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Excellent!!!!!

先輩も、頑張れ。

高校に入って、初めての期末テスト。赤点を取れば、夏休みに補習。練習時間が削られる。ただでさえ俺は部活でヒーヒー言っているのに、補習なんて受けてる場合じゃない。というか。迷惑をかけるわけにはいかない。

……でも。数Ⅰと数Aが、分からなすぎる。本気で意味が分からない。だってこんなの、将来使う?使わないだろ??数学のクラス分けは、もちろん一番おバカクラス。周りも同じレベルだから、授業はぬるいし、先生もどこか呆れ気味。危機感が、ない。でも今はある。赤点だけはまずい。どうにか回避するには——

畠山だ。あいつ、数学いちばん上のクラスだったよな。

D組の教室。後ろの席の畠山に声をかける。

「俺、数Ⅰと数Aわかんなすぎて赤点取りそうなんだよ……課題も全然解けないし。今度教えてくれない?」

「いいけど」

少し首をかしげて、

「俺でいいの?」

……ん?その言い方、ちょっと引っかかった。けど、まあいい。

「むしろ畠山しかいない!」

そう言うと、畠山は普通に笑って頷いた。テスト前は自習時間が増える。畠山は、本当に丁寧に教えてくれた。こんなバカな質問しても一度も笑わない。式の意味から説明してくれる。俺こんなにアホなのに。ほんと、良い奴だよな。

そして期末テスト終了。コミュ英、現代文はまあまあ。副教科はほぼ90点以上。え、俺、勉強できるかも?と思ったら、平均点93点。なんだよ。全然すごくねえじゃん。問題の数学は——ギリギリ赤点回避。ほんとにスレスレ。

「畠山のおかげで赤点回避できたわ!ほんと助かった!」

「よかった。補習にならなくてよかったね。」

淡々としてるけど、ちゃんと分かってくれてる。


その日の部活終わり。ミーティングの最後に、佐々木先生お手製の部活通信が配られた。いつもは連絡事項が書いてあるのに。ん?なんだこれ。学年ごとに、期末テストの成績順で名前が並んでいる。

ただし——上位者のみ掲載。ありがたい配慮。成績が悪い奴ら(=俺)は載らない。よかったー、晒されなくて。

そして。目を疑った。


《1年 成績上位者》


1位 ファゴット 羽多野

2位 フルート 西野

3位 ホルン 須賀

4位 フルート 川瀬

5位 フルート 畠山

6位 フルート 藤田

7位 フルート 加藤


……は?フルート、独占しすぎじゃない?俺以外の5人載っている。西野、「全然勉強してない」って言ってたよな?大嘘つきじゃねーか!!かおりんも、あんな天然っぽいのに上位。川瀬、畠山、藤田は……まあ、納得。でも。俺以外、全員優秀ってどういうことだよ。

おかしょー先輩が感心したように言う。

「フルート一年、優秀だな」

周りからも声が上がる。

「一年フルート強すぎじゃん」

「すげーな」

そして。洸太先輩。

「おーいー、陽翔だけじゃん載ってないの。頑張れよーー」

「いや、洸太先輩だって載ってないじゃないですか!」

「あ、バレた?」

笑いが起きる。正直。載らなかったこと自体は、そんなに気にしてない。赤点回避できた。それで十分。

でも。改めて思う。俺の同期、優秀すぎるだろ。

川瀬は4位。……やっぱりな。なんか、あいつらしい。誇らしいような、悔しいような。でもまあ。俺は俺でいい。とりあえず、補習回避。それだけで今日は勝ちだ。



部活通信を受け取ったとき、最初はいつもの連絡事項だと思った。でも、目に入ったのは順位の一覧。成績順。

——ああ。

視線が、自然に自分の名前を探す。

4位。フルート 川瀬。

……4位。悪くはない。でも、良くもない。1位はファゴットの羽多野。2位は西野。西野は「勉強してない」って言っていたのに。やっぱりあれは嘘か。3位、ホルンの須賀。そして4位、自分。悔しい、というほどでもない。ただ。もう少し、いけた気がした数学のあの問題、あそこで迷わなければ。英語の長文、最後の設問を急がなければ。

「フルート一年優秀だな」

誰かの声が聞こえる。少しだけ、居心地が悪い。優秀、という言葉。自分に向けられるとどうしても違和感がある。勉強はやるべきことをやっただけだ。授業を聞いて、課題を解いて、復習して。それだけ。特別な努力ではない。当たり前の積み重ね。

でも。橋本の名前がないのに気づいたとき、少しだけ胸が動いた。……赤点は回避できたのかな。あいつ、数学わからないって言ってた。気にする必要はない。順位は順位。部活とは別。そう思いながらも視線が自然と橋本を探す。笑ってる。洸太先輩とふざけ合ってる。大丈夫そうだ。ほっとする自分に、少し驚く。

4位。悪くない。でも、それよりも。自分の順位より、橋本の赤点回避のほうが気になってしまった。それが少しだけ厄介だった。

部活通信を折りたたみ、鞄にしまう。成績は通過点だ。それよりも。明日の合奏のほうが、よっぽど重要。そう思いながらも。さっきの笑っている橋本の横顔が、なぜか頭から離れなかった。



橋本が川瀬に絡みにいったのを、後ろから見ていた。

「川瀬、4位じゃん」

軽い声。いつも通りの少し大きめのリアクション。川瀬は一瞬止まった。ほんの一瞬だけ。それを見逃す人は多いと思う。でも、自分は見えた。

「別に」

短い返事。橋本は気にせず続ける。

「すごくね?」

「褒められるほどじゃない」

ああ。と思った。温度が違う。橋本は思ったことをそのまま出す。すごいと思ったら、すごいと言う。面白いと思ったら、笑う。隠さない。

川瀬は逆だ。自分のことを評価されると、一歩引く。前に出ない。評価を受け取らない。橋本がもう一度言ったとき、川瀬の指が止まった。その細かい動きに、橋本は気づいていない。でも。川瀬は、ちゃんと動いている。内側で。

「俺はすげーと思ったけど」

橋本が少しだけ声を落とす。ああ、そこ。そこが一番まずい。川瀬の耳が少し赤くなる。否定するけど完全には拒絶しない。二人の間に、見えないものがある。まだ名前はついていない。でも、確実に何かがある。橋本はそれを、自覚してるのか、してないのか。たぶん、半分くらい。川瀬は、もっと自覚してる。でも、認めない。

「……面倒だな」

小さく呟く。自分のことじゃないのに。橋本は、人を動かすタイプだ。川瀬は、動かされるのが嫌いなタイプ。でも。橋本の言葉だけは、ちゃんと引っかかっている。不思議な組み合わせだ。正反対に見えて妙に噛み合っている。もし橋本が、もう少し本気で踏み込んだら。川瀬はきっと逃げる。でも、完全には離れない。そんな予感がした。

「佳樹ー、帰るぞー」

橋本が振り向く。

「うん」

二人はもう普通に戻っている。さっきの空気なんて、なかったみたいに。



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