進行を拒むかのように点在している。そして、はるか遠くに確認できる巨大な山の(ふもと)には木々が()(しげ)り、大きな森を作り上げている。そこには川が流れ、湖が出来ていることだろう。

 ここの荒野や遠くの森には多くの動物や魔物が住み、自然な生態系が保たれた代わり映えのない日々が続いていた。

 しかしそんな荒野に数ヶ月前、突如として姿を現す者たちがいた。その者たち――それは悪魔。

 この世界に現れた悪魔たちは、容赦なく人類を滅亡の道へと追い込んでいった。悪魔たちは逃げ惑う人類たちに情けをかける事無く、次々と(とうと)い命を奪い去っていった。

 人類が滅亡するまでは時間の問題と誰もが諦めかけていた時、ある一人の勇者が神によって召喚された。

 世界の命運(めいうん)(たく)された勇者は、魔王を倒すため更なる力を身につけ、四人の仲間と共に魔王の元へと戦いを挑みに向かった。人類滅亡の危機――世界の破滅(はめつ)を、防ぐため。



 ◇◇◇



 終わることのない剣戟(けんげき)により散る――火花。

 終わることのない魔法により響く――轟音(ごうおん)

 終わることのない戦闘により穿(うが)つ――大地。

「ハァッハァッ」

「ハッフッ、ふふふ」

 視界は遮られ、聴覚は麻痺しかけ、足元のおぼつかないこの状況でも戦いは続く。

「くっ、援護!」

「了解! くらえっ!」

「【断絶の真空(ヴァンブルク)】、【女神の抱擁(グルデーア)】――行きます!」

「くらいなさい!」

「オラオラァ――――ッ!!」

「フハハハハァ、ヌルいわぁ!」

 戦いは激しさを極めていた。常人にはありえない動き。常人には放てない魔法。その全てが常軌を逸した状況。彼らの戦いは永遠に続くと思われた。

「いい加減くたばりやがれェ――――ッ!」

「俺たちは諦めない!」

「くくく、このままではいつまで()っても私を倒すことなど出来んぞ」

 少しの時を見るだけならば、戦いは拮抗(きっこう)しているように見える。しかしそれは大きな間違い。魔王一人に対し勇者たち五人は、既に一時間も戦い続けていた。たった一つの命を、勇者たちはいつまで経っても狩ることが出来ないでいた。

 この視界の開けた広い場所では作戦も何もない。ただ全力をもって魔王に挑むだけである。勿論彼らは最初から全力だった。しかしさすがの勇者たちであっても、一時間戦い続けては魔力体力ともに底を尽くだろう。

「確かにこのままでは、先に力尽きるのは私たちですわ」

「弱音吐いてんじゃねえ! こいつを殺さねえと俺たちが俺たちじゃなくなるんだぞ!!」

「それはわかっています! 何か、何か打開策を打たなければなりません!」

 そう言いながらも、魔法、剣を用いて魔王へと肉薄(にくはく)する。魔王は平然(へいぜん)とそれを迎え撃ち、二人は返り討ちに合う。

 魔法や剣の応酬(おうしゅう)をものともしない魔王に、勇者たちは焦りを覚えていた。このままでは死ぬのは自分たちだ、世界だ、と。そんな時――

『マスター。ワタシヲツカッテ、ヤツヲフウインシテクダサイ』

「なっ!?」

 勇者は驚いた。宙に浮かぶ魔王を、精根(せいこん)尽き果てたような顔で見上げている時に頭へと響く声。それは神聖剣(しんせいけん)エクスカリバーの意志だった。

「そんなことしたらお前は……。それに封印をしたとしてもまたいずれ!」

『マオウヲタオセズ、ヤツノテニセカイガオチソウナイマ、ヤツヲフウインスルイガイホウホウハアリマセン』

「――くそっ!」

 勇者も内心では気付いていた。魔王を封印しても遠い未来に復活するという事実に。そして、現状を打破(だは)するにはそれしか無いという事実にも、気付いていた。

「くっそぉおおおおおっ!! みんな、全力で総攻撃! 奴の隙を作れえっ!!」



 ◇◇◇



「――――こうして、勇者たちにより世界は平和を取り戻しました。そのことに世界の人々は歓喜し、彼らを世界の救世主として褒め称えました。そして世界を救った彼らは、余生を思い思いに過ごしましたとさ。……お話はここまで。みんな静かに聞いてくれてありがとね~」

 この世のものとは思えないほど美しい容姿の女性が笑顔を見せる。

「お姉さんばいば~い」

 子どもたちの声が重なる。

「またね~。…………ふう」

 溜息をつきながら、彼女は紙芝居を片付け始める。

 辺りに一陣の風が吹き抜ける。飛びそうになる紙芝居を押さえながら、彼女は自身の髪の毛を押さえこんだ。

 風が遠くへ去っていく音を聞きながら、彼女は天を仰ぐ。

 勇者と魔王の戦いから約三千年。封印した魔王の復活は近かった。

 彼女は自らの力の無さを感じながらも、次代の者たちに魔王の討伐を託すことしか出来なかった。出来るのは、危険が迫っていることを人類たちに伝え歩くこと。

「本当に……、ごめんなさい」



 ◇◇◇



 ここは、約三千年前勇者により魔王が封印された土地。

 今は冬。地面には足あと一つ無い純白の雪が、太陽の光を反射しながらどこまでも綺麗に続いている。木々は葉を枯らし、次の春に向けて準備をしていることだろう。生き物の気配は感じられず、辺りは不気味なほど静まり返っている。時折、その静けさを破るように、枝から落ちる雪がドサッという音を響かせていた。

 魔王はそんな土地の奥、人知れず存在する神殿内の聖壇(せいだん)に封印されている。神殿内の美しさは衰えることなく、三千年前のその時から姿を全く変えていなかった。それは時が止まっているかのように。

 聖壇の上には一本の剣が突き刺さっている。その剣はまるでこの世の全ての頂点に君臨(くんりん)しているかのよう。そしてその剣と聖壇を中心とした地面には、幾何学的(きかがくてき)な模様をした封印陣が描かれていた。

 聖壇の周囲には百年程前より封印陣から禍々(まがまが)しい魔瘴気(ましょうき)――魔力素密度の濃い黒い気体――が漏れだすという、魔王復活の予兆が起きていた。魔瘴気は聖壇の周囲を漂い、視界を悪くしていた。

 その時突如、辺りが暗くなり始める。

 聖壇の周囲を(ただよ)っていた魔瘴気が剣を中心に収束(しゅうそく)する。すると、聖壇に描かれた封印陣から魔瘴気が勢い良く吹き出し始める。ゴォーッと魔瘴気は回転しながら収束していき、大きな黒い塊が出来上がっていく。人間を包み込めるほどの大きさにまで塊が成長すると、何事も無かったかのような静けさが再び訪れた。しかしその静けさは一瞬のことだった。塊となっていた魔瘴気は轟音とともにはじけ飛んでいった。

 すると、先程まで聖壇の上に存在した黒い塊の代わりに、聖壇の上には闇よりも深い漆黒(しっこく)の翼を何枚も背に持つ男――悪魔が立っていた。そして先ほど辺りにはじけ飛んだ魔瘴気の全てがその男に吸収され、神殿内は元の明るさを取り戻す。

「はぁ~~……はぁ~~……」

 ここに魔王は復活した。

 自身が復活したことを確かめるように、幾枚もの翼を持つ魔王は両手をゆっくり開閉しながら、何度も深く、長く呼吸を繰り返す。魔王の呼吸に合わせるように、神殿が、大地が、草木や雪が鳴動(めいどう)する。周囲の景色は一変していった。神殿を囲む木々は完全に枯れ、雪は溶け、大地が()ける。時の経つことがなかった神殿内も、三千年の時が()たよう()ち果てていく。

「うおおおああああああぁ~~~~~っ!! はぁ、はぁぁ…………。今度こそ、世界に、破滅を!!」

 神殿に魔王の叫び声が反響(はんきょう)する。

 魔王の肉体は、長い年月封印されていたためか痩せ細っていたが、復活したばかりで力を失っているとはいえ、それでもその内に秘めたる魔力量は人類最大量を誇る翼人よりもずば抜けて多かった。

「二十年だ! 二十年後には、この世界を終わらせてやる! そして、――――ッ! お前に邪魔はさせん、させんぞお!!」

 魔王はその場から姿を消した。残るのは様変わりした風景のみ。

 だが、神殿の周囲に生える木々が枯れる中、ただ一本のみ枯れることのなかった木がある。それは神殿の後ろにそびえ立つ、世界一の大きさを誇る木――世界樹ユグドラシル。この世界に生を受けてから枯れることなく、全てを見てきた木。世界樹は何かを待つかのように、そびえ立ち続ける。

 世界は魔王復活を境に、少しずつ魔王の力により侵略(しんりゃく)され始める。しかしその復活から一ヶ月の後、魔王に対抗するため神の導きにより才ある者達がこの世界――エデネアの地に誕生する。今度こそ、世界滅亡の危機から全てを救うために。


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