表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/9

牢屋内生活3

 ◆五十三日目


 案の定、今日もインテリが来た。

 クククッ――と危ない笑みを浮かべて、その顔を手のひらで隠す。

 実に悪そうだ。少なくとも、正義の味方には見えない。

 いや、まぁ、そもそもこんなゾンビや奴隷を戦わせるコロッセオの関係者って時点で正義なはずはないんだがな。

 そんなことより、驚いたことが一つ。俺が言葉を理解している前提で話しかけてきたのだ。つまり問いかけである。

 今までは半信半疑だったが、昨日のコロッセオで偶然目があった時に確信したらしい。

 女に飢えた合コン時の大学生のごとく、矢継ぎ早に質問を言ってきやがった。口に出しても出るのは呻きだけなので、適当に首を振っておいた。

 そしたら狂乱したかのように笑った。手を広げて点を見上げて笑うさまはもうどっかの独裁者のようだ。

「本来なら思考能力が低いゾンビの状態でこれだけ優れた知能を持っているのだ。知性のある存在になった時に君の知性は一体どうなっているのだろうか!」

 そして、こんな言葉を吐きやがりました。

 なんか凄く期待してるらしい。でも、ごめんねインテリ君……僕ちゃん中身は人間なもので。きっと進化した所で今とかわらないと思います。

 そう考えると、進化するほど相対的に見て知能が下がっていくってのは悲しすぎるな。

 まぁ、若者の夢を壊すのも何なので何も言わんがね。いや……言えないんだけどさ。


 ◆五十六日目


 今日は平穏な日だった。俺はいつものごとくネズミを捕まえたり、旗揚げゲームをしたりして時間を使った。途中、暇を持て余しすぎて、暇を持て余した神々の遊びゲームを始めてしまったけど虚しくなったので止めた。黒歴史だ。

 あ、そうそう。黒歴史といえば、妄想を見るようになったよ、ガッデム。それに幻聴も聞こえる。

 これはちょっとヤバ目な黒歴史だ。我が偉大なる黒歴史の一ページに刻んでおこうと思う、まる。


 ◆五十八日目


 ……静まれ。

 妄想だ。きっとこれは妄想に違いない。

 きっと貧相な体のワイトっ子を見続けたことによる弊害に違いない。

 あーあーあー! 何も聞こえないし見えない!

 俺はまだおかしくなってないはずだ!

 因みに、ゾンビに成っているこの状況が既におかしいだろってのはナシな。


 ◆五十九日目


 もう諦めました。はいはい、妄想じゃありませんでしたよ。現実でしたよ。生前なら嬉しかっただろうけれど、ゾンビとなったこの身では何とも微妙な気持ちだ。

 何を隠そう、何故か俺の檻の中に全裸の幼女が居るのである。入れられた当初は泣いていたが、俺の中身は所詮人間。すぐに俺に理性があることを悟ったらしく、それ以降はずっと俺に話しかけてきていたのだ。きっと寂しさを紛らわせたかったのだろう。

 俺は今日まで適当に無視していたのだが――ワイトっ子で旗揚げゲームをすると不思議そうに俺の真似をして手を挙げたり、腹筋や腕立てをすると出来ないくせに真似をするのである。不覚にも萌えてしまった。

 そうなったら、もうなんかどうでも良くなった。これが妄想でもいいやって感じです。

 暗くてよく分からなかったのだが、よくよく見てみると金髪碧眼。はて……? どっかで見たことが――と思ったらこの前戦った人間の子供でしたよ、わらい。

 

 ◆六十日目


 幼女の俺の呼び名は『御ゾンビさん』だ。謎すぎる。御ゾンビってなんかおかしい。

 幼女には名前はないっぽいので、俺も適当に名前をつけておく。

 それっぽいので名前はアリス。

『一緒に死んでくれる?』

 って聞かれそうで怖いけど、俺死んでるから無問題。


 ◆六十一日目


 今日は俺の隣の檻のやつがコロッセオで戦うようだ。その時にいつもの二人組が聞き捨てならないことを言いやがった。

 なんとアリスをこの檻に入れたのはインテリだったらしい、ガッデム。なんでも、人間と接触させたらどうなるかの観察らしい。

 食べてしまうのならそれはそれでよし。なんかの化学反応が起これば儲けモンっと言った考えらしい。

 だから俺の中身は人間だと何回(ry

 

 ◆六十二日目


 アリス用に毎日食事(カビたパンと水)が来るのだが、今日は何時もより量が多かったので少し貰ってみた。

 正直言おう。美味いでおじゃる。

 もう、なんか死んでもいいぐらいに幸せだった。もう死んでるけど。

 いや……もうこのくだりはうざいよね。しばらく控えようと思う今日この頃。


 ◆六十三日目


 今日はワイトっ子がコロッセオ。とりあえずいつもどおりの指示を送っておく。右腕がなくなってたけど、まぁ、問題はなさそうだ。

 勘だけれど、ワイトっ子もそろそろ進化しそうだ。早く俺も進化しないと。


 ◆六十五日目 


 来ましたよ。ついにバトルです。

 いっちょ経験値稼ぎに行ってくるぜ――って息巻いて言ったら経験値にされました、まる。

 じゃあ何で死んでねーんだよお前って話なんですが相手が理性のある相手だったことが幸いした。

 敵はなんとグラディエーターでした。あの映画にもなったグラディエータですよ。

 グラフィックデザイナーじゃありません。

 そこまで大柄じゃないがハルクのように盛り上がった鋼の肉体、野獣のような眼光、黒光りする上半身全体に描かれた極悪そうなタトゥー。

 どう見てもマイク・タイソンです、ありがとうございました。

 今回は棍棒ではなく、剣で戦うことになったのだが、まぁ当たり前のことながら、剣技で勝てるはずがない。速さでも勝てるわけがない。膂力でもかないません。

 結果、開始十秒で胸のあたりを横薙ぎに真っ二つ。立ち上がることも出来ないので。そこで試合終了。オーディエンスからは俺が負けたことに対するどよめきと、罵声で埋め尽くされた。

 死なないで(?)よかったけど、なんか悔しいぞ! ガッデム!

 檻に帰ってくると幼女がびっくりしていた。そして不思議そうに首を傾げる。どうやら俺が可哀想とかは微塵も思っていないようだ。むしろワイトっ子の方が心配そうに? 体をカタカタと鳴らしていたのは、何かちょっと悲しかった……。


 ◆六十六日目


 今日は俺という存在について考察してみた。

 昨日、俺は黒人に意図も簡単にやられたわけだが、その際体は真っ二つにされた。

 しかし、眠って目が覚めると体は元通り。寝れば治るっぽいが、起きていては回復しない。

 いったいどういうふうに治るのだろうか? 

『私、気になります!』と言いたくなるほど気になる。

 にょきにょきと生えるのか、それとも一瞬で元通りになるのか……アリスに聞ければ速いんだが会話はできないからなぁ。文字を書いてみせても『すごいね』と言ってパチパチと手を叩くだけで意味は理解していない。そもそも日本語がこの世界の住人に通じるのかすらも分からん。

 分からん事だらけでホント眠れないぜ、シット。


 ◆七十日目


 今日は大変なことが起こった。

 なんとワイトっ子が俺より先に進化してしまった。

 この速さから察するに、この前の侵入者が出た時に結構倒したのだろう。

 因みに進化したら少しだけ肉が戻ってました。と言っても上半身だけだけど。

 乳房の当たりまでは肉がついていてそこから下はただの骨。顔は最初のゾンビの時の面影はみじんもないグロ面。ってか、人間の顔をしていない。縦にくぱぁと開けられた亀裂に無数の牙のようなものがくっついている。肉のついているところからは、蓮コラのように穴が無数に開いていて、そこからウジみたいな虫が出入りしてる。

 伝説の食べ物『カース・マルツゥ』が大丈夫なイタリア人でもキツいのではないだろうか。そのぐらいキモい。人間なら誰しも生理的嫌悪感がわくフォルムだ。

 今日からワイトっ子は改名せざるをえないだろう。とりあえず種族名が分かるまではイソメみたいな見た目なので磯女(仮)としておこうと思う。


 ◆七十一日目

 

 磯女に食事が与えられていた。腐った肉のまとわりついた骨だ。

 何故に食事? と思って観察していると、奴はあの口に放り込んだ。すると骨はあっという間に喉を通りぬけ、肋骨の中を通って床にコロンと空しい音を立てた。

 え? どういうことやねん! と思ってその後も見てたら、また骨を口の中に入れた。

 そして、先ほどと同じようにまた虚しく肋骨の間から地面に落ちる。

 どうやら、食べようとしているのだが、食べても食べても食べる事が出来ずそのまま下に落っこちてしまうらしい。

 当たり前だ、胸から下がないんだから。胃や腸もなのだから喉を通ったらそのまま地面に落ちるのはバカボンでも分かる。

 実に不毛だ。だが磯女はそれをせずにはいられないようで、狂ったようにずっとそれだけを続けていた。


 ◆七十二日目


 今日はついに恐れていたことが起こったぜ、ガッデム。

 そう、磯女による下位命令権である! 言葉になってはいない漠然としたものが頭に流れた。どうやら俺にアリスをよこせといいたかったらしい。多分喰いたいっぽい。

 魔術師に掛けられるものに似ているが、それよりちょっと効力は低いようだ。

 磯女とは初日からの仲だし、別に俺としてはアリスをあげてもいいのだがそれは物理的に出来ないのです。残念!

 ったく進化してもいっこうに馬鹿のまんまだなぁ。俺らが檻に入れられているということがわかっていないらしい。

 磯女はキモい口をわなわなと蠢かせ、体をくねくねと動かして怒りを表現しているが出来ないもんは出来ないなんだぜぇ。


 ◆七十三日目


 今日も磯女は懲りずに俺に命令を送る。しかし出来ません。内心で呆れながらボーッとしてると、やがて諦めたらしい。またあの不毛な食べるごっこを始めました。

 それにしてもアリスは強くなった。

 あのグロい顔を見てもビビってない。俺と一緒に過ごしているせいでなれたのだろうか?

 

 ◆七十四日目


 来たぜ! やっときたんだぜ、コロッセオですよ!

 とはいえ、頭の隅には先日の黒人のことがこびりついている。もしまたグラディエーターと戦ったらギッタンギッタンにされてしまうだろう。

 多少ビビりながらコロッセオに行くと、黒人の時以上の衝撃が待っていたのである。俺は思わず口を開けて呆然としてしまった程ですよ。

 何と、そこにいたのは磯女だったのです。なんだってー。

 そう、私が手塩にかけて育てたあの磯女です。

 それにしても正面から見るとまたキモいんだこれが。茶色い肌が太陽に光りに照らされヌラヌラとテカっている様はマジでヤバい。観客もキモさに顔を背けているものすらいる始末である。

 今頃気づくの自体どうかとも思うが、何故下位命令権が効かないのだろうか? いままで俺はゾンビの身でスケルトンとかと戦ってきたわけだが、圧倒的な格上のはずである。なのに下位命令権は発動されなかった。

 どうなってんのだろう――と思ったけど、どうせ魔術師の魔術かなんかだろうからどうでもいいや。

 とにかく、オレは磯女と戦うことになってしまった。まぁ、結果は今オレが日記を書いてる通り生きながらえましたよ。とは言ってもギリギリだったけれど。

 オレは武器が使えることを皆知っているので剣を支給されました。磯女にも支給されたけど使う頭はないので徒手空拳。余裕余裕と思ってたんですが甘かった。

 なんと、奴は体のほとんどが骨のくせして凄まじい膂力だったのです。しかも固い。剣を腕の骨で受けて弾き返す。

 いやぁ、強いんですよ。

 実は強いのも当たり前。実況の悪魔さんが観客に説明していましたが、磯女は稀な進化をしたらしい。何と磯女は倒した敵と合体する方法で進化したそうで、普通とは違う派生に行ったそうな。

 種族名はなんか無職みたいな名前だった。ぷーた……だったかな?

 とにかく聞いたことない名前だ。

 合体進化自体が稀らしいが、その時、低確率で特殊派生に行くらしい。普通は合体進化しても2つ上に飛び級出来るだけのようだ。

 話を戻そう。その特殊派生は通常と違って進化先が一本道になる代わりに、普通の同ランクのヤツらより強いらしい。いわゆる隠しキャラだ。

 もうね。なんか、えーって感じですよね。

 部活で、自分って結構上手いとか思ってたら、マネージャーのほうが実は上手かったみたいな感覚ですね。ちょっと嫉妬します。

 でも、冷静になって考えてみたら、見た目があんなグロ面になるなら別に羨ましくないか。生前の自分の顔を思い出してしまうなぁ。

 おっと、いかんいかん。話がそれてしまった。俺のグロ話はどうでもいい。

 まぁ、話は戻って、俺は固い磯女に四苦八苦。少しずつは削れるのだが、ホントに微々たるものだ。このまま持久戦に持ち込まれたら、疲れを知らないゾンビ系相手はキツいぜ! 

 とか思ったが、そもそも俺もゾンビ系だった。相変わらずオツムは酷いので単調に腕をブンブン振り回したりするだけだけだから避けるのは簡単。お互い疲れを知らないので、その単調作業が永遠と続きました。観客は直ぐに白けてブーイングが始まる始末。

 結局試合は引き分けに終わりました。

 引き分けは経験値にならないので、今日も俺の進化はおあずけです。


 ◆七十六日目


 ああ、あのプリティーなゾンビっ娘だった彼女は何故こんなグロテスクになってしまったのだろう。対面の檻の磯女を見て改めて嘆きました。

 唯一の楽しみだった旗揚げゲームもできなくなったし、悲しくて目から膿が出そうです。

 でもちょっと待てよ。俺にはアリスが居るじゃないか。

 しかもオウム返しじゃない事が出来る……と思ったのだけれど、俺完全無欠のコミュ障だったということを失念していたで御座る。無念。


 ◆七十七日目


 昨日、断念した幼女遊びだが、よくよく考えたらアリスがいつもしてる一人遊びに加わればいいんだと思い当たりました。

 アリスは牢屋内では俺に話しかけるか、俺の真似をするか、両手を使って『ガシャーン』とか『やられたー』とか『姫を離せっ』とか言って戦ってるのでそこに割り込んでみた。

 勿論俺は『うー』しか言えないのだが、アリスが勝手に設定を作ってくれて戦ってくれるので、俺はその役に徹する。

 うむ、意外と面白い。それにしても客観的にはシュールな光景なことだろうな。


 ◆七十八日目


 イヤッホウ! ついに来ましたよ。

 進化ですよ進化。

 今日はコロッセオがあったのだが、あのウマウマな団体戦だったのです。そう、六対六のアレですよ。

 モチのロンですが、残った仲間は皆殺しです。死んでないから皆壊しか。

 まぁ、いいや。とにかく進化することになったのです。

 でも合体進化ではなかったのが残念だぜ、ガッデム

 選択肢は、グールかコープス。どっちにしようかと迷ったけど、知名度でグールにしてみた。

 見た感じは元のゾンビに戻ったような感覚だ。ただ、力が随分と強くなったし、体の強度も上がった。鉄格子を齧ってみると歯は欠けませんでした。

 それと、進化にともなって新しい技を覚えた。

 その名は変化。変化ですよ皆さん。世の中の変態の憧れです。

 おっしゃー! 美女ンビに変化してやるぜ、ぐっへっへ!

 と思ったんだけど出来たのは片腕だけだった。肘から先だけ妙に生々しい肌になっててこれはこれでシュールで気持ちが悪い。

 どうやって頑張っても結局片腕しか出来ない、ガッデム。


 ◆七十九日目


 今日は磯女がコロッセオ。五分程度で帰ってきた。おそらく瞬殺だったのだろう。

 ただ、何時もと違ったのは人間のものと思わしき足を持ち帰ってきたことだ。

 そしてあの食べるゴッコの開始である。

 いいなー美味そうだなーと密かに思ったのはここだけの話。よくよく見るとアリスも結構美味そうだ。いや、性的な意味ではなくてね。私はインポですから。

 一瞬食べようと思ったけれど、インテリの思い通りになるのも癪なのでやめておく。


 ◆八十日目


 筋トレやゴキブリを食べたり、幼女で旗揚げゲームしたり、おままごと的なものをしたりして過ごした。

 ああ、それと、磯女の下位命令権はなくなったようです。種族値的には格上でもランクは一緒的な?

 兎にも角にも今日も牢屋内は平穏。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ