猪木の顎
前回の続き
「あれー、アイス枕どこだぁ。ぅゎぁ、なんか落ちた。なんか凍った魚が床に、床にぃぃ」
ドア越しになんか聞こえるが聞こえない振りをしておこう。なんとなく…、聞こえない振りをしておこう。
「話の続きでもするか…」
イタルさんは咳払いして言った。
是非お願いします。
「あの、ヘヴンにいるイタルさんの事を花子が知ってるって事は…」
「そう…花子もヘヴンの住人だ」
幽霊かよ。幽霊と生活して、幽霊に『部屋をくれ』って言われたのかよ。
「しかも、わしが来る前からいたから詳しい事は知らん」
「そうか…」
「最後に、なりたかった姿で人間界にいるのは、標準で一時間。想いが強ければその姿で長くいられる。だから標準を超える想いでここに辿り着いた事だけ覚えてほしい」
「…はい」
「わしはそろそろヘヴンに戻らなければならない」
「イタルさん」
「ん」
「なんか、ありがとうございます」
「ああ、頑張れよ」
イタルさん、すげーいい人だったよ。
花子がやっとアイス枕を見つけ出したらしく、部屋に戻ってきた。ってアイス枕溶けて水ポタポタじゃねーか。
「あれ、イタルさんは?」
「ああ、なんか消えた」
「そぅなの」
花子はまだ俺がヘヴンの事を知らないと思っている。
てか、いきなり自分の部屋にいるだけでも怪しいけど…、まぁ、いつか聞けるまでは知らない振りもいいかも知れないな。
「あっ、剛、今日の夕食は焼き魚ね。床に刺さってるから」
あのまんまにしてたよ。凍った魚。もう溶けてビショビショですよ。キッチン。
「あれは、私の好きなサンマだよね」
「あじだよ」
どう見ても長ぇだろ。