恋みくじ
二人とも、おみくじ信じすぎ。
翌日。クリスマス当日。……だけど、そんなの関係なく、いつも通り部活が始まる。もう少し浮かれていたかったな、なんて思いながら。昨日のイルミネーションも、クリスマスマーケットも、全部ちょっと遠い出来事みたいに感じる。でも。ひとつだけ、頭から離れない。あのスタンプ。川瀬が送ってきた、クマのやつ。目、ハートだったよな。……絶対そうだよな。なんとなく気になって、声をかける。
「川瀬ー」
「ん?」
いつも通りの返事。
「昨日さ」
少しだけ間を置く。
「送ってきたクマのスタンプあるじゃん」
「……あー」
反応、薄い。
「なんか、目ハートになってたけど」
「……そうだっけ」
――は?一瞬、思考が止まる。
「わかんない。忘れた」
――は???そっけなさすぎる。昨日、あんなの送ってきたくせに。なんだよそれ。テディベア撫でてたやつと、同一人物と思えない。ほんとに忘れてんのか?それとも。……わざと?ちらっと横を見ると、川瀬は、いつも通りの顔で楽器の準備をしている。まるで何もなかったみたいに。……なんなんだよ。スタンプなんて、いくらでも種類あるだろ。なのに。わざわざ、あれ送ってきたんじゃないのかよ。
――あんなの送られたら。期待、するだろ。
……いや。別に、期待したわけじゃない。ただ。ちょっと、気になっただけで。……いや、気になってんじゃん。思考がぐちゃぐちゃになる。その間にも、部活は普通に進んでいく。……なんか、昨日のあれ。俺だけが引きずってるみたいで。ちょっとだけ、悔しい。
クリスマス当日。でも、部活はいつも通りある。昨日のことが、少しだけ遠く感じる。イルミネーションも、クリスマスマーケットも。……でも。ひとつだけ、ちゃんと覚えてる。目がハートのクマのスタンプ。送るとき、少しだけ迷った。これでいいか。なんとなく選んだ、ってことにしてるけど。……まあ、嘘。なんとなくなわけない。少しだけ、意図してる。橋本なら、気にすると思った。というか。
――気にしてほしかった。
案の定、朝から話しかけてきた。
「昨日さ、クマのスタンプ」
来た。でも。
「……そうだっけ」
とぼけてみる。理由は、特にない。強いて言うなら、意図して送ったって思われるのは少し恥ずかしかったし。もう少し反応を見たかっただけ。
「忘れた」
橋本の反応が、少しだけ変わる。わかりやすい。ああいう顔するから、やめられない。そのまま、少し時間が経つ。……そろそろいいか。
「……橋本」
呼ぶと、すぐ反応する。
「スタンプの話」
「別にもういいって」
拗ねてる。少しだけ、間を置く。
「……本当は覚えてるけど」
一瞬で、表情が変わる。ほんと、わかりやすい。
「さっき忘れたって言ってたじゃん」
「……言った」
「……嘘」
そのまま言う。驚く顔。
「なんだよその嘘」
「なんとなく」
正確には違うけど、説明するほどでもない。
「……気にするか、見てみたかっただけ」
ハートのこと。ちゃんと見てるか。気にするのかどうか。
「……あんなの、気になるに決まってんだろ」
「……まあ」
それでいい。目的は達成してる。でも。もう少しだけ、反応見たい。
「わざとだろ」
来た。
「……何が」
とぼける。少しだけ、間。
「お前、ちょっと性格悪いとこあるよな」
いつも通りカラッとした声で言う。
「……そう?」
否定はしない。なんか少しだけ、楽しい。
「俺の反応、どうだった」
その質問は、少しだけ予想外。……どうだった。一瞬考える。答えは、決まってる。
「……嬉しかった」
それだけ。余計なことは言わない。でも。それで十分だと思った。橋本の反応を見る。……あ。固まってる。
「……ほんと、わかりやすいな」
小さく、心の中で思う。でも。そういうとこ、好きだな。とは、絶対言えない。
『3、2、1、Happy New Year!!! 』
テレビの歌番組から銀テープの特効の音が響く。
「今年もよろしくお願いしまーす」
「で、あのー、例のアレは?」
新年早々、両親にお年玉をせびる。
「はいはい、どうぞ。大事に使うのよ」
「はーい」
受け取って、すぐスマホを開く。友達にあけおめメッセージを送る。……川瀬、起きてるかな。いや、あいついつも寝るの早いし寝てるだろうな。でも一応送るか。
『あけおめー』
『今年もよろしく!』
既読はつかない。まあ、そりゃそうか。部活始めは3日から。明日、というか今日は川瀬と初詣に行く約束をしている。俺ももう寝るか。
翌朝、目が覚めるとメッセージが来ていた。6時過ぎ。早すぎる。
『こちらこそ今年もよろしく』
それと一緒に、初日の出の写真。……綺麗だ。こういうのをわざわざ送ってくるところ、ほんとずるい。胸の奥が少しだけ温かくなる。
駅で待ち合わせて、初詣に向かう。去年の元日にはまだ川瀬と出会ってなかったんだよな、と思うとなんか不思議な気分だ。それより——寒いし、人多すぎる。さすが元日。
「人多いなー、ほんとさみー」
「うん」
人混みの中、少しずつ歩く。このままだとはぐれそうだな、と思って、軽く腕を伸ばす。
「……」
特に何も言わず、そのまま腕を組む。川瀬は避けない。出会った頃なら絶対避けてたはずなのに。……ちょっと嬉しい。
並んで参拝する。手を合わせて、目を閉じる。今年も家族が健康でいられますように。赤点だけは取りませんように。隣にいるやつが幸せでいられますように。
――できれば、両想いになれますように。
目を開けると、川瀬がこっちを見ていた。
「ずいぶん長くお願いしてたね、欲張りすぎ」
「だっていっぱいあるし。それに——」
「それに?」
「……いや、なんでもない」
「なにそれ、気になる」
「川瀬は何お願いした?」
「教えない」
「うわ、ケチ」
……まあいい。どうせ言わないだろうから。
おみくじが目に入る。
「川瀬、おみくじ引こー」
「……うん」
カラカラと振って、番号の紙を取る。
「っしゃあ!!大吉!!!」
思わず声が出る。
「ちょっと見せて」
そう言われて二人で中身に目を通す。
——待ち人、当方から尋ねよ。
……ん?一瞬、目が止まる。これは、自分から行けってことか。さっきのお願いごとが頭をよぎる。
——両想いになれますように。
……まあ、いいか。紙を軽く折りながら、小さく息を吐く。だって、俺から行けばいいんだろ。そのまま隣を見る。
「川瀬は?」
「……小吉」
明らかにトーンが低い。
「中身は?」
「……」
少しだけ間があって、二人で中身に目を通す。
――待ち人、来ず。
ピシャリ。思わず顔を見る。
「……なにこれ、よくわかんない」
目を逸らしたまま、少し不機嫌そうに言う。いや、それ俺と真逆じゃん。俺は“行け”。こいつは“来ない”。変な間が空く。無言。というか、明らかにテンション下がってる。
「凶じゃないだけいいじゃん」
「……しらない」
腕を組もうとすると、今度は避けられる。え、そんな?ちょっと焦る。そんなに落ち込むか普通。でも、顔見ると本気で悔しそうで、ちょっと涙目になっている。なんか……かわいいな、って思ってしまう。
「もっかい引く?」
「……引かない」
完全に拗ねてる。どうすんだこれ。少し人の少ない方に移動しながら、なんとか機嫌を戻そうと考える。
「俺さ、さっきお願いしたんだよ」
「……なに」
「川瀬が今年も幸せでいられますようにって」「……なにそれ」
「大吉の俺がお願いしたんだから、絶対効果あるだろ」
「……ふーん」
「あと、ずっと仲良くいられますようにって」
「……」
少し間があって、川瀬が視線を逸らす。
「あと、今年いいことあったら」
「……うん」
「それ、全部半分ずつってことでいいじゃん」
「……なにそれ、意味わかんない」
そう言いながら、少しだけ笑う。……てか、
「待ち人こないならさ」
「……なに」
「俺が行けばいいだけじゃん?」
そのまま続ける。
「大丈夫、俺が行くから」
言ってから、少しだけ静かになる。
「……は?」
川瀬が小さく反応する。声はいつも通りなのに、ほんの少しだけ間がある。
「なにそれ」
「いや、だってそうだろ」
「来ないなら、こっちから行けばいいじゃん」
できるだけ軽く言ったつもりなのに、川瀬は何も返さない。
「……」
少しだけ視線を落として、何か考えてるみたいな顔。……あれ。
「川瀬?」
「……別に」
そう言いながら、俺のダウンの裾をきゅっと掴む。顔はいつも通りなのに、指先だけ正直すぎる。
「ほら、機嫌直せって」
「……悪くないし」
「いや悪いだろ」
「……橋本がうるさいだけ」
でも、裾は離さない。そのまま少し歩く。
「……橋本」
「なに」
「さっきの」
「どれ」
「……今の」
少しだけ間。
「……ほんとに来るの」
「は?」
何言ってんだこいつ。
「行くって言っただろ」
「……そうじゃなくて」
言葉を選ぶみたいに、一瞬黙る。
「……なんでもない」
「なんだよそれ」
答えないまま、少しだけ近づいてくる。……ほんと。わかりにくいくせに、わかりやすい。
川瀬に待ち人が来ないなんて、俺にとってチャンスでしかない。大吉の俺が行くから、そこで待ってろよ。




