第17話 ムラムラが止まらない
花凛が大好きな『ヴァンパイア』
何度見たかわからない。
大昔の白黒物から、最近のイケメンヴァンパイア、またはアニメまで…
花凛は昔っからヴァンパイアが大好きだ。
昔は部屋にニンニク置いてたもんな。
料理にでも使うのかと思ったら、魔除けだって…
あれめっちゃ笑ったわ、俺!
久しぶりに二人で見るネトフリ。
朔に勧められてた「ファーストラブ」。ちらっと家で一話見たらなんかきゅんと来てさ。
俺これ絶対花凛と見よう!って…そう思ってたのに
結局またヴァンパイア…
毎回大してストーリー変わんないんだよ。
ドラキュラが昼間寝て、夜血吸って、光浴びて死ぬ。みたいな…
花凛、ティモシー・シャラメ好きだからな。
今回はやつの主演とか…
花凛は恋愛映画だって言うけどどうせ…
俺はスマホでその映画を軽く検索してみる。
どれどれ…
『話題作!!美しきヴァンパイアの、愛と死の記憶―――
……永遠の命は、その禁忌によって失われた。』
なんだよこれ。また結局、太陽浴びて死ぬんだろ。
怖いシーンとかないだろうな…
「話題のR18」
R18??
え??笑
ヴァンパイアのR18??
『めくるめく話題の官能シーンの撮影についてインタビュー…』
…めくるめく話題の官能シーン??
「部屋明るくしてあげるからぁ~」
花凛は、俺がホラー嫌がるの知ってるから、電気つけてくれるって…そう言ってるけど…
暗い方が雰囲気出るよな??
なんせR18だし!
「あ―――…別に…そんなだと気分でないだろ。ヴァンパイア…だしな…」
エロだしな。
「いいの?!」
そんな花凛は、俺が同意して大喜び。
こうして部屋を暗くして、見始めた『ヴァンパイア』
オープニングから花凛は、食い入るようにして見てる。
でもなんだかんだ言ったってホラーだよ!
残忍なやつめ。最初のうちみんな血を吸われて死ぬし。
男は殺されがちだし、狙うは女の血ばっか!
≪ギャー―――!!お前はヴァンパイアだったのかーーー!!≫
って、言ったやつ首切り落とされるし!!
怖えー!!
最初の30分はめっちゃ恐ろしい…
何がR18だよ!
って言ってたら…だんだんホラー要素無くなって来た。
―――俺としては、一安心だ。
落ち着いてきたところで、俺はそっとワイングラスを口に付け、一口喉に流し込む。
それにしても…花凛ティモシー・ザラメのとこがいいんだよ。
さっきから、女にエロい事ばっかやってる変態ヴァンパイアだ、これ。
でもこれ、マジでムラムラするな…
おまけに、こっから視界に入るのが花凛の生足とか!
女の首筋を這うザラメの唇…
うわっ…って声出しそうなシーンばっか!
花凛の部屋のテレビって、何故かこの部屋に似つかわしくない存在感なんだよ。
兄貴が買ってくれたって言ってたけど、見る暇もないのに65インチ!
しかも俺達二人で、黙って並んでこれ見てるとか、どんなシチュエーションなわけ??
とか思ってたら、ふと視線感じて隣の花凛と目が合った。
花凛は咄嗟に目を逸らして、俺の隣で背筋を伸ばして映画を一生懸命見てる。
…花凛好きだもんな、ザラメの事。
ってふと画面見たら、濃厚なキスシーン。
唇のドアップってどんだけなんだよ…
こんなもの見てたら俺も…
軽いキスならいつでもしてるけど、こんなの最後にいつやった??
いや…それより、俺たち最後にいつしたよ?
ちょっと待て…3か月前か??
あれからなんか、花凛機嫌悪いんだよな…
忙しいのもあってなかなか会えないし、かといって会ってもすぐ帰るし…
なんか俺の事、ここんとこ避けてたんだよ…
だから余計に相楽の事が気になったって言うか…
ザラメ…そんな俺を煽りやがって…
「花凛…」
「えっ!?」
「ザラメがさ…」
俺を煽るんだ…
「ザラメ??」
花凛…発音普通に「粗目」って言ってるし…。
「まぁいいや」
「え?」
はぁ…俺、今夜なんもなしとか無理だから。
こんなの見せられて――花凛何ともないのかな…R18。
「ちゃんと見な」
そのシーン…
そしてその気に…
「私…」
「え?」
「あ…ふぁ…私…なんだか眠くて…目が…。凱斗一人で見てて…」
はあ??
お前が、これが見たいって言ったんだよな?!
あれ見て見ろよ…お前のザラメが今好き勝手やってんのに…
って思ってたら、それからすぐに俺の気も知らないで、ふっと目を閉じた花凛。
…こうしてみるとすっぴんだからか、高校の時とあんま変わらない…
あの頃男に人気あったんだよなぁ花凛。
高校から入学した子知ってるか?って、ちょっと噂になってた。
――でも、今こんなことできるの…俺だけだし。
咄嗟に、側にいる花凛に俺は思わずキスをした。
それにふと目を開けた花凛が、俺をじっと見つめてる…
こんな時に流れてるのが…さっきの洋楽でも、backnumberでもなく…
後ろのR18とか…
「花凛…寝ないでよ…」
頼む…寝ないでくれ…
「凱斗…」
「お前…一度寝たら絶対起きないじゃん…」
「……」
「ザラメ最後まで見ろよ…」
「だって…」
「ん?」
「面白くないんだもん」
「は?お前が見るって言ったんじゃん」
「だって…思ってたのと違う…」
「俺も思ってたのと違ってたわ。もっとおどろおどろしいと思ってたら
エロばっか…」
そう言ったら、花凛が少し照れたように苦笑いした。
「じゃ、違うの見よ」
そう言って、パッと顔色を変えた花凛が俺の向こう側にあるリモコンを取ろうとしたから、そっと押し返して、そのまま左手をその頬に添えた。
花凛の肩に伸ばした右手は、そのまんまだったから
なんだか彼女を、包み込むような感じになる。
俺の腕の中にすっぽり入った花凛は、“何?”って顔で俺を見た。
それがすっごく無防備で、かわいくて…
―――あんな映画見せられた俺は、もう制御不能だ。
テレビから流れる英語のセリフは、いつの間にか切ないものに変わっていて…
≪あなたがいないと、俺は生きていけないんだ…≫
って…ザラメが叫んでる…。
花凛も聞いてるよな?
相手の女優も、泣きながら言ってる。
≪私も…≫って…
俺も…お前がいないと生きていけないと思う。…花凛…
ゆっくりと、味わうように彼女に重ねた唇…
――俺は、そのままゆっくりと彼女をソファに押し倒した。