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第42話 帰国後のオフィスで


日本への到着は、予定通り午後3時。


空港に着いた俺は、入国手続きを済ませ、迎えの車の後部座席に(あずさ)と乗り込んだ。





時刻は4時前―――


一度、佐田(さた)瀬島(せじま)小野寺(おのでら)に軽く報告する為、三人が待ってる麻布台のオフィスに向かう。





少し渋滞していたこともあって、到着したのは4時半をまわっていた。





花凛との約束が5時。

それにはどうやったって、間に合いそうにない。



俺は、”オフィスに寄るから少し遅れる“とだけ彼女にLINEした。





今回の成果や今後の課題を一通り説明すると、最後に小野寺から質問がいくつか出た。


彼は、京都大学経済学部出身で、米国のMBAを終了した優秀なやつだ。



外資系投資銀行でM&Aや資金調達を手掛けた後、より事業創出に関わりたいと転職した。

俺のビジョンと経営センスに惚れ込んでくれて、バックオフィスの体制を一から構築した立役者だ。


資金調達、PL管理、株主対応、バリュエーション分析など、経営の根幹を担う。




冷静沈着で理論派。

数字で語るが、情にも厚い関西人だ。




俺の無茶振りにも基本NOを言わない。




「凱斗、莫大な資金は、組織の急拡大を可能にする。だけどこれは同時に、コントロールを失うリスクを孕んでる。


凱斗のビジョンを実現するためには、強固なバックオフィス体制がこれからは不可欠だな」



最後に、小野寺はそう言った。

ガバナンス(企業統治)の強化や、内部統制の徹底の重要性についてだ。


「わかってる。お前がそう言うなら、それは間違いないな。そっちはすべて任せるから」


「わかった」



「他に意見はないかな…」


俺のその言葉に、そこにいた全員が小さく頷く。

それを確認してから、俺は目の前のパソコンを閉じた。



時刻は、もうとっくに午後6時を回っている―――



俺はみんなが部屋から出て行くのを見送ってから、スマホを手に取った。



かけ慣れたはずの番号に、少し鼓動が早まる―――


≪…はい…≫


「あ、俺…今仕事片付いた。どこにいる?」


≪家…≫


「じゃあ、俺そっち行っていい?」


≪うん…≫





ほんの少ししか離れてなかったのに、なんだか数年ぶりに話したみたいによそよそしい…




梓の事は、LINEで説明することもできた。

でも、時に文字は誤解を生みやすい。




こんな時は、絶対顔を見て話さないと…





「じゃあそうだな…タクシー使うから30分以内で行けると思う」


≪わかった≫





花凛の返事を聞いて、俺はスマホをポケットに入れ、側に合ったスーツケースに手を添えた。


部屋を出ようとドアノブに手を掛けた時、その扉は突然開く。



「梓…」


「話があるの」




彼女はそう言うと強引にCEO室の中に入ってきて、扉を閉めた。




「俺、今から花凛のとこ行かないと…」


「その前に、私に聞きたいことあるんじゃないの?」





彼女はそう言って胸の前で腕を組むと、俺の行く手を塞ぐ。



聞きたいことなら山ほどあった。

だけど今、そんな暇はない。




「今度でいいよ。どいてくれ」


「あのSNS、なんて言い訳するの?」


「……」


「LINEニュースにもなってるし、凱斗のいう事なんて言い訳にしか聞こえないと思うわ」


「言い訳も何も、俺はお前とは何にもないから」


「彼女、あの日の朝連絡してきたの。私寝起きの声で間違って出ちゃって…」


「寝起き?」


「変な誤解、されてないといいけど…」


「ていうか、お前何?なんで急にそんな事するんだよ!」


「急にじゃないわ!」


「……」


「凱斗が私の事、馬鹿にするからでしょ!?」


「別に馬鹿になんて、してないだろ!大体人のスマホに出るとかどうかしてる!!お前中見ただろ!!」


「忘れるそっちが悪いのよ!!」


「はぁ??」


「私、”凱斗と寝ちゃった”ってあの子に言ったわ!どう収集つけるのか楽しみね!!」






そう言って梓は俺を睨みつけると、胸を突き飛ばして部屋を出て行った。





「は?!お前ちょっと待てよ!!」





その時、ドアの外にいた佐田が目を丸くしてこっちを見ているのと目が合う。



あいつ…




「くっそ!何だよ!!」




一体どうしちゃったんだよ…

馬鹿にされた??って俺が、いつ??





凱斗(かいと)…声外まで聞こえてた…」





佐田がそっと扉を開けて、窺うようにして聞いてきた。





「……」



「何があったんだよ…」



「外他に、人いた?」



「あ、いや…俺だけ。瀬島と小野寺は先に帰った」



「ごめん…お前にはまた後で話す…俺、花凛のとこ行かないと…」




俺がそう言うと、佐田はホッとしたような笑みを浮かべて俺の肩に手を置いた。




「気を付けてな。お疲れ…花凛ちゃんによろしく―――って…



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