第1話 頼れる同期
――新しい連載、始めました。
今回は「現代恋愛」です。
金曜日の午後八時過ぎ。
業務後、同期の相楽君と私は、軽く食事をすることにした。
そこは大手町駅に直結した複合ビル1階にある、ワインと小皿料理のバル。
店内は木目調の内装で、落ち着いた雰囲気だ。
ガラス越しにちらちらと街の明かりが揺れ、金曜の夜だという事もありほとんどのテーブルが埋まっている。
私と相楽君は、窓際の二人掛けのテーブルに案内され、向かい合って座った。
BGMは、洋楽ポップスが控えめに流れ、適度なざわつきが二人の会話を自然に守ってくれている。
相楽恭平は私の同期で、同じ部署ということもあり、“頼れる親友のような存在”だ。
彼は、東京大学で国際関係論を専攻し、語学力と論理的思考力に優れたエリート。
幼少期は父親の海外赴任に伴い、アメリカやシンガポールなどで暮らした経験を持ち、異文化理解やグローバルな感覚を自然と身につけている。
私も海外生活の経験があったため、自然に彼と意気投合した。
「私、今日プレゼン…緊張して声裏返っちゃった。やっぱりそれ、聞こえてた?」
一杯目のワインをグラスに半分ほど口をつけた頃、切り出した仕事の話。
私は、目の前の相楽君の顔をそっとのぞき込む。
「んー、バレてたけど問題なしだろ。クライアント、納得してたし。」
「ほんとに?」
「むしろ、声震えてた割に中身しっかりしてた。あれ、完璧に論点整理したでしょ。」
「うん。今朝、朝方までロジック固めたもん。」
「お前、今日それで寝坊したのか?」
「あー。もうそれ…。言われたくない。」
私が顔を伏せいじけてると、ワイングラスをくるくる回しながら、相楽くんがクスッと笑った。
「なんか今日は、俺たち久しぶりに人間らしい夜かもな。こんだけ働いてたら、寝坊も寝落ちもするだろ普通。」
―――相楽君は優しい。
失敗すれば励まし、困れば手を貸してくれる。
まるで私の守護神みたいだ。気を遣わずにいられる。だからこそ、恋とは違うと思っていた。
仕事帰りに誰かとご飯を食べるなんて、いつぶりだろう。
私の毎日は、タスクとプレッシャーと、少しの自己嫌悪でできている。
そんな私を引っ張り出してくれるのが、相楽くんだった
私は目の前にある、トリュフポテトを一口。
「お前、ほんとそれ好きな?必ず頼むし。」
「だって。違うもの怖くて頼めない。」
そう言うと、相楽君は声を出して笑った。
「なんで?いろんなもの食べればいいじゃん!」
「どうして、頼まないんだろうね?私。」
「俺が、聞いてんの!」
目じりを下げながら、彼は私の額を指先でついた。
相楽君とのご飯は、いつも気楽で楽しい。
穏やかで、私の事を決して否定したりしないし、
仕事の事もだけど、不思議と悩みも色々相談出来た。
――そう…
凱斗のこと以外は。