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第55話 彼らを別れさせる方法


短髪にリムレスの眼鏡をかけ、紺色のポロシャツにグレーの八分丈のズボン…




少し荒れた肌は、お世辞にもイケメンとは言えないい風貌だ。

中年太りはしていないものの、なんとなく緩んだ体がだらしない。




それから二人で生ビールと何品かを適当に頼んで、他愛ない話を少しした。





一杯目のビールを飲みほした頃、彼がふと私に話を振ってくる。


「梓ちゃんってホントキレイだよな…。昔はてっきり、女優にでもなるのかと思ってたけど…」


「やだな。褒めすぎですよ。私なんて全然です」


「いや、それでいてこんな仕事もできる女ってそうそういないよ?今“インフィニティ・コネクト”の役員なんだろ?その若さですごいよな?」


「でも…所詮女だから…」


「いや、あそこ最近勢い凄いし…梓ちゃん創業メンバーに近いらしいじゃん。そう言えばあの代表と噂になってるけど…あれって、ほんとなの…?」




彼は確かめるように、SNSで騒がれている凱斗との噂を尋ねて来る。

遠慮がちだが、記者の目が鈍い光を放っていた。




彼はかつてファッション誌にいたけれど、今は週刊誌に異動になっている。

日ごろからネタに飢えていて、常にアンテナを張り巡らせているようだ。




私はそれに目をつけた。





「あぁ…あれね…」


私は小さな声になり、“あまり言いたくない”とジョッキに口をつけた。



「えっ、なんで?玉の輿だし、やっぱ梓ちゃんだよなぁって思ってたんだけど…」




彼の好奇心の目が、きらりと光る。




「私…もう疲れたの…」


そう言って彼の手にそっと私の手を重ねた。


「えっ…」


「私は、ホントは岸谷さんみたいな人が、一緒にいて安心できる人なのかも…」


「梓ちゃん…」


「彼ってね…すごく遊び人なんだ…」


「あぁ…なんかそんな感じだよね…でも、彼の事知ってるやつに聞いても、案外遊んでないって言うんだよな…梓ちゃん大事にしてもらってんじゃない?」





彼はそう言って、ジョッキに口をつける。





大切にされてるってその言葉に、桜庭花凛の顔が浮かんだ。



「ねぇ…」


「ん?」


「私…ここだけの話…」


「……」


「彼に捨てられそうなの…」


「えっ…」


「実はね…私…妊娠したかもって言ったのね…」


「えッ!?もしかして、胡蝶凱斗の子??」


「他には絶対言わないでくれる?」


「…うん…言わないけど…」




…って言っても、言うだろうけど。




「他に好きな人ができたから堕ろせって…そう言われて…酷くない??それって私が遊ばれてたって事なんだよね??」


「でも…梓ちゃん、胡蝶凱斗の彼女って事で周知されてるじゃん…」



「…できたって聞いて、ウザくなったのかも…」


「酷いな…それ…」


「…別れてくれって…」


「嘘だろ!?絶対そんなの、言いなりになっちゃダメだよ!酷い奴だな!胡蝶凱斗!!」


「私、岸谷さんみたいな人にすればよかった…」


「えっ…」


「なんか私ってダメなやつだね…甘い言葉に惑わされちゃって…」


そう言って目を潤ませたら、真剣な顔で私を見てる岸谷さん…

彼が私に気があることは、前からうすうすと気付いていた。


「……」


「だから私…仕事ももう、辞めようかと思ってるの。目障りだからって海外に飛ばされそうなんだ…」


「そんな…絶対に泣き寝入りしちゃダメだ!俺、梓ちゃんの味方だからね!」




そうよ…




男はみんな、これが普通…




なのに…味方どころかあんな女の為に、私の事を突き放すなんて…

胡蝶凱斗…絶対に後悔させてやるわ!!



「梓ちゃん…俺にできる事なら何でも言って!!なんか許せないな…調子に乗ってるんだろ!あいつ…」


「私も…誰にも言えなくて悩んでたの…でも、岸谷さんなら頼りになりそうだなって…」


「こんなつらい話、良く話してくれたよ…」


「私…これから彼がその人と幸せになるの、黙って見てなきゃいけないんだね…」


「奴の女って、どんな子?モデル?女優?」


「地味な一般人…」


「そうなんだ。意外だな…」


「高校の同級生なんだって」


「え?それって胡蝶凱斗の純愛??」


「そんなわけないでしょ。その子は凱斗のお金目当てよ」


「あー…だろうな。梓ちゃんはお嬢様だからそんなの関係ないだろうけど…地味な一般人ならなぁ…胡蝶凱斗も金持ってるし、実家も極太だもんな…」


「そんなの…どうでも良かったのに…」


「梓ちゃん…」


「なぁに…」


「この話、俺記事にしたら怒る?」


「やめてー。私の事が広まっちゃうよぉ…」


「もちろん、梓ちゃんの名前は伏せるよ!だけど、あいつがやってる事懲らしめてやらないと!」


「そんなの…『女性自信』に乗せちゃうって事?」


「あ、言ってなかったっけ…俺今『週刊文襲』にいるんだ」


「え?女性自信じゃなかったの?」


「あ…俺出版社前のとこやめて、今こっちに」

彼は私に、名刺をそっと差し出した。


「週刊文襲…」


これなら女性自信よりも影響力がありそうな気がする…


「梓ちゃんの事は、絶対に名前出さない。世間からしたら”誰だこれ”ってくらいにするから…」


「でもぉ…そんなの…凱斗がぁ困っちゃうよぉ…」


「そんなひどい事されてんだよ?!いいから、ちょっと詳しく話聞かせてくれない?」


「私の事じゃなくて…それならそっちの子の事書いてくれない…?」

「なら、ちゃんと取材しないとなぁ…どこの誰だかわかってんの?名前とか…」


「桜庭花凛って言ってね…」


「桜庭…花凛ね」



彼は鞄から手帳を取り出し、そこに彼女の名前を書き込んだ。



「戦コンにいるみたい…」


「戦コン?!めっちゃ話題になるなそれ!!」


「それでね…」


こうして岸谷さんは、私の話に乗ってきて凱斗の事を記事にすると息巻いていた。


そこには「凱斗の秘書」ではなく、一社員Aとしてあくまでも私を守って書くって…

それからこの次に音声を録画させてほしいと。


私はこれが、凱斗と桜庭花凛との決定的な別れに繋がるとそう信じて疑わなかった。




二人は絶対に別れる事になると―――



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