青年と黒魔術の書 ~お願いですっ、俺も仲間に入れてくださいっ!
今は昔。時は昭和から平成にかけて。
黄昏時の薄暗闇に隠れるように付近の様子を偵う不審な青年がひとり。
「くっ……まだ人通りあるか……。
もう少し、もう少しだけ人が捌けてからだ……」
──一時間経過……
「よし、付近に人の気配は……ないな……。
漸くだ。いざ、戦場に参らん!」
疾風も斯くあらんという速やかさでその建物の門を潜る青年。気分はスニークミッションのそれである。
第一の関門は突破。
だが、彼にとってはここからの行動こそが本番だ。
窓際に位置する目的地に到り深くフードを被り直す。
「しかし、何故こんな目立つ場所にこんな区画を設けるかな。これじゃ外から丸見えじゃないか。
まあ、春は近いがこの時間ならば然程訝しがられることもないはずだ」
呟きを零す青年。
だが、目的の物を手に入れるためとあらば仕方がない。
然り気ない素振りを装いながら周囲を細心の注意で偵う。
そのような中での、最適な物を選び出すという行為は彼の神経を擦り減らす。
仮令それが数少ない中からの選択であったとしても。
──数十分後……。
「よし、これだ。
……おっと、ダミーを忘れるわけにはいかないな」
選んだそれを隠すようにしてダミーで挟む。これで潜入に続く第二の関門は突破だ。
だが彼には、これより最大の難関が待ち構えている。
逃げ出したい思いを必死に抑え込みつつ受付へと向かう。
足は重い。胸の熱い想いさえも忘れさせる程に。
「なあっ?! なんでこんな時間に居るんだよっ!」
驚愕のあまりに叫びそうになる声を辛うじて呑み込んだ青年は偉大だ。
彼の目にしたものは受付の男性の前で話し込む若き女性。おそらくは下校中の女子高校生といったところか。
相手の男性店員が青年と然程変わらない年齢に見えることと、笑顔で仲睦まじく会話をしているところをから推測するに、バイト先の彼氏を労いに訪ねて来たという感じであろう。
「くそっ! 目の前でイチャイチャしてんじゃねぇよっ!
さっさとどけっ! 俺の前から消えて失せろっ!」
こんな本音を口に出せればどれだけ好いことだろう。
どす黒い嫉妬に胸を支配されるものの、遉にそれを表に出すわけにもいかず、青年はただ鬱屈とした憤りに顔を顰める。
そんな彼に更なる追い討ちが掛かった。
「お待ちのお客様~、こちらへどうぞ~」
いかにもおばちゃんといった感じの女性店員に悪意は欠片もないのであろう。ただ単に業務に忠実なだけだ。
精算を済ませコンビニを後にする青年の背後で、女子高校生たちがどんな反応をしていたかについては敢えてここでは語らないこととする。
──その日の夜……
「なっ……なんじゃこりゃーーーっ?!!!」
敗走の末、自宅に辿り着いた彼には更なる悲劇が待ち受けていた。
彼の手にした戦利品である禁断の書物。そこには黒魔術の形跡があったのだ。
消しゴムに始まりシンナーによる解除さえも試す青年。
だが、そんなことをすれば──。
「ギャーーーっ!!!」
当然ビリッていくことになるわけで……。
──その後の彼が黒いインクを扱う業界を目指したかどうかは不明である。
海援隊のとあるコミックソングを元にした作品です。
……これって著作権とかどうなるんでしょう?