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「え、それで今はその女の子と一緒に住んでんの?」と大きい目をもっと開いて、テーブルの向こう側から小川は僕に訊いた。
「そうだよ。」と僕は言った。
「なんで?」
「なんでって、特に理由はないかな。退屈だから。」
「そっかー。」
「あれ、納得しちゃうんだ?」
「いやまあ、しょうがないっしょ。」と小川は諦めた様子で言った。
しょうがないっしょ、というのが口癖の小川とは高校時代からの付き合いで、二十歳を超えた今でもよく居酒屋へ酒を飲みに行く。小川は長髪で背が高いのに無垢な少年のような顔をしていて、高校を卒業して大学へ進んだ僕とは違い、フリーターをしながらバンド活動をしている。いや、バンド活動をしながらフリーターをしている。どちらでもいい。僕は小川のバンドのライブを一度も観に行ったことがない。
「大学はどうしてんの?家族は?就職活動は?」
「大学はもう単位を全部取ったし、家族には適当に言ってある。就職活動は休止中。」
「休止中って何?将来どうすんの?」
「考え中。小川こそ、この先どうしていくつもりなの?」
「俺は今を生き切ることで精一杯なんだよ。」
「今も精一杯酒を飲もうじゃないか。」
「乾杯。」
「乾杯。」
乾杯、この一言をきっかけに僕らは現実や未来を忘れる。店内の騒がしさに紛れ込む。上手そうにビールを飲む。煙草に火をつけ憂鬱そうに煙を吐く。中身のない会話をしてゲラゲラ笑う。全てジェスチャーだ。
安いだけが売りの居酒屋で飲むビール。これを苦いと感じていたのはいったい何年前のことだったのだろう?