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牢屋内生活5

 ◆八十一日目


 最近気がついたことがある。アリスの様子が少しおかしいのだ。

 例の二人組が来ると急に笑顔が無くなるのである。

 それまで一緒に手遊びしていたのに、いきなり止めてしまうし、直ぐに俺の背中に回りこんでしまう。別に怯えているとかではなく、ただ不機嫌に成っているだけのようで。例の二人組の視界に入るのが嫌なようだ。

 どっちかが来ただけでも同じような態度をとるので両方共嫌いなのか?

 よう分からんぜよ……。



 ◆八十二日目


 今日はちょっと大変なことが起きたので詳しく書いてみようと思う。

 俺はいつもの様にアリスに起こされて朝を迎えた。まぁ、といっても暗いのでほんとに朝なのかは分からんが。

 いつものごとく瞬間的に覚醒した俺はアリスと一緒に遊んだり、磯女を観察したりと至極平凡な(?)時間を過ごしていた。

 そんな時だった。コツコツと、聞き慣れた高そうなブーツの音が聞こえてきたのは。

 歩き方と足音でもうそれが誰だかは大体分かった。インテリに違いない。

 案の定現れたのは、インテリである。

 するとアリスが俺の背中に隠れた。ということはインテリも嫌いなのか? もしかしたら、あんまり人と合わないせいで、人と触れ合う事自体が面倒なのかもしれん。実に分かるぞ、その気持ち。別に会話なんてしたくなくて静かにくつろぎたいだけなのに話しかけられたり、家でくつろぎたいのに遊ぼうとか言われるとちょっと面倒な事あるもんな。

 さすがは俺。ホームズ並の推理力を持つ男だ。

 よし、この話は解決したので一先ずおいておこう。




 インテリの話だ。 

 今日のインテリは珍しくその表情が曇っていた。何時もなら『くはははははっ! ひれ伏すが良い、愚民共!』とか言いそうな顔でやってくるのに。

 やってきたインテリは開口一番、こう言った。

『君と少し話がしたいので来てもらいたい』

 ほうほう、俺と話がしたいとな? 

 いや、でもね、俺様って完全無欠のコミュ障じゃないですか。無理じゃん。一方的に話を聞くだけじゃん。 

 と、まぁ、そんな疑問があったのだが、インテリは全然気ににしていないようだ。まぁ、それにもしかしたら筆談なら出来るかもしれないし、いいか。

 そう思った俺は適当に頷いた。

 すると、インテリは牢屋を開けようとしだした。しかし、当然鍵が掛かっている。当たり前だ、もし牢屋に鍵がない状態なら磯女とかヤヴァいことになっているはずだもの。

 暫くガチャガチャやった後ようやく鍵が付いていることに気がついたようだ。

 おっさんで天然とかまじないわー。



「キメェんだよ、おっさん!」



 とりあえず心の中で叫んでみた。未だに表情には乏しいけれど、ちょっと出てたかもしれない。

 そのせいかインテリはちょっとムスッとした表情で何やら呪文を唱えました。

 もしかしてアバ○ムか!? ドラ○エのあの魔法が発動されるのか!

 ――と少しワクワクしてみたのだが、期待した俺が馬鹿でしたよ、ガッデム。

 なんか凄そうな術名を言ったと思ったら途端に鉄格子が爆ぜた。

 凄まじい衝撃音と砂埃が飛び散った。オレの背後でアリスが小さな悲鳴を上げる。

 ケホッ、ケホッ――とアリスが可愛らしく咳き込んでいる。怪我はないかと振り返ると、煙が目に入ったのか涙を流しながらゴシゴシしていた。萌えた。

 とりあえず、怪我はないようなのでよしとしよう。おっさんも咳き込んでいるらしいので、ちょっと予想外だったっぽいし悪気はないのだろう。

 まぁ、天然ドジっ子のおっさんとか全く需要ないから止めて欲しいがな。

 煙が晴れると天井や床にも亀裂のようなものが入っていた。いやいや……オーヴァーキルすぎんだろ、ガッデム。

 まぁ、そんなことは一先ず置いておこう。

 インテリは少しバツが悪そうに服をはたくと、気を取り直すかのように襟を立てた。そして、さぁ行こうといったのでオレは立ち上がった。

 するとアリスがオレの服を控えめに引っ張ってきて一言。



「どこ……行くの?」



 うん、これは恐ろしい一言だ。健常者までをもロリータ・コンプレックスという不治の病に陥れる悪魔の仕草。まさにリリンの如き誘惑。アリス……恐ろしい子!

 不安そうな幼女という恐ろしい痛恨の一撃を食らったが、何とか自分を奮い立たせた。

 もしかしたらアリスはこのまま俺がいなくなることを恐れているのではないだろうか。アンデッドにそんな気持ちを抱くなんてちょっと異常だが、この牢屋に入れられてもう随分経った。俺なんかは三日でほとんど慣れてしまい、対面のゾンビに劣情を抱くまでに成長したものだ。アリスが、こんなふうになってしまっていても不思議ではない。

 俺は安心させるために頭を一無でして手を差し伸べる。『一緒に行こう』という意思表示だ。俺と一緒にいればどっかに行ってしまうということはないという安心感を与えられるはず――そう思っていたのだが、アリスはフルフルと首を振った。

 首を傾げていると一言、俺にしか聞こえないぐらいの小さな声で一言呟いた。



「外は……嫌い」



 ふむ。どうやら、引き篭もり属性も持っていたらしい。俺はてっきり外に出たいんだろうとばかり思っていたのだが……。布団でもあったら簀巻きにしておきたいところだが、あいにく此処には汚い布切れしか無い。

 仕方ないので、適当に愛想笑い(仮)をしてゆっくりと手を引き離すとアリスの目線に合わせて一つ頷いておく。それを見てアリスもコクリと頷いた。うむ、萌である。



「……バイバイ」



 そう言って手を振るアリスを尻目に俺とインペリテリは歩みを進めた。

 俺の牢屋の直ぐ横の角を曲がると、細い螺旋階段があった。それをささっと登っていると、わずかに明かりが見えてきた。どうやら、ドアの下の隙間から光でも漏れているらしい。おお、やっとコロッセオ以外のところにでれるのかーと内心興奮していると、その興奮を感じ取ったかのように扉が興奮気味に開けられた。

 バンッという派手な音を立てて姿を現したのは、赤髪の女の子だった。

 赤い髪を肩まで伸ばし、なんか皮鎧みたいなのを着て、腰にはレイピアを差していた。少女はあーだこーだと言っていると、その後ろのにーちゃんたちが剣を抜いた。それに習って女の子も剣を抜き放つ。ただし笑っちゃうようなへっぴり腰だったが。

 せっかく外にでれたのになんやねん。うんざりしていると、なんかインテリが馴れ馴れしいことを言って場を収めた。

 しかし、インテリのドジっ子属性が伝播したのか女の子もドジっ子ぶりを発揮。なんか罰を受けさせるとかで同行することになった。メシウマメシウマ。

 因みに、名前はマイク。うむ……女の子にしては男っぽい名前だなぁ。まぁ、日本人でも蓮とか諒とかどっちでも使える名前あるし、そんな所だろう。




 まぁ、そんなこんなでやっと俺は地下から出れたのである。

 地下から出た俺らは、インテリの後を付いて暫く歩いた。すると、程遠くない所に屋敷があった。デッカイ屋敷だ。パッと見ではバッキンガム宮殿を彷彿とさせるが、それよりはちょっと機能的な感じだった。

 んでもって、中に入った俺はビビってる人間に内心ほくそ笑みながらフッカフカの絨毯を進んで行った。

 途中高そうなツボがあったりなんかして、壊したい衝動に狩られたが、それを鋼の理性で制御すると、ようやく目的地っぽいところに着いた。

 するとメイドさんが扉を開けてくれたので「こりゃどうも」とお辞儀をしたのだが、凄くビビってたので逆にこっちがビビりながら中に入った。

 入ってソファに座ると、それに習って座ったマイクちゃんが閣下に怒られてた。ワロス。しかもそのあとはドジっ娘メイドにお茶を掛けられるとか。いじめられっ子属性なのかな?

 ちょっとほほえましいなぁとか思ってたら、不意に閣下が「私は君に我々人間と同じ程の知能があると思っている。君自身はどう思う?」とマイクちゃんに聞いた。

 しかし、マイクちゃんは何も言わない。おかしいなと思ってマイクちゃんの顔を見ると目があった。なんかよくわからないが頷いておく。

 するとなんか知らんが悔しそうな顔をし始めました。意味わからん。

 まぁ、そんなことがありながらも話は続き、筆談する流れになったのでとりあえず日本語と英語で『ここはなんていう国ですか』と書いてみたが、案の定分からないようだ。

 うーむ。やはりここは異世界らしい。今更だけどな。

 インテリも残念そうにしていた。しかし、この筆談が本来の目的ではないようで、本題とやらを話しだした。




 まぁ、簡潔に言えば、お前の存在自体が都合悪いから消えてくれということらしい。死んでくれといってくれればお決まりの文句が言えるというのに、消えてくれときたか。

 うむ、やはり空気が読めない御仁のようだ。

 って、いやいや、そんなことはどうでもいい。いきなり消えろって言われても俺だって生きて――無いね。じゃあ消えても消えなくても一緒か? いやいや、でも俺という精神は――なんて自己問答してると、どうやら俺の早合点だということが分かった。

 なんと俺を野生に帰したいらしい(笑)

 なんでも、俺の存在は都合が悪いが、インテリ個人としては壊すのは惜しいので、騒ぎに乗じて俺が逃げ出した、ということにしたいらしい。

 そして、助けてもらった代わりに俺には強くなってもらい、アンデッドの軍隊を作る。そしてしかるのちにインテリの配下に付く。

 まぁ、そんな話だった。随分と足元を見られてる感じだが、将来的にインテリの庇護下になれるってのはいいことかもしれないし、まぁ、どうしても嫌だったら裏切ればいい話しだしな。適当に頷いておいた。

 するとスゲー黒い笑みを浮かべていた。もう完全悪役だったね。真世界の神になろうとでもしてしるかのような邪悪な笑みだった。

 陰謀とか考えてるのかもしれない。そのための手駒がほしいといったところだろう。

 まぁ、そんなこんなで話は終わった――のだが、勝手にマイクちゃんが俺専属の連絡官になっていた。マイクちゃんはこの世の終わりみたいな顔してたが、オレは嬉しかった。やっと腐ってない女の子が配下になったのである。嬉しい事この上ない。

 女の子くれたし、御ゾンビさん頑張っちゃおうかなとか思ってしまう自分の短絡思考が恐ろしい。きっとこれはアンデッド化による弊害に違いない。きっとそうだ、うん。



 ◆八十三日目



 ……ふざけんなよ。ふざけんじゃねぇよ! おかしいと思ってたんだ。話が美味すぎるって! そしたら案の定ですよ! このザマですよ!

 マイクちゃんは実は男の娘だったらしいのだ。ナンダッテー。

 ライターだかなんだか、そんな感じのよく燃えそうな名前のイケメン悪魔がそれらしきことを言っていたので、ほぼ確定だ。

 はぁ……。

 こんなの絶対おかしいよ。だってボブカットの上に顔は可愛いし身長もちっちゃいしドジっ子だし、絶対女の子だと思ってたのに、ガッデェム!

 確かにマイクなんていう名前の女の子はおかしいと思ったけどさ……性転換の魔法とか無いのかよクソが!

 ああ、因みに騒ぎが起こるまでの数日は牢屋の中のようです。



 ◆八十四日目


 今日はインテリが来た。俺はマイクのことで不機嫌になっていたので、今日はとことん無視してやろうと思ってたのだが、今日の目的は俺じゃなくてアリスだったらしい。

 俺がアリスに何もしなかったので回収しに来たのだとか。どうやらアリスの所有権は此処の責任者であるインテリにあるらしいのだ。

 アリスには事前に、決められた期間まで生きていられたら奴隷から開放する約束になっていたらしい。ったく……ソウじゃねーんだから、そんな事すんなよ。

 まぁ、でも奴隷から開放されてよかったじゃんと思ってたら、アリスが一言。


「きげん……まだだよ」


 どうやら、期限はまだ一ヶ月ほどあったらしいのだが、例の計画のため、今日で終わらせることになったらしい。

 そのことをインテリがごまかしつつ言うと、珍しくアリスが叫んだ。


「私、まだいっしょにいないといけないんだもん!」


 そして俺の腹に頭突き――もとい抱きついて頭をグリグリ。ああ、そんなことしたら腹が削れてしまうよアリス。

 うーむ。随分と懐かれてしまったものだ。

 それを見たインテリも困惑したようにヒゲを撫でていた。

 で、結局インテリが許可し、アリスは俺と一緒について行く事に。さすがのインテリも幼女には叶わないか。 

 全く。困ったちゃんだな。

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