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おっぱい星人とゴーストレーダー

 幸いにも常識的な対応をしてくれた講師が学生課に電話をしてくれた。

 そうか電話すりゃよかったのか。

 その発想はなかった。

 学生たちがザワザワと騒ぐ中、俺たちはそそくさと逃げ出した。

 面倒ごとをかまけている時間がなかったのだ。

 このまま悪霊を放置したら大変なことになる!


「クソッ! 行くぞ!」


「え? どこへ?」


「遺体を捜しに。ニュースでやってねえってことはまだ近くにあるはずだ。悪霊を止めるぞ!」


 悪霊の多くは遺体をきちんと埋葬してないことが原因で発生する。

 他にも殺人とかが原因というのもあるにはあるが……日本ではレアケースだ。

 ほとんどの幽霊は遺体さえ家族の元へ返してやれば悪霊でなくなるのだ。

 今回もかなりの確率で死体がらみのはずだ。


 悪霊の行動範囲は酷く狭い。

 せいぜい死体のある場所の近所、せいぜい同じ町内という所だろう。

 あの女もこの近辺で命を落としたはずだ。


「な、なんか。初めてだいすけくんが格好良く見えます」


「ああ……それに遺体を発見すると国から謝礼も出るしな」


「ガチクズっすね……」


 酷い。

 ちゃんと善意もあるのよ!

 だがこの紗菜の空気を読まない発言で少しだけ頭が冷静になった。


 このビル内には仮に事故死だとすると人間一人が隠れてしまうような場所はない。。

 だが……この近くのはずだ。

 ここいら近辺には大学の敷地が多い。

 そのどれかに違いない。

 俺たちは今度はエレベーターに乗り込んだ。



 一階のロビーに俺が借りているロッカーがある。

 俺はロッカーにパスワードを打ち込む。


「だいすけくん。なにやってるんですか?」


「道具出すんだよ」


「道具?」


 紗菜が首を傾げた。

 自分が死んでるからってのんきにしやがって!

 ああ。知り合いに見られたら俺は社会的に死ぬ。

 変な宗教に入ってあやしい儀式に手を出してるって思われるんだ。きっと。

 だからオカルトはイヤなんだ!!!


 俺はそう心で叫びながらロッカーから中央にペプシマークそっくりのマークが入った八角形の板と○ロヨンと書いてある蛍光色の風呂桶を取り出す。

 中央のペプシマークは陰と陽を表す勾玉のようなマーク、いわゆる陰陽魚とか八卦板と呼ばれるものだ。


 俺はケロ○ンの桶に水を入れ板を浮かべる。


「よし!」


「うっわ……雑……雰囲気ぶちこわし……」


 心の底からどん引きしたような表情の紗菜がそこにはいた。

 俺、真面目にやってるんですけど……

 マジ泣きしていいですか?


「あとこれとこれと……」


 俺は幽霊の非情な言葉の暴力をスルーして、いくつかの道具をピックアップして持って行く。

 リポップした悪霊は自分の死体の近くをうろついているはずだ。

 身を守るための道具を持って行くべきだ。


「……だいすけくん。大学のロッカーにオカルトグッズ溜めてるって……今までの人生苦労したんですね」


 ヨヨヨ。とわざとらしく紗菜が涙を浮かべる。

 たしか俺、何も悪いことしてないよな?

 それ以上追い詰めたらマジ泣きするぞ!


「アイツまた変なことしてる!」


「し、目を合わせちゃダメ!」


 近くで男女のひそひそ声が聞こえた。

 紗菜が肩を叩く。


「どんまい♪」


 満面の笑顔でサムズアップ。

 今の顔一生憶えてるからな。

 あとそこのお前ら!

 お前らの顔も覚えたからな!!!



 蛍光色のケ○ヨンの桶の中で八卦板が回転を始める。

 これが俺のもう一つの特技、ゴーストレーダーだ。


「よっし!」


「うおすっげー! マジで動くんですねー。」


 俺たちは桶を持ったままロビーを出る。


 照りつける太陽。地面からわき上がる熱気。熱い……

 桶の中を見るとギュルギュルと八卦板が激しく回る。

 近い?

 すぐ近くの建物を確認する。

 大学院棟だ。

 下の階は博物館になっている。


 『大学付属博物館』


 大学の付属施設だ。

 俺は一度も中に入ったことがない。

 だって怖いもん。

 普通の人以上にな。


 俺たちは中に入る。

 警備員が「また学生がバカなことやってやがる」という顔をしてたがスルーだ。

 中に入ると大学史のコーナーが目の前に広がった。

 一見するとただ人がいない静かな様子に見える。

 だが俺は違和感を感じていた。

 いや見えていた。

 そこらじゅうに黒いものが漂っている。

 それは悪霊がまき散らした黒い塊の残りかす。

 穢れと呼ばれるものだ。

 穢れは病を呼び、土地を殺す。

 国が埋葬に補助金を出しているのはこの穢れを発生させないためだ。


 俺の鼻に死の臭いが入ってくる。

 同時に何とも言えない化学臭もしてきた。

 おかしい! 汚染が早すぎる!


「な、なんかヤバい!」


 声がした。

 人間とも獣ともつかない声がした。

 声がするのは刑事部門からであった。


 博物館の刑事部門。

 歴史的価値の高い刑事史の資料が展示されているコーナーだ。


 マズイ!


 あそこには江戸時代に使われた拷問器具があるはずだ!

 本物だったら穢れによって影響を受けているかもしれない。


「さ、紗菜! ヤバい!」


「ええ。逃げまし……だいすけくん!」


 俺たちが来た方から穢れが流れてくる。

 少し遅れて警備員の悲鳴が聞こえる。


「やばい! 来やがった!!!」


「オカあサん。家……帰ル……どうしテ。ココに戻ってくる……たましイ……美味シイ……」


 ラジオのノイズのような不快な音と、どこか人工的な声が響いた。

 ……おかしい。

 事故死なのにもう普通の人間を襲っている!

 ……もしかして……殺人か!!!

 まずい! 完全に俺の手に余る!!!


 ……と思った瞬間、紗菜が悲鳴を上げた。

 後ろを向くと女性の形をした黒い塊。

 もうここまで来てやがる!

 そして俺は見てしまった。

 ヤツの目を。

 目が合ってしまった。


「……みいツけタ」


 やっぱ見えてるうううううううッ!

 マネキンのようなシルエットをし、それにしては不自然に大きい黒い塊。

 それから心の底から恐怖を呼び起こす声がした。

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