4杯目.仮想≒現実
昔見たSFや小説の中で見た世界、仮想現実。ここでは自分のなりたい姿になり、なりたいように生きていかことができる。
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「よし、今日も可愛い!」
私は鏡にうつるピンク色の髪を見て笑顔で街へ出ていく。私がなりたい可愛い顔に可愛い髪、これがこの世界での私の姿なのだ。
「ラーラさん!こんにちは!」
「あーケロロックさん!今日はいつもより潜るの早いですね?」
「仕事も早く終わってさー。」
この世界での友人のケロロックさん。現実の世界では会社で経理をしているそうだ。
「それはよかったですね!ここのところ残業続きでしたもんねー。」
「あはは、まぁ。そうだね」
「あっ、すみません。リアルの話はあんまりしない方がいいですよね。」
「いいよいいよ!私がいつも話していることだし。それより今日はどこかフィールドにでるの?
「うーん。今日は街で過ごすつもりです。」
この世界はフィールドにいるモンスターを倒して成長をしたり、街の中で生活をしたりお店を開いたりそれぞれがファンタジーの世界で自由に過ごすことのできる。私はモンスターを倒したりするよりも街の中を散策したり部屋を飾ったりすることの方が好きなのだけれど、たまに必要な材料とかをとりに近場の森を回ったりすることもある。
「そうなんだ、了解!私はちょっと東の洞窟の方にいってこうかな。」
「そうなんですね。あの…もし、アメジストが取れたりしたら少し分けてもらえたりしないですか?」
「うん!全然いいよ。」
「ありがとうございます。作りたいものがあるんですけど数が足りなくて。」
「あー。まぁ、アメジストが取れるダンジョンは少し難しいもんね。わかった!そこは私に任せて!」
「頼りになります!」
「いいっていいって!ラーラちゃんの可愛いコーデとかお部屋とかセンス良くてみにいくの楽しいからさ!これもそういうのに使うんでしょ?」
「はい!今度はこういう感じにしたくて…。」
私はケロロックさんに部屋の構想に必要なアイテムを見せる。
「おぉ!やっぱセンスある!ほんと憧れるよ」
「なんだか照れくさいですね。」
ケロロックさんはこんな風にいつも私のことを褒めてくれる。
「ラーラちゃんにリアルでもあってみたいよね!可愛くて部屋もおしゃれでしょ?」
「いや〜そうでもないですよ。」
「謙遜しちゃって!」
私のおでこをツンとする。
「まぁ、とりあえずアメジストたーんと取ってくるから楽しみにしててね!」
手を振りながらケロロックさんは洞窟の方へむかっていった。
私は戦闘をしたくてこのゲームをしているのではない。この世界でなりたい自分になって可愛い顔で可愛い部屋で理想の自分としてすごすため。部屋は私の好きなパステルピンクを基調にしたメルヘンな部屋だ。
「あー。最高。」
こんな可愛くて楽しい世界。仮想とわかっていてもこの世界の居心地がよくて抜け出せなくなっていった。
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VRのゴーグルを外して現実世界に戻る。部屋を見渡すくしゃくしゃのTシャツやシーツ、汚れに汚れたカーペットやカーテン。なんだかどんよりとしている。時計を見ると20時を回っていた。学校から帰ってすぐにVRの世界に入っていたのでまだ夕飯も食べていない。私はよろよろと立ち上がって台所に向かう。このところカップ麺ばかりを食べている気がする。お湯を注いで3分待っている間にトイレを済ませて手を洗う。否応なしに鏡に自分の姿が映る。私は自分の顔が嫌いだ。だから現実世界の私の顔なんて見たくない。鏡なんてなければいいのに。あっちの世界なら毎日見ていたいのに。こんな世界はもう、どうでもいい。
私はまたカップ麺を啜ってVRの世界へとまた向かっていった。
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今日も大学を終えて帰る。早く仮想の世界へと行きたいからだ。SNSを開けば誰が可愛いだとかそんな話ばかり。生まれ持ったルックスでずっと優劣をつけられてずっと苦しむ。私は自分の顔が嫌いだ。誰に何を言われたわけではないけどずっとずっと好きじゃない。
家へ帰るとすぐに仮想の世界に入るためのゴーグルを装着する。その時に急に思った。
ーー私にとっての現実はもうここじゃなくて向こうにすればいい
向こうの世界は理想のなりたいようになれるし、いつでも可愛くいれる。みんながそれぞれ自分の可愛さで過ごせるんだから。もう、こんなつまらない"現実"なんか捨てて向こうで生きていけばいいんだって。そんな気持ちでVRのゴーグルをつけた。
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VRの世界に入るとメッセージが届いていたので待ち合わせの場所へと行く。
「あっ!いたいた!」
私を見つけるとケロロックさんがこちらへとかけてくる。
「ほら!頼まれてたアメジスト持ってきたよ!」
「ありがとうございます!」
取り出した袋にはたくさんのアメジストとピンクのダイヤ、エメラルドが入っていた。
「これは?」
「えへへ!おまけおまけ!たくさん取れたからさ!」
「ありがとうございます!助かります。なかなか鉱石とかは高くて。」
「いいよいいよ!私にできることがあればいつでも頼んでね!」
ケロロックさんが笑顔をこちらに向ける。冒険者として本当に頼もしい限り。あまり、外に行けない私にとってケロロックさんは本当にありがたい存在だ。
「部屋でよかったら休んでいきます?」
「えっ?いいの?」
「はい。お礼に紅茶をご馳走します。」
「おっ!いいね!行く行く」
私の部屋へケロロックさんを招待する。途中に前に見つけた美味しいケーキを買っていった。
「お邪魔します!うわー。やっぱり可愛いね。部屋。」
「ありがとうございます。」
「こういうセンスはほんと皆無だからさ。」
紅茶を口にしながらケロロックさんが部屋を見渡して褒めてくれる。
「部屋を褒められるのはとっても嬉しいです。ケロロックさんにも色々資材を分けてくれてたおかげです。」
「いやいや、そんなんでいいならさ!いくらでもだよ。」
私は少し得意気だった。
「そういえば、知ってる?なんか他の人の部屋とかも見れるシステムあるらしいよ?」
「えっ?知らなかったです。」
「なんか、この世界のSNSみたいな?んー。モデルルーム的な感じて公開できるんだって。」
「へぇー。初めて聞きました。」
「まぁ、冒険な情報以外はあんまりまわんないこともあるからね。街の東の方にあるところで見れるらしいよ。」
「ふーん。」
「まぁ、らーらさんも興味あったら行ってみたら?多分らーらさんなら人気になれるよ。」
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ケロロックさんに言われたそれが気になって東の方に向かった。そこにはたくさんの可愛い部屋がモデルルームように飾られていた。
「うわー。すごい。」
入り口のタブレットのようなもので検索をすれば自分の好みの部屋がたくさん出てくる。自分よりもずっとおしゃれで可愛くて、眩しくて。
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次の日から、私は部屋を改造し始めた。どこに誰に見せるわけでもないけれどもっと可愛い部屋にしたくなったから。
「よし!できた。」
やっと満足できるものができた。これで大丈夫。とっても可愛い。
「やっほー!」
ケロロックさんが家へ尋ねてきた。
「お、部屋変えたんだね〜!」
「はい。ちょっと気分を変えて。」
「今回もかわいいね〜!なんか世界変わった感じ!」
「ありがとうございます。」
嬉しい、褒められるととっても。そうだ、またあのモデルルームに言ってみよう。きっと多分私の部屋が1番可愛い。
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それから少し経った頃。
「ねぇ、らーらさん。」
「どうしましたか?」
「大分部屋…変わったね。」
モデルルームの部屋を見るたびに私は部屋を何度も何度も作り直した。そのうち元々の原型がなくなっていった。
「い、いやいいんだよ。らーらさんが気に入ってるならそれで。でも、私はその、最初の頃の部屋がすきだったかな…。」
「そう…ですか。」
「それにさ、あの、らーらちゃん今は街であってもわかんない時があるから。」
あれから私は何度も自分のアバターの顔のパーツも変えた。前までは何にも気にならなかったのにモデルルームで他人の部屋を覗いてからは街を歩く人たちの顔も気になって仕方がなかった。そうすると、いつのまにか自分の顔を可愛いと思えなくなっていった。
「ごめんね、私モデルルームなんか紹介しなければよかったね。」
「どうしてですか?」
「……ううん。なんでもない。また、くるね。バイバイ」
ケロロックさんは部屋から出て行った。空虚となった部屋を見る。
ーーーあー。全然可愛くないな。
私は今日も部屋を壊して、また顔を作り直してこの新しい"現実"の世界を生きていく。